夢の中、ロングアイランドアイスティーの味
度々、同じ夢を見る。
バーの夢だ。
僕はカウンターに座り、ロングアイランドアイスティーを頼む。いつもそうだ。
マスターは、すっとそれを僕の前に置く。まるで最初からそこにあったみたいに。
不自然なほど唐突に置かれたロングアイランドアイスティーは、艶やかで優雅な匂いと色で、僕の五感を刺激する。
一気に飲み干す。
冷たい匂いと、凛とした感触が僕の喉を通る。
「とても美味しい」
そう言うと、マスターは軽く会釈して、別のお客様にまた別の飲み物を提供する。
そして夢から覚める。
朧げにゆらゆら揺れるその夢は、いつしか僕が寝る時の楽しみになっていた。
ある日、またバーの中にいた僕は、また同じものを頼む。
マスターは言った。
「あなたは、同じものばかりでよいですか?」
初めてマスターから言葉を聞いたので僕は驚いたが、こう返した。
「それでいいんです。同じで、同じがいいんです」
マスターはドリンクを作った。飲んだ。美味しい味だ。
ふと、後ろから声をかけられた。
婦人がそこに立っていた。真っ黒なドレスを着たその人は、「彼と同じものを」と言って僕の横に座った。
「あなた、毎日来ていない? 大丈夫?」
僕は答えた。
「大丈夫です。今のところは」
マスターは僕と婦人にロングアイランドアイスティーを提供して、別のお客様の相手をしに行った。
「あなたは、なぜここに?」
僕が聞くと、彼女は答えた。
「肺ね。これを飲んだらすぐ行くわ」
そう言って一気に飲み干して席を立った。
「じゃあ、元気でね」
婦人はそう言って、バーから去っていった。
また次の日にバーに来た。最近ずっと同じ夢を見ている。
先に誰かが座っていた。男の子だった。僕はその子に見覚えがある。
「あっ、今日会ったよね」
その子は言った。
「君はなんでここに?」
「よくわからないけど、悪性腫瘍なんだって」
僕はその子の横に座った。
「もう長くないの?」
「うん、まあ、仕方ないよね」
その子はアップルティーを飲んでいた。僕はいつものロングアイランドアイスティーを飲んだ。
「ねえ、それ美味しいの?」
「うん」
「いいなあ。僕も飲める年まで生きてたかったなあ」
その子は寂しそうに言った。
そして全部飲んだあと、その子はバーから出て行った。
そして僕も夢から覚めた。
いつもの天井。点滴が僕の腕に張り付いていた。
今日も病室で、一日が始まる。




