大和(夏祭り①)
居酒屋でのバイト終わり、ケータイを確認すると、早乙女さんからメールが送られてきていた。
連絡先を交換して初めての連絡で、一瞬心臓が早鐘を打つ。
告白の返事を待って貰って、一週間以上経ってしまった。書店のバイトで会っても、返事を催促されることがなく、あの告白は夢だったんじゃないかとためらったせいで、愛想をつかされたのだろうか。
学生アパートに帰宅後、おそるおそるメールを開く。
『突然のメール失礼します。唐突ですが、九月七日の予定が空いてるようでしたら、その日の夏祭り、私と一緒に行きませんか?』
内容を確認し、安堵のため息をついた。
告白はなかったことにっていう連絡じゃなくて良かった。夏祭りか、一人で行くのも味気ないと思ってたし、早乙女さんと行けるなら楽しいだろうな。でも、彼女は本当に俺と行くので良いんだろうか……。友人や家族と行かなくてもいいのか?
メールの返信内容に悩み、いつの間にか寝落ちしていたらしい。
「メール画面、開きっぱなし……」
寝ぼけ眼でケータイを見つめ、肩を落とした。
早乙女さんの方から誘ってくれてるんだ。遠慮する必要はない……か。好意に乗ることにしよう。彼女の家がどこにあるのか分からないから、迎えに行けないのが気がかりだな。せめて待ち合わせ場所くらいは、分かりやすい所を提案しよう。その方が彼女も楽だろうし。
そんなこんなで、メールを返信する頃には、すでに昼間になっていた。
◆◆◆
バイトと卒論研究に追われ、気づけば夏祭りの日が近づいていた。
「夏祭りは浴衣だよね」
「断然浴衣だよ! 彼氏も浴衣を着てくれたらなぁ」
「浴衣デート、憧れる」
「だよねだよね!」
居酒屋で忙しく動き回ってると、客席からそんな会話が聞こえてきた。
うわ、服装のこと忘れてたな。早乙女さんはどうするんだろう。メールで聞くべきか? それはちょっとハードルが高い。浴衣、買いに行くか。彼女が浴衣じゃなくても、俺が浮かれて着て来ただけだと思ってくれるだろう。
◆◆◆
翌日、さっそく商店街に繰り出したのはいいが、浴衣を売っている店が分からない。
途方に暮れながら、ぶらぶらと人混みの中を彷徨っていたら、商店街から道を逸れてしまったらしい。
閑静な住宅街に迷い込んでしまい、眉をよせる。
事前に調べてから外出すれば良かったな。仕方ない、引き返そう。
振り返るついでに周りを見渡すと『呉服屋 錦織』というのれんがかかった家を見つけた。
呉服屋って、浴衣売ってるんだろうか……。着物も浴衣も似たようなものだよな。でも、さすがに敷居が高いなぁ。
顎に拳をあてて唸る。
「お客様でしょうか? どうぞお入りください」
穏やかな声が聞こえ、現実に引き戻された。
いつの間にか玄関付近で仁王立ちしていたようだ。
「あ、いや、すみません……ここって浴衣、売ってますか?」
「売ってますよ。見るだけでも大丈夫ですからどうぞ」
着物を着た中年女性が、柔らかな表情で招いてくれたから、戸惑いながら玄関内に入った。
◆◆◆
呉服屋に入ってからは早かった。
中年女性に聞かれた質問に答えると、予算内で買える浴衣一式を何種類か用意してくれて、俺はその中から気に入ったものを選べばいいだけだったから。
「お買い上げありがとうございます。きっと、一緒に行かれる方にも喜ばれますよ。頑張ってくださいね。またのご贔屓をお待ちしております」
暖かい言葉に送り出され、面映ゆく感じながら呉服屋を出た。
浴衣の着方まで教えてくれるなんて、いい店だったな。
浴衣一式は後日自宅まで届けてくれるそうだ。
夕方の空を見上げ、俺はほっと息をついた。
あとはこの髪色を染め直すだけか。




