大和(季節の変わり目②)
「──っ!! むーりーッ」
叫び声で目が覚めた。
目だけで辺りを見回すと、俺の真横で涼夏さんがしゃがみ込んでいた。
慌てて上体を起こし、彼女に声をかける。
すると彼女は目にいっぱい涙を溜めて「雷が怖い」と言った。
縮こまった体と耳を押さえてる手が小刻みに震えてて、俺は考える前に彼女を抱き締めていた。
じっと抱き締めてると良からぬ事を考えてしまいそうで、気を紛らわすために、他のことを思い浮かべる。
妹もよく弟と手を取りあって、雷が鳴るたびに悲鳴を上げてたな。弟は楽しんでる節もあったけど。二人して俺の部屋に飛び込んできて、あやした事もあったっけ。
あ、テーブルにおかゆが置かれてる。涼夏さんって料理も得意なのかな。優しくて、気が利いて、料理までできるなんて、俺には勿体ない彼女なのでは? 大切にしよう。
涼夏さんを抱き締めながら、雷から気を逸らすため、取り留めもない話をしていると、彼女はだんだん落ち着きを取り戻した。
結局、涼夏さんを一泊させることになったけど、彼女を家に泊めるなんて初めてのことで、緊張して落ち着かなかった。
でも、隣で安心したように眠っている涼夏さんの温もりを感じてると、その暖かさで意識が溶けていった。
◆◆◆
次の日、瞼に触れられる気配で、意識が覚醒した。
目を開けると、台所に向かう涼夏さんの後ろ姿が見えて、なんだか幸せな気分になった。
いいな。こういうのも。一緒に暮らしたら、これが日常になるのか。時期を見て、涼夏さんに提案してみようかな。一緒に暮らしませんかって。
この日は涼夏さんの手料理をご馳走してもらって、お昼頃、彼女は家に帰って行った。
涼夏さんが帰ってしまうのは、名残り惜しかったけど、風邪が治るまでの辛抱だと我慢した。
◆◆◆
数日後、俺の風邪がすっかり良くなった頃、今度は涼夏さんが風邪でバイトを休んでしまった。
彼女の家の場所は夏祭りのときに知ったから、お見舞いの品を買って、バイト終わりに彼女の家に向かった。
涼夏さんって家族に俺のこと、伝えてるのかな? 一応、家族分用意したけど、俺の存在を伝えられてなかったら、怪しい人だと思われるんじゃ……。
「あんた、誰?」
家の玄関前で右往左往してたとき、背後から男性の声が聞こえ、飛び上がりながら後ろを向く。
「人んちの前で、何してんの? 不審者?」
そこには車を停車させて、運転席の窓から顔を覗かせている、スーツ姿の若い男性がいた。
涼夏さんの兄、だろうか。たしか、五歳年上の兄がいるって言ってたような。
「いえ、不審者ではないです。えっと」
困った。どう自己紹介したらいいんだろう。
「……もしかして、涼夏の彼氏?」
「あ、そうです。お付き合いさせていただいてる、五十嵐大和と」
なんだ。涼夏さん、俺の事家族に伝えてたんだな。
「まじか……ちょっとこっち来て、俺とお話、しようか」
え、驚いてる? もしかして、かまかけられたとか?
来い来いと手招きされ、首を傾げながら近くに寄ると、助手席に来るよう身振りで促された。
「俺、早乙女爽真。涼夏の従兄」
逆らうこともできず、助手席に乗り込むと、彼は車を発進させながら、ぶっきらぼうに話し始めた。
「え、お兄さんではなく?」
「涼夏は兄だと認識してる。話してないから。涼夏が赤ん坊の頃に、俺は涼夏の両親に引き取られたんだよ。本当は涼夏とは、いとこ同士ってこと」
反応に困る。なぜいきなり、こんな話を聞かされてるんだろう。なんかもやもやする。
「今、嫉妬しただろ。冗談、冗談! からかっただけだ。彼女の家に、兄弟じゃない男が一緒に暮らしてたら、どんな反応をするのか、見たかっただけだよ。安心した。妹のこと、本気みたいだな」
爽真さんは、一人で話して納得したように頷いた。
冗談……にしては、話し方が、真に迫ってたんだけど。まあ、この話が嘘でも本当でも、爽真さんが涼夏さんのことを大切にしてることは分かった。
「はい。俺は涼夏さんと本気で付き合ってます」
「ああ、本気ならいい。てことで、連絡先でも交換しとくか? 今度、アルバムの涼夏の写真でも送ってやる」
アルバムってことは、幼い頃の涼夏さんや、中学、高校時代の彼女の写真もくれるんだろうか? 凄く嬉しいんだけど!?
「ぜひ、お願いします!」
この後、爽真さんに連れられ、ファストフード店で雑談し、お見舞いの品を彼に預けて、帰宅した。
涼夏さんに会えなかったのは残念だったけど、彼女の写真は予想外の収穫だった。




