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20  パーティ、そしてふたりは

クルマのCMが社内のフィルム広告部門賞に正式にノミネートされた。

発表は年明けになる。


気の早い制作局の仕切りで内輪の打ち上げが催されることになった。

クライアントも招き、新橋の小さなイタリアンレストランを貸し切り、アルコールと軽食を用意した30名規模の立食パーティだ。


「やあ、おめでとうございます」

クライアントの井田が遼一に声をかけてきた。

「ありがとうございます。こちらこそ、おかげさまでエントリーできました」

「それにしても、すごい反響でね、うちにもポスターが欲しいって問い合わせが多くて」

井田は上機嫌だ。

「尾崎の音プロの社長、紹介させていただきたいんだけど」

井田が会場を見渡し、初老の男を見つけると目で招いた。

「こちらミウラプロダクションの三浦さん、こちら、営業部の中川さん」

紹介された三浦は、

「本日はお招きいただき、ありがとうございます、三浦です」

名刺を差し出し、頭を下げる。

生成りのリネンのスーツにグレイヘアが洒脱な印象だ。

「中川です。こちらこそ、おかげさまで、どうにかノミネートまで漕ぎつけました」

「いえいえ、このたびはお世話になりました。今後ともお引き立てお願いします」

「ええ、ぜひまたお願いします」

答えながら、遼一は怜の姿を目で探していた。

あちらこちらで、グラスを手にした参加者たちが談笑している。

制作プロダクションの周囲でひときわ大きな歓声があがっていた。

怜の姿は見えない。

今日は来ていないのか、内心で軽く落胆している遼一がいた。


「えー、ご歓談中のみなさま、今日はスペシャルゲストを呼んでおります。

今回のCMで素晴らしいギターを弾いてくれた尾崎怜です」


マイクを持った井田が呼びかけると、いっせいに拍手が起きた。

照明が落ちた次の瞬間、店の奥にあるステージスペースに、ブラックスーツ姿の怜がギターを肩から下げ、スポットライトに照らされて立っていた。


CMの240秒ロングバージョン版がリフレインで、続いて即興の演奏が終わった後、

店内の照明が明るくなった。


「俺、避けられてんのかと思ってた」


ふたりの視線が出会うと、どちらからともなく歩み寄っていた。

遼一は会場の片隅に怜を連れて行った。

「脚、よくなったみたいだね」

「まあね」

今日が怜の復帰後、初仕事だった。

「避けてたわけじゃないよ」

「じゃなかったら、何?」

怜は不機嫌を隠そうともせず、遼一の顔を見つめ返してきた。

「キミのこと忘れてたわけじゃないんだけど」

遼一が言葉をついだ。

「そんなふうに思わせてしまったんならすまなかった」

「すぐ、そうやって謝るんだな」

怜は納得のいかない顔つきだった。


「なら、これから、ふたりで抜け出す?」

「あ、いや、それは、こっちは主催者側だから」

「言うと思った。冗談だよ」

怜がからかうように笑ってみせた。


散会後、2次会に流れていく一行を見送り、帰宅する怜を送っていくことになった。

タクシーを呼ぶと言う井田を止め、

「中川さんに送ってもらうから、だいじょうぶです」

先回りした怜が、約束があるかのように断ったからだ。

「じゃ、中川さん、お手数かけますけど」

井田に挨拶されては遼一もノーは言えなかった。


地下鉄で帰るという怜に付き合って、遼一もいっしょに駅に向かって歩き出した。

ギターケースは怜が自分で持っている。

「避けていると思われたのは俺のせいだな」

「連絡もしてこないし、来たと思ったらモデルの仕事、って」

「悪かった。ただ、わかってほしいのは」

遼一は息を整えて続けた。

「キミが俺に何を求めてるのか、わからないんだ」

熱を残した夜風が怜の髪の毛をなぶっている。

「彼女いるんだよね? だったら」

「いるけど、だから何?」

「何って」

「俺、中川さんのこと、好きだよ」

「好き、って、いきなり」

「中川さんのほうこそ、どう思ってるの?」

「どうって、どうなんだろう、正直いって困ってる」

「俺のこと、嫌い?」

「嫌いじゃないよ」

「だったら、好き?」

「好きの意味にもよるだろうね」

難しい顔をした遼一を見て、

「ごめん...」

怜が唇を噛んだ。

「べつに謝らなくていいよ」

「...迷子になっちゃったみたいだ」

立ち止まった怜が虚ろな目をして言った。


次の瞬間、怜の左頬を涙が静かに伝い落ちた。

遼一は無意識のうちに右手を伸ばすと、怜の頬を包み、黙って親指の腹で拭った。

「泣くつもりじゃなかったのに」

かすれた声で怜がつぶやいた。


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