34✦✦王子の私室にて
シアナが部屋から出ていくのを確認すると、アンリークはカウチソファに身体を横たえ、くすくすと笑った。
「──近衛騎士に対して、『命をかけてもらう』と正面から言える者が、王族以外にいるとは思わなかった」
「ああ……頷かなければその場で俺を殺しかねない目をしていたぞ。単身王宮に潜入する度胸といい、メイドにしておくには惜しい」
壁にもたれかかったレオネルも腕を組んで苦笑する。
手慰みにチェスの駒を適当に動かしつつ、アンリークはつぶやいた。
「あれほどの忠誠心を向けられるスティラ嬢にも興味が出てきたな」
「おっ。ようやく花嫁探しに精を出す気か?」
「残念ながら、その前に得体のしれない中傷者をどうにかしないことには気持ちが悪い」
疲れたようにため息を吐くと、アンリークは駒を投げ出した。
「まあな。……しかし、スティラ嬢を矢面に引っ張り出すからには、何か算段はあるのだろうな?でなければ、あのメイド長殿に何をされるかわからんぞ」
冗談交じりにレオネルが小さく笑う。
「むろん。──あぶりだす仕掛けはちゃんと考えてある。王宮にはいろいろ便利な道具があるのさ」
「なら良いが……。……ではあとは体調だけだな。あまり爺やに心配をかけるなよ」
「わかってるって。レオネルはいつまでも過保護だな」
「病弱な王子様と二十年も親友をやっていれば、自然とそうなる」
顔を見合わせると、二人は軽く苦笑した。
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レオネルが出て行ったあと、アンリークは仕立師たちが献上した、いくつものブローチをしばし見つめると、それらを箱に戻す。
「せっかくだが……、こんな物を王宮内に置いておくわけにはいかないのですよ、シアナ殿」
そうつぶやくと、ブローチを箱ごと暖炉に放り捨てた。
「やれやれ。レオネルも勝手なことをしてくれる。……仕立師たちにも釘を刺しておかねば」
箱が完全に燃え尽き、ブローチが炎の中で黒ずんでゆくのを見つめながら、アンリークはつぶやいた。
「伝聞とか言っていたが……、教会の人間以外に鉱物の加工法など知る者はおらぬし、教会の人間が外部にこんな物の製法を漏らすわけがない──」
漆喰は黒く暖炉の中に燃え残り、くすぶる。
「……あのメイド長、──何者だ?」




