16 事故、その後
都心の一等地に立つ自動車メーカー本社、
屋上には強い日差しを浴びて社旗が垂れていた。
「中川さん? 知ってます?」
「尾崎の事故」
宣伝部に顔を出すと、レコーディングで一緒だった井田がわざわざデスクを立ち、遼一のもとにやってきて顔をしかめてみせた。
「尾崎さん、って、尾崎怜さん、ですか?」
「そう、怜ちゃん、事故っちゃって」
聞いて遼一は息が止まりかけた。
「事故、っていつですか?」
「先週」
「先週」
遼一は機械的に繰り返した。
「バイクに轢かれそうになって、で転倒」
「容体はどうなんでしょう」
「脚やっちゃって、入院中。次の日、僕も見舞いに行ってきたんですけどね」
「それで、どんなようすでした?」
「どんな、って。左脚に包帯ぐるぐる巻きで、点滴して」
「点滴」
「鎮痛剤。左脚がいちばんひどくて、腕やら、あっちこっち包帯巻かれて痛々しい姿で。
でもまあ、頭は打ってなくって、打撲で済んでよかったっちゃ、よかったですよ」
井田の口調がさほど深刻そうではないということは、後遺症が心配されるようなひどい重傷ではない、そう思ってもよさそうだ。
「でね、あいつ、救急車に乗せられるのにギターどうしても離さなくて、ギターケースごと病院に運び込まれた、って。あいつらしいな、って」
井田が呆れたように苦笑した。
メーカー本社を出たところで、自販機でふだんは選ばない甘い缶コーヒーを買い、一息に飲んだ。
怜が入院している。
今すぐにも駆けつけたい衝動に駆られたが、会いに行くわけにはいかない。
入院となれば、身内が出入りしていることだろう、もちろん母親である緋沙子も。
最寄り駅へ歩きながら考えた。
そもそも、自分は怜にとって身内でもなければ友人ですらない。
何者でもない。
ただの部外者だった。
遼一は今さらのように自分の立場を思い知らされた。
陽炎の中、遼一は立ち尽くしていた。




