大和(夏祭り③)
思いもよらない写真撮影の後、早乙女さんと雑談をしながら、会場に向かって歩く。
彼女との会話で、中学時代、家族と回った屋台を思い出す。
まだ小学生だった妹と、幼稚園児だった弟があれやりたい、これ欲しいとはしゃいでいた。
俺はそんな弟妹と手を繋いで歩いていたが、妹に『もっとゆっくり歩いて』と文句を言われた記憶がある。
過去の経験から、自然と早乙女さんの歩幅に合わせていた。
会場に着き、道脇で立ち止まる。
ベンチでもあれば、そこで休憩できるけど。無さそうだな。早乙女さんの靴は下駄だから、疲れてないか心配だ。
様子を伺うと、彼女は目を輝かせて大丈夫だと答えてくれた。
その後、そわそわしだした早乙女さんが「射的がある!」と混雑した人混みに踏み込もうとする。
ちょうど体格のいい男性が、横にいる人と会話しながら歩いて来ていて、このままだと彼女とぶつかりそうだった。
とっさに早乙女さんを引き寄せ、男性に視線を向ける。
こちらに気づいたらしい男性は、軽く頭を下げて謝ってきた。
会話に夢中だと、周囲を気にかけるのが疎かになるのは分かるけど、屋台には小さい子どもやお年寄りもいる。もう少し気をつけて歩いて欲しい。
内心そう思いながらも、無難な会話でその場を切り抜けた。
「い、五十嵐さん」
去って行く男性の後ろ姿を目で追っていると、腕の中から早乙女さんの震える声が聞こえてきた。
はっとして腕の中を見る。
潤んだ目の彼女と目が合い、慌てて腕の力を抜く。
彼女を抱き締めていた腕が熱い。
無意識に腕をさすりながら、祭りを楽しむ早乙女さんの後を追う。
射的の景品を狙って、集中した表情で銃を構える彼女の姿は勇ましく、金魚すくいで金魚を追う姿は、一生懸命で輝いて見えた。
一緒にかき氷を食べて、その冷たさにお互い顔を見合わせる。
りんご飴を買い、頬を緩めて飴を見詰める早乙女さんは、可愛らしかった。
◆◆◆
気づけば辺りは暗くなり、屋台の灯りと人々の熱気だけが、暗闇の中ぼんやりと浮かび上がっていた。
ひと息つきながら空を見上げる。
大きな音と同時に、色とりどりの輝きが暗闇を切り裂いた。
花火だ。
早乙女さんの方を見ると、彼女も花火に気づいたようだった。
穴場を知っていると、早乙女さんが案内してくれる。
時々立ち止まりながら辿り着いた場所は、神社の境内だった。
人の気配はほとんどなく、静かに花火を眺めるのにうってつけの場所だった。
今日は楽しかったな。早乙女さんも楽しかっただろうか。
「早乙女さん」
花火から目を逸らし、彼女の方を見ると、熱のこもった眼差しと目が合った。
ああ、俺は早乙女さんのことが──
その目に吸い寄せられ、思わず奪ってしまった。
彼女の顔が見られない。
「好き……です」
だけどこれだけは、しっかり伝えないと。
早乙女さんの顔を見て、口を開く。
「俺と付き合ってください」
戸惑ったように揺れていた彼女の目から、透明な雫が零れ落ちる。
「喜んで。最高の誕生日プレゼントです」
早乙女さんは泣きながら微笑んだ。
まって、それは聞いてない!
「ごめん、プレゼント用意してない」
「今日この日に五十嵐さんの彼女になれたのが、私にとって最高の贈り物なんですよ。ありがとうございます」
満面の笑みを浮かべる早乙女さん。
一生彼女には頭が上がらない予感がした。
来年こそは、ちゃんと彼女の誕生日を祝おう。
大和視点、夏祭り完結です。
お読みいただきありがとうございます。




