大和(夏祭り②)
夏祭り会場の、最寄り駅に向かう電車に揺られながら、窓に映る自身を見て、気もそぞろになる。
窓には黒髪に染め直した髪を、落ち着きなく触っている、可もなく不可もない顔の男がいた。
早乙女さんは、こんな俺が好きだと言ってくれたけど、やっぱり地味だよな。髪色を元に戻したのは、間違いだっただろうか。
耳のピアスだけは、お洒落として外さず着けている。
あー、だんだん自信が無くなってきた。告白の返事もまだできてないし。優柔不断すぎる。今日こそ、俺の気持ちを伝えないと。
『きっと、一緒に行かれる方にも喜ばれますよ。頑張ってくださいね』
呉服屋の女将さんに勇気づけられた記憶が蘇る。
浴衣の力を信じてみよう。
髪を触るのをやめ、背筋を伸ばす。
それだけで、窓に映る自身の雰囲気が変わった。
うん、悪くない。せっかくの夏祭りなんだ。まずは楽しもう。
◆◆◆
駅に着き、電車を降りて広場に向かう。
周囲では浴衣姿の人々が行き交っていて、気分が高揚した。
広場に到着し、早乙女さんの姿を探す。
建物の屋根の下、白地に花柄の浴衣を着た女性が、姿勢よく立っているのを見つけた。
髪型も上品な感じに整えられていて、その清楚な雰囲気に一目で視線を惹き付けられた。
横顔には早乙女さんの面影があり、その女性が彼女だということに気づく。
バイト先での雰囲気とはまた違う今の雰囲気に、若干呑まれながら、そっと声をかける。
「早乙女さん? 待たせてごめん」
「五十嵐さん。すみません、ちょっと心臓が!」
良かった、早乙女さんで合ってた。
彼女は目を見開いて言葉を発した後、胸を押さえて下を向く。
夕方とはいっても、まだ残暑が厳しい。もしかして熱中症とか? 大変だ。どこか休める場所は……。
早乙女さんに声をかけながら、周辺を見回し噴水のそばにあるベンチを見つける。
手を引いて誘導すると、彼女は大人しくベンチに座り、俺を真っ直ぐ見上げて、にこりと笑った。
「ありがとうございます。先輩も一緒に座りましょう?」
ちょっと待て、可愛すぎないか? 顔色も良いみたいだ。安心した。
早乙女さんが自身の横に座るよう、手で促してくる。
その仕草に心臓を射抜かれ、促されるまま彼女の隣に腰掛けながら、夏祭りに誘ってくれたお礼を伝え、待ち合わせ場所は、ここで相応しかったのか確認した。
早乙女さんの家はここから近いらしく、駅まで来るのに苦労はしなかったようだ。
そのことに安堵していると、彼女が立ち上がり、ケータイをこちらに向けて構える。
「ところで先輩、写真撮らせてください!」
目を輝かせて許可を待つ早乙女さんに、俺は目を白黒させた。
◆◆◆
早乙女さんの勢いに押され、思わず頷いたばかりに、俺の戸惑いをよそにして、突然の写真撮影が始まってしまった。
「えっと、早乙女さん? 俺を撮ってて楽しいの?」
「その憂いを帯びた表情とてもいいです! そのまま、ちょっとそのままでいてください」
どうするべきか。真剣な彼女には悪いけど、羞恥心でどうにかなりそう。
ああ、だけど……俺を真っ直ぐ見詰めてくる早乙女さんは、本当に綺麗だ。




