涼夏(夏祭り①)
喫茶店で公開告白をした後、私はちゃっかり先輩の連絡先を入手していた。
唐突な告白だったせいで、返事は保留にされたけど、あの場で振られなかったということは、先輩の彼女になれる可能性があるってことで、そう考えるだけで口元が緩む。
『夏祭り 花火大会 九月七日』
短大の構内に貼られてた夏祭りのチラシを思い出す。
先輩と一緒に行けたら楽しいだろうな。
ケータイのメール画面を開きながらしばし考え込む。
彼女でもないのに迷惑かなぁ。でも、学生時代最後の夏だよ? やっぱり思い出は欲しいよね。それに、九月七日……だし。
部屋のベッドに横になり、ぐるぐる悩んだ末、ままよと先輩にお誘いのメールを送った。
◆◆◆
次の日の昼間、なかなか返信がこなくてやきもきしてたとき、ピロンとケータイの着信音が鳴った。
「お兄ちゃん! 私ちょっと台所離れるから、残りの皿洗いお願い!」
「……まじかよ。りょーかい」
のんびりテレビ見てるとこすみませんね。お兄ちゃんもたまには台所仕事して。
居間のソファにだらりと腰掛けていた兄が、むくりと立ち上がるのを後目に、階段を駆け上がり、自室に飛び込んだ。
ベッドの柵に寄りかかって座り、メールを開く。
『夏祭りのお誘いありがとう。行こうか悩んでたから、早乙女さんと一緒に行けるなら喜んで。待ち合わせ場所は、会場の最寄り駅とかどうかな? 九月七日、楽しみにしています』
「……ッやったぁ!」
二度三度と読み返し、お誘いが成功したことに舞い上がった。
先輩の方から、待ち合わせ場所まで提案してくれるなんて! これは脈ありでしょ。脈ありであれ!
ひとしきり喜びを噛み締めた後、はたと我に返る。
浴衣ってあったかな。え、買いに行くべき? ど、どうしよ、まだ付き合ってないのに、気合い入りすぎ? いや、でも、夏祭りといえば浴衣だよね。相談、綾ちゃんに相談しよう!
◆◆◆
「突然呼び出されてびっくりしたよ」
「ごめん綾ちゃん。真っ先に浮かんだのが綾ちゃんの顔だったから」
駅ビルの中にあるカフェで、目前に座ってる中学時代からの友人に向かって頭を下げる。
錦織綾乃。呉服屋さんの跡取り娘だからか、着物や浴衣に詳しい。
「暇してたから問題ないよー。それで、好きな人との花火大会に、浴衣を着て行くべきか否かだっけ。着るべきでしょー」
「まだ付き合ってなくても?」
「私なら着て行く。絶好のアピールチャンスだし。浴衣を着る機会はそんなに無いんだよ? 相手さんも満更でもなさそうだし、一気に悩殺しておいで」
「悩殺って」
でも、綾ちゃんのいうことも一理ある。告白の返事もそろそろ貰いたいし、できれば付き合いたいし。気合い入れて悪いことはないよね。
「綾ちゃんありがとう。浴衣、着て行くことにする」
「うんうん。それじゃ、私の家で浴衣買う? 予算はどのくらい? 今なら友人価格で割引中だよー」
「相変わらず、商売上手だね」
さっそく私相手に営業をかけてくる友人に、くすりと笑いながら、予算を伝える。
相談して良かった。
カフェで少しだけ雑談した後、綾ちゃんの家で、私は無事に浴衣一式を揃えることができた。




