涼夏(夏祭り③)
思う存分先輩の写真を撮ったあと、私たちはやっと会場に向かって歩き始めた。
「五十嵐さんは屋台で何食べたいですか?」
「かき氷とか、りんご飴かな」
「いいですね!」
なにその選択、可愛いか! 照れくさそうに頬をかいてるのも、可愛いなぁ。
「早乙女さんは何を食べたい?」
先輩がゆっくり歩きながら、こちらを見てくる。
歩幅を合わせてくれてるのかな。
「うーん、私もりんご飴ですかね」
たこ焼きとか、いか焼きも食べたいけど、浴衣を汚したくないし、乙女心的にもこの選択が一番だよね。
りんご飴、食べてみたいのも本当。この歳まで、実は一度も食べたことがないから。いつか食べたいと思ってたんだよね。先輩と食べれるなんて、本当に今日は良い日だ。
「じゃあ、屋台見つけたら一緒に買おう」
「そうしましょう!」
会場に近づくにつれて、子どものはしゃぎ声や、祭りの音楽、屋台の呼び声などのざわめきが大きくなってきた。
「着いたね」
「着きましたね」
先輩が通行の邪魔にならない道脇で立ち止まる。
どうしたんだろう。疲れたのかな?
「歩くの疲れてない? 大丈夫?」
私の靴が下駄だから、心配してくれたんだ! うわぁ、尊いっ。
「五十嵐さんがゆっくり歩いてくれたので、大丈夫です。ありがとうございます!」
危ない、勢いで抱きつくとこだった。落ち着け、落ち着け。
「あ! あそこに射的がある! 先輩、行きましょう!」
煩悩を鎮めながら、きょろきょろして丁度いい屋台を発見した。
「早乙女さん! 危ないっ」
射的の屋台しか見てなかった私は、何が起こったのかも分からず、横にいた先輩に抱き留められた、みたいだった。
「すみません、ぶつかりませんでしたか?」
知らない男性の声。申し訳なさそうな声が聞こえる。
「大丈夫です。混雑してるから、こういう事もありますよね」
「ですよね。では」
先輩と知らない人はそんな会話を交わし、知らない人は去って行ったらしい。
状況を考えるに、私は不注意にも人とぶつかりそうになったようだ。
先輩が助けてくれなかったら大惨事だったかも。
でも、私今、先輩に抱き締められてる! そんな場合じゃないのに、頬が熱い。
「い、五十嵐さん」
「……っ。ごめん!」
先輩が慌てた様子で腕を緩めた。もうちょっとあのままでいたかったな……。
「そんな。助けてくれたんですよね。ありがとうございました」
浮かれ過ぎてた。気をつけよう。
人とぶつかりそうになった後は、これといった事件もなく、先輩と私は射的や金魚すくいをしたり、かき氷とりんご飴を食べて、屋台を満喫した。
◆◆◆
「花火、始まったね」
花火が上がる音と共に、夜空に光の花が咲く。
「私、穴場知ってるんですが、移動しますか?」
「いいね。移動しよう」
花火が上がるたび、道脇で立ち止まりながら、神社の境内まで歩く。
木々に囲まれたこの場所は、屋台の喧騒が嘘のように静かで、木々の隙間から花火がよく見える。
「綺麗だね」
「本当に、綺麗ですよね」
花火に照らされた先輩の横顔が、花火を見る目が、優しくて。目が離せない。
「早乙女さん」
先輩の目に、私が映し出される。
先輩が一瞬固まり、そのまま抱き締められ、口づけられた。
驚きと戸惑いに目を見開く。
先輩の唇はすぐに離れ、その唇が言葉を紡ぐ。
「好き……です。俺と付き合ってください」
ほん……とうに? これは夢? 私の願望が見せた白昼夢じゃなくて? それでもいい!
「喜んで。最高の誕生日プレゼントです」
そう、今日は私の誕生日だった。そんな日に先輩と会えて、お祭りを楽しめるだけでも幸運だったのに、告白の返事まで貰えるなんて。
本当に嬉しいです先輩。
涼夏視点、夏祭り完結です。
お読みいただきありがとうございます。




