表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/31

19  彼が彼に恋をして

「それは、ね」

リリコが一拍おいて、

「世間じゃ恋って呼ぶの」

くすぐったそうに笑った。

「恋、って」

遼一は手にしたタバコを取り落としそうになった。

「そんなこともわからないなんて、ね」

リリコが出来の悪い生徒を見るような目で見る。

「あっちは男だぜ?」

「だから?」

「だって」

「好きになるのに男とか女とか関係ある?」


ほかの誰にも話せないことでも、リリコには素直に話すことができる。


怜が遼一の会社を訪れた日、真夜中にリリコはやってきた。

「外まだ暑いのよ」

リリコはノースリーブのカットソーに膝丈のハーフパンツで、バッグをリビングのソファに放ると、冷蔵庫から勝手に缶ビールを取出した。


遼一とリリコは珍しくリビングのソファに並んでビールを飲んでいる。


「リリコ、やっとわかった」

ひとり、うなずく。

「ずっと苦しかったのは、その彼のせいだったんだ」

遼一は無言で吸いもしないタバコの煙を目で追っている。

「好き同士ならハッピーじゃない?」

「そうはいかないだろ」

「なんで? リリコ、わからないな」

「高校生じゃないんだ」

「だから? 大人だから? それが何?」


リリコが喉を鳴らしてビールを飲んだ。


「まだ恋を知らない男の子に戻ったちゃった?」

「そんなふうに見える、俺?」

「見える」


遼一自身、怜が恋しくもあり、その反面、怖くもあった。

これ以上、互いに接近していくのが怖かった。

あんなに焦がれていたというのに。

今になって怖気づいていた。


怜からのLINEに返信できないのもそのせいだ。


「リリコ、知ってるよ」

「何を?」

「ハッピーじゃない理由」

黙り込んだ遼一がビールに口をつける。

「全部が欲しいんでしょ? 彼の全部」

じれったそうに、リリコが言った。

「ゼロか100か、どっちかじゃなきゃイヤなんでしょ?」

「ゼロか100?」

「何もない、ゼロ、でなかったら、マックスの100」


――ただひとり、緋沙子とは100と100で愛し合っていた。

ふたりの時間は、この世にふたりきり、互いがすべて、だった。


他の女たちは、どうだったろう。

遼一を愛した女たちは、遼一本人を愛したというよりも、遼一の恋人である自身を100で愛したのではなかったか。


「50愛しても愛されても、それじゃ不幸なんでしょ? 50を幸せと思う人もいるのに、あなたはそれじゃ満足できない、きっと、そう」

「だったら、俺はどうすればいい?」

リリコの前では教えを乞う小学生並みだ。


リリコは新しいビールを開け、口をつけた。


「結婚しても幸せにはなれない、って前に言ったの、覚えてる?」

復習の時間。

「今、目の前にあるのは『平凡な地獄』か『危険な地獄』の二択」

「どっちも地獄って、それじゃ選びようがないな」

「じゃあ、どっちも選ばないって選択もあるかな」

リリコが新しいビールで喉を湿し、

「結婚は50が幸せなの、50を幸せと思わないとやっていけない。

でもそれじゃあなたは幸せじゃない、地獄みたいなものね。

彼とどうにかなっても彼の100手に入れられるかな」

そう言い、たしかめるように遼一を見た。

「100あげても、100返ってこない、彼、悪い男かも」

「怜が」

「そう。彼にとっての100はたぶん音楽、でしょ?」

「だろうな」

「あなたは彼にとって100じゃないし、なれないかもよ」

「じゃあ、どうすれば?」

「だから。50でいるしかないの、地獄でも、ね」

「100だったら」

「そではそれで地獄でしょうね、その子とあなたとじゃ」

「ゼロでいい、って言ったら?」

言いかける遼一の胸を、リリコが人差し指で軽く突いた。

「残念。もうゼロじゃないもの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ