14 幸せが似合わない男
繭子と食事してタクシーで送ったあと、遼一は久しぶりにリリコに会っていた。
二週間近く連絡がとれなかったあいだ、リリコがどこでどうしていたか、遼一は訊かないし、リリコも話さない。
部屋に入ってきたリリコは遼一が脱ぎ散らかしたシャツを床からつまみあげ、興味なさげな顔つきでまた床に放り捨てた。
リリコはそういう女だ。
繭子なら、床に汚れ物を見つけたら黙って洗濯機に入れるだろう。
リネン類も毎日洗濯して、柔軟剤で仕上げ、きれいに畳む姿が目に浮かぶ。
比較に意味はない。
リリコはリリコで、繭子は繭子なだけだ。
「ははん、何か怖いことあったんだ?」
リリコがベッドに腰かけ、タバコを吸っている遼一を見下ろす。
「そんなふうに見える?」
「不安そう」
「不安、か」
当たっていなくもない。
「俺、結婚するかも」
「ふうん」
「幸せになれるかな、俺?」
タバコをビールの空き缶で揉み消し、リリコを見上げる。
「幸せになりたいの? 結婚して?」
リリコは意外そうに遼一を見た。
「結婚しても幸せにはなれないよ」
「そっか」
「結婚しなくても幸せじゃない」
「何それ?」
「いい男には幸せが似合わないの」
この世の真理でもあるかのように、リリコはきっぱりと言った。
「幸せになれない男なのよ」
「それじゃあ困る」
「だってしょうがないでしょ、いい男に生まれちゃったんだから」
愛おしそうに、リリコが遼一の頬に片手のひらを当てた。
「受け入れなさい」
怜は――――。
バーの片隅でいたずらめいたキスを交わしてから、怜からは音沙汰がなかった。
連絡先を交換することもなく、怜は去っていった。
遼一は怜のプライベートな連絡先を知らない。
在籍している音楽プロダクションか、自動車メーカーの宣伝部の井田にでも教えてもらえば、としても適当な口実がない。
そうまでして連絡をとったところで怜はどう思うだろう。
自分でも怜に会ってどうしたいのかわからないのに。
あれは酔いにまぎれた戯れだったのか。
怜本人はもう忘れているのかもしれない。
――――過ぎたこと。
だからこそ、繭子に会う踏ん切りがついたのかもしれない。
会えば会ったで、また新たな葛藤が生まれたけれども。
「また自分に嘘ついてる」
「何が?」
「結婚なんて、らしくないかな」
ぐいと顔を近づけ、リリコが遼一の目を覗き込む。
「ホントは違うよね」
「ホントって?」
「さあ、ねえ?」
謎めかして言うと、遼一の耳たぶをしゃぶり始める。
「ほかにいるんだ、ね?」
耳元で声が囁いた。
「好きなひと」
遼一の手がリリコのノースリーブのワンピの背中のジッパーを器用におろす。
「俺が好きなのはリリコだよ」
「ほらね、そうやってはぐらかす。それが自分に嘘ついてる証拠」
リリコが体をひねってワンピースを脱がせやすくする。
自分から下着を脱ぎ捨てると、リリコが遼一の胸にもたれてきた。
「今日は私のこと、その人だと思っていいよ」
「いや、そんな」
「いいのよ」
リリコが遼一の唇の輪郭をなぞるように舌先で舐め、つーっと滑らせて、喉元から胸へと下りていく。
胸から、さらにその下へ、と。
その人。
思うと遼一の胸が甘い痛みとともに疼いた。




