大和(季節の変わり目①)
「風邪ですね」
目の前にいる白衣を着た男性が、淡々と話し続けている。
「今の時期、多いですよ。お薬出しておきます。お大事に」
やっぱり。一人暮らしだから、気をつけてたのに。
数日前から喉の違和感があり、薄々勘づきながらも、夜遅くまで卒論研究をしていた。
今朝、体のだるさを感じ熱を計ると、案の定、発熱していて、バイトは休むしかなかった。これ以上悪化するのも嫌だったから、病院に行ったんだけど、歩くのが……辛い。
夕暮れの中、重い体を引きずり帰宅する。
薬だけでも飲んで寝よう。
テーブルに薬の袋を置き、軽食を用意しようと台所に向かうが、体調が悪すぎてその場に座り込んでしまった。
少し……休憩……。こんなに、体調が悪いの、いつぶりだろう。
どのくらい座っていたのか、チャイムが鳴る音に気づき、嫌でもその場から立ち上がり、玄関に向かう。
出された薬、まだ飲んでない。これは、ちょっと、やばいかも。
ふらつく体を壁で支えながら、玄関のドアを開けた。
そこに立っていたのは彼女、涼夏さんだった。
幻覚……?
とっさに口元を手で覆いながら確認する。
「涼夏さん?」
「お、お見舞いに来たんですけど」
彼女は気遣わしげな表情で、こちらを見上げてきた。
本当に涼夏さんだ。どうして彼女がここに? 住所、教えてたかな……? 頭が回らない。風邪は、移せない。今日は、帰って貰わないと。
彼女に感謝を伝える最中、体が悲鳴をあげ、一瞬意識が遠のいた。
「……大和さんッ」
彼女が叫びながら、腕を広げるのが、ぼんやりと見えた。
◆◆◆
意識が遠のいたのは一瞬だったけど、自力で部屋に戻ることはできず、涼夏さんに支えられながら、歩く。
「重いよね、ごめん。ありがとう」
間近に見える涼夏さんの横顔に向かって、謝罪の言葉を口にする。
「気に……しないで! ください! 無理をさせたのは、私……なので!」
小さな体のどこにそんな力が眠ってたのか。彼女は苦戦してたけど、俺を布団まで支えてくれた。
涼夏さんに支えて貰ってなかったら、顔面から地面に激突してたと思う。
助けられたお礼を伝え、帰宅を促すけど、咳で言いたいことを満足に伝えられなかった。
そんな俺を見かねてか、涼夏さんが料理までしてくれることになった。
絶対、風邪を移してしまう。申し訳ない。でも、ありがたいな。
目を瞑りながら、彼女が作業する音を聞いていると、不思議と具合の悪さが軽減したように感じる。
誰かが家に居てくれるの、安心するんだな。
台所の作業音が眠気を誘い、ゆるやかに眠りに落ちていく。
いつか、彼女と一緒に暮らせたら……。




