7✦☾騎士レオネルと学術師エリヤ
まだダンスの余韻さめやらぬ中、レオネル様がお嬢様に丁寧に一礼する。
「いや、誠に感服いたしました。さすがセラヴェル家の御令嬢。私の不手際をあそこまでお助けいただけるとは」
「気になさらなくてよくてよ。このスティラ・セラヴェルにとっては、お相手がどなただろうと、たいして変わりはございませんわ」
デビュー大成功のお嬢様は、不遜さにさらに磨きがかかっていたが、レオネル様は柔らかく微笑んで受け流された。
「とはいえ……その、やはり、あなたのような見目麗しい騎士様がお相手、というのはまあ、悪い気分ではございませんでしたわ」
と思えば、ちらちらと色目を使うお嬢様。──まったくもう!
スティラお嬢様は美男にめっぽう弱い。その浅はかさも可愛いといえば可愛いけれど、こっちは心中穏やかじゃないわ!
「もったいないお言葉、恐縮でございます。……それにしても、スティラ様のお召し物は実に珍しい。このように、複雑に光る装飾品は初めて見ました」
お嬢様の拙い色目をレオネル様は礼儀正しくスルーして、さりげなく話題を変えた。さすが女性人気ナンバーワン。
「ふふん、セラヴェル家ともなれば、そこらにあるドレスというわけにはいきませんもの。うちのシアナメイド長に特別に作らせましたのよ!」
お嬢様はめげることなく自慢げに私を指さした。周囲の視線が一気にこちらへと向い、内心焦る。
「ほう、さすが、セラヴェル家のメイド長は、只者ではございませんな」
一瞬鋭くなった目つきに、思わず息を呑む。まさかこれで前世バレはないと思うが、私が作ったと知られない方がよさそうだ。
「い、いえ……。大陸中から取り寄せた中に、たまたまこのような装飾があっただけ……」
「そーんなワケはありませんナ」
突然の背後からの声に、驚いて言葉を止める。
「大陸中探してもありますまいテ。ま、どうやって作ったかは想像つきますがネ」
振り向くと、声の主は二十歳にも満たぬほどの華奢な少年。
黒灰の髪が片目を覆い、凍った湖のような薄い瞳が私を見透かしている。
少年は不敵な笑みを浮かべて言葉を続けた。
「非晶質ケイ酸塩物質は熱膨張係数が比較的高く、延性がほとんどない。だから螺力で加熱後に急冷すると、表面と内部で膨張・収縮の差が生じて内部応力が発生し、一瞬で粉々に割ることもできますナ」
非晶質ケイ酸塩物質──それはガラスの、鉱物学的視点からの呼び方だ。
(この世界で鉱物の知識がある人に出会うのは初めてだわ……)
だが私の目を引いたのは、彼の服装だった。
白銀のローブにベレー帽、夜色と月色の装飾、そして胸に輝く満月と螺旋の紋章──。
(“教会”の人間──!!)
「これは、エリヤ殿。会場にまで降りてこられるのは珍しいですな」
レオネル様はエリヤと呼んだその少年を紹介する。
「こちらは、教会より王宮付研究所に出向されている学術師エリヤ・リティヤ殿。お若いが非常に優秀で……」
「ああ、いいヨいいヨ。そういう能書きを垂れるのは好きじゃないンだナ」
軽く手を振って制すその態度。
近衛騎士相手にこんな口をきくとは……。
教会の権力がそれほど強いのか、それともこの少年が特別なのか。
いずれにせよ、教会とは関わってはいけない。私はお嬢様の背後に下がり、息をひそめた。
「気晴らしに来てみただけだけどネ、なかなか面白いものを見れましたヨ。……シアナちゃん、でしたか?この装飾は……本当はどうやって手に入れましたカナ?」
にぃっとエリヤ様は唇の両端を上げる……この方には下手なことは言わない方が良いだろう。
鉱石を扱う建築や技術はすべて教会の管理下。鉱物知識を持っていて当然なのだ。
(ここは、しらばっくれるしかない……)
幸い、周囲の人々は先ほどの専門用語には興味を示していない。
「申し訳ありませんが、私はただの下働きで、難しいことは何も……」
深く頭を下げると、レオネル様は満足げに笑みを浮かべた。
「なんと慎ましやかな!きっと、スティラ様の素晴らしいお人柄が、こういった優れた人材を引き寄せているのでしょう」
「ええ、当然ですわ!このシアナは私がじきじきにメイドにひきたてたのですから!」
お嬢様のお褒めの言葉は後から擦り切れるほど噛みしめるとして、この場でこれ以上目立つのは多分危険──。
「少しでもお嬢様の大恩に報いることができれば幸いでございます」
私は一礼すると、レオネル様とエリヤ様からそそくさと離れた。
危ない危ない。お嬢様付きになってからあまりに幸せで忘れかけていたが、私は決して表だって目立つべき人間ではないのだ。
──「円環の逸脱者」である可能性がある以上。




