涼夏(季節の変わり目①)
晴れて先輩、否! 大和さんの彼女になって早一ヶ月。
デートしたり、絆を深めて仲睦まじく生活している。と言いたいとこだけど、私も大和さんも夏休みが終わり、それぞれの生活で忙しく、バイト先でしかまともに会えてない。
バイト先でも、仕事中に私語はできず、大和さん不足ですッ!
電話で話すにしても、家には家族がいるから、大きな声で愛を叫ぶ訳にもいかない。
正直、大和さん不足が深刻だ。早急になんとかしなければ!
「今日は五十嵐くん休みだから、早乙女さん忙しいかもだけど、よろしくね」
社員さんの江本さんが、休憩室に入ってくるなり、衝撃の言葉を発した。
「五十嵐さんお休みなんですか!? ど、どうして」
バイトでも大和さんに会えないとか、干からびて死にそう。
「風邪引いたらしいよ。季節の変わり目だからかなぁ。早乙女さんも気をつけてね」
江本さんは、私の内心を露知らず、何かの書類を手に持って、休憩室から去ろうとする。
「……五十嵐さんの家ってどこですか?」
「突然どうしたの!? 個人情報だから教えられないけど」
そんな江本さんをドアを押さえて引き止めると、彼はたじろぎながら、当然の言葉を返してきた。
「ですよね……すみません。仕事、頑張ります」
「うん、よろしく……」
辛い。
幽鬼のごとくふらつきながら、休憩室を後にする。
背後から江本さんの訝しげな視線を感じたけど、私は干からびる寸前で、対応する元気もなかった。
◆◆◆
「私、五十嵐さんの家知ってるよ。教えてあげようか?」
バイト終わり、パートの百瀬さんがそう話しかけてきた。
大和さんを心配する私の独り言を、聞いていたらしい。
「え、いいんですか? ぜひお願いします! でも、なんで百瀬さんが、五十嵐さんの家を?」
二人にどんな接点が? 主婦の百瀬さんと大学生の大和さん、繋がりはこの書店だけだと思うんだけど。
「たまたま? 私の家が近所にあって、五十嵐さんが家に帰るの良く見かけるんだよ」
「なるほど」
一瞬、百瀬さんに失礼な誤解をするとこだった。
彼女は地図まで書いて、大和さんの家の場所を教えてくれた。
◆◆◆
大和さんは一人暮らしだと、以前電話で話した時に言っていた。
風邪でダウンしてるなら、自炊も儘ならないんじゃないかと考え、バイト終わりスーパーに寄ってから、大和さんの家に向かった。
百瀬さんに教わったアパート。大和さんが住んでるらしい部屋のチャイムの前で、一度深呼吸する。
体調悪いときに迷惑かも。でも、久しぶりに顔を見たい。会いたい。おかゆとか作って、看病したい! 許してくれるかな……。
目を閉じてチャイムを鳴らす。
「どなたですか」
ほどなくして大和さんの掠れた声が聞こえ、ドアが開いた。
「涼夏さん?」
驚きの滲む表情でこちらを見る大和さん。
壁を支えに立ってる様子から、体調が相当悪いことが窺えた。
「お、お見舞いに来たんですけど」
「ありがとう……でも、移すと良くないから──」
「や、大和さんッ」
そのまま前のめりに倒れてくる彼を、大慌てで抱き留める。
無理させてしまった! くっ、この体勢は辛い。いや、ここは根性でどうにか、大和さんを布団に連れて行ってあげないと。
◆◆◆
なんとか大和さんを布団に寝かせることに成功した。
いやー、大変だった。大人の男性の重さ、舐めてました。大和さんが申し訳なさそうに、耳元で謝って来るのも別の意味で辛かったけど。
「涼夏さん、助かったよ……だけど、もう帰ったほうが……ッ」
大和さんは最後まで話せず、口を押さえて苦しそうな咳をする。
テーブルの上には薬の袋と熱さまシートが置かれていた。
病院には行けたみたい……良かった。でも、こんな状態の大和さんを放置して帰りたくない。お母さんには連絡入れてあるし、とりあえずおかゆだけでも作らせて貰おう。
「私は大丈夫なので、大和さんはまず自分の心配をしてください。何か食べましたか? 台所貸してください。おかゆで良ければ作ります」
「……ありがとう。お願い……していい?」
「はい。大和さんは寝ててくださいね」
限界だったのか、大和さんはこくりと頷き、瞼を閉じた。
薬はもう飲んだのかな、後で聞こう。百瀬さんが大和さんの家、知ってて良かった。今度お礼言わないと!
台所に向かいながら、部屋の中をしげしげと眺める。
勉強机には沢山の書籍とパソコンが置かれていて、そこ以外は綺麗に整理整頓されていた。
卒論の研究とか? 頑張り過ぎて風邪引いたのかも。大和さんらしいなぁ。あんまり無理しないで欲しいけど、そんなとこも好き……。




