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25  よみがえる罪の記憶

「なら、もう駆け落ちでもしちゃえば?」


リリコが声をあげて笑った。


暑さもおさまってきた日の夜、リリコが来た。

一昔前のナースのような白のワンピース。

「これ、いちおう、コスプレ。リリコ、パーティだったの」

言って、パンストを下ろし、脱ぎ捨てる。

「蒸れるの、これキライ」

顔をしかめた。


「で? かわいこちゃんは何だって?」

ワンピースも脱ぎ、キャミソール姿になったリリコが、ソファでビールを飲んでいる遼一の横に腰を下ろす。

「会いたい、って」

「会えばいいでしょ?」

「会っても、なあ?」

「やだなあ、なに初心(うぶ)ぶってんの?」

アメリカ人がするように、リリコが両手を広げる。

「リリコ、そういうとこ、わからないな」

「会ってどうすれば?」

「呆れた、一晩いっしょに過ごした仲なのに」

「一晩、って喫茶店だけどな」

遼一がくわえタバコを指に挟んで、言いなおす。

「なんでそこ、ホテルじゃないわけ? まず、そこ」

「連れ込め、って? 無理だろ」

「なんで無理なの?」

リリコは簡単に言うが、

「だって、俺、男なんてはじめてだし」

「はあん、男子中学生モードなんだ、今」

「茶化すな、って。こっちは真面目に悩んでんだから」

さすがに遼一も男性の経験はないし、女の経験は役に立ちそうにない。

「なんとかなるんじゃない?」

リリコはお気楽なものだ。

「そんなの、やっちゃったもん勝ちよ?」

「無責任なこと言うなよ」

「だって、リリコは何も責任ないもの」

「だよな」

タバコの煙といっしょに遼一が溜息をついた。


このところ、毎日のように、

「今日、会える?」

LINEが届く。

届かない日はおそらく怜の仕事が入っている日だ。

「今日はちょっと無理、ごめん」

遼一がLINEを返す。

その繰り返しだ。

「今日は無理」がいつまで続けられるか難しいところだ。


会ったら。

ふたりで食事、でもないだろう。

公園を散歩でも、映画でもない。

怜が望んでいるのは恋人のデートではないのだ、たぶん。


「そんなにアタマで考えてるから、よけいなこと考える」

「考えるためにあるんだけどな、頭って、ふつうは」

遼一が弱々しく反論する。

「さんざん女と遊んできて今さら」

「女とは違うだろうが」

「やることなんて大して違わなくない?」

「違うと思うけどな」

「ふたりで裸になるのよ、わかった?」

リリコが当たり前のことを当たり前のように言う。

「で、裸になったら、何するの?」

「キスだろ?」

「はい、正解。で、次は?」

「愛撫かな」

「そう、愛撫」

「そこから先は?」

「男と女の違いなんて凸と凹のあるなしだけよ」

「それが、いちばん問題なんだけどな」

「そうやって、ずっと悩んでれば?」

リリコが立って、冷蔵庫からビールを取り出す。


怜は男性の経験はあるのだろうか?

キスをしてきた動作は自然だった。

だが、キスするのは男も女も同じだ。

キスに馴れているだけか。


べつに行為に嫌悪感があるわけではない。

知識も経験もなく、単純にわからないのだ。


それ以前に、怜は、緋沙子の息子だ。

あまりに罪深いのではないか、さすがに遼一も思わずにいられない。

しかし、それを怜に告げることはできない、絶対に。


このことはリリコにも教えていない。

緋沙子と遼一ふたりだけの罪、永遠の秘密だった。


背徳――。


緋沙子とも世間的には不倫だった。

他にも人妻とも何人か付き合ってきた。

帰る家庭のある女の方が、結婚を望む独身女よりも別れが楽だったからだ。


それなのに、今さら。


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