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30 約束の印、つかの間の別れ
10月下旬の早朝、
怜は琴音の運転するクルマに乗って成田空港へ向かっていた。
ロンドンでアルバムを制作するバンドのサポートメンバーとして、怜もこれから1か月にわたるレコーディングに参加することになっていた。
流れ去っていく夜明けの街を眺めながら、怜はかすかな笑みを浮かべている。
「ロンドンは寒いんでしょ?」
ハンドルを握った琴音が訊くと、
「ああ、そうだね」
怜が楽しそうに答えた。
このごろ、怜はまた変わったような気がする。
明るくなった。
琴音のことも知人に「俺の彼女」と紹介していた。
「さっきから、なんか楽しそう」
「そう?」
「いいことでもあった?」
「別に」
「そう...?」
怜は答えず、ただひとり微笑んでいる。
遼一はまだ眠りの中、か。
それとも早く起きて訪問の準備をはじめているだろうか。
今日は昼から遼一が愛していない彼女の実家に挨拶に行く日だ。
それは怜と遼一にとってはどうでもいいことだった。
ふたりの関係には何の意味もない。
ロンドンから帰ってくれば、またふたりは抱き合うだろう。
それは怜と遼一が体で誓い合った約束だった。
互いの体に刻んだ見えない印。
唇に諒のキスの感触がよみがえる。
怜は唇の端にひそやかな笑みを浮かべた。
see you .




