31✦☾これこそまさに「善役令嬢」!?
王宮では、漆喰を使った簡単な装飾品を作ることにした。
ごくシンプルな物だけれど、職業倫理上、お嬢様の装飾より豪華に見える物はお教えできないので仕方がない。
……しかし、鉱石を装飾に使うこと自体が珍しいこの世界では、十分インパクトはあるはずだ。
集めた漆喰を小さな木片やナイフなどの金属で、叩き割り、数センチ程度の小さな塊にする。
「多少でこぼこでもかまいませんわ。磨けばそれも味になりますゆえ」
割れた断面を、布で軽く削ってゆく。最初は慣れない作業に戸惑っていた仕立師達も、少しずつ要領を得て作業は順調に進んでいた。
顔なじみも増え、仕立師達の名前も覚えてきたころ……、私はさりげなくお嬢様の話を切りだした。
「それにしても、セラヴェル家の御令嬢のドレスはそんなに素晴らしかったのですね。ぜひ拝見したいわ。次の舞踏会にも参加されるのかしら?」
さりげなくそう話を振る……と、皆どこか曖昧に微笑んだり目を逸らしたりで、まともな返答がかえってこない。
これは……。
一番おしゃべりそうなエーリカ様をターゲットに選び、彼女と二人になったときに、そっとカマをかけてみると、案の定ぺらぺらと喋ってくれた。
「ここだけの話、セラヴェル家の御令嬢は精霊の加護を受けてらっしゃらない、というお噂がありますのよ。いえ、あたしゃ信じてませんけれど……それで、次の舞踏会にはお出にならないのではないかって」
やはり……。仕立師にまで広まっているなら、もはや貴族社会中に広まっていると考えて良いだろう。
とりあえず、素知らぬふりしてもう少し話を聞きだす。
「まあ……!それは大変なことでございますわ。……でもありえませんわね」
「さーあ……、ただの中傷にしては、まことしやかに言われておりますわ」
「セラヴェル家の御令嬢は、以前も醜いなどと言われていましたが、実際は、とんでもなく美しく可憐でマーベラス……いえ、素晴らしい方だったそうなので、今回もそんなことかもしれませんわね。……ところで、」
何気なく噂を否定しつつも、私は核心に踏み込む。
「エーリカ様は社交界のことをよくご存じで尊敬いたしますわ。そういう興味深いお話はやはり、王宮内のメイド様たちから?」
「そうそう!中でも、ラレーナ様は耳がお早くて」
笑顔でそう教えてくれたエーリカ様に、軽く会釈すると、私はすぐにメイド部屋へと向かった。
そして、なんとか捕まえたラレーナ様より、「庭師のテルンさんから聞いた」と。テルン様からは「馬丁のヨートルさんから」、ヨートル様からは「仕立師のセリト様から」……、
(一周して、仕立室に戻ってきちゃったじゃないのよ!!)
しかし私は、最終的に「トルドー家のお茶会でそのようなお話が出たらしい」との情報を得た。
トルドー家といえば、環伯家よりは劣るが螺伯家と呼ばれる上位貴族。
「トルドー家のお茶会、か……」
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しかし、トルドー家には何もツテがない。スティラお嬢様はわんぱくすぎて外に出してもらえないので、お茶会招待もへったくれもあったものではないし。
次の作戦を考えつつ、王宮内をうろついていた時だった。
「きゃ……っ」
「まあ!申し訳ございません!」
私は、白いドレスの御令嬢と、廊下で鉢合わせてしまったのだ。しかし持前の身体能力で咄嗟に手を伸ばし、令嬢が尻もちをつく前に支える。
「大変失礼をいたしました。お怪我はございませんか?」
「え?ええ……。大丈夫ですわ。あなたは……」
「アンナと申します。近衛騎士レオネル様のご紹介で、仕立師様をお手伝いしております」
「アンナ様?お手をありがとうございます。わたくしはユーテリア・アシュレーンと申します」
ユーテリア様は、すんなりと立ち上がり、清楚ながら丁寧に仕立られた純白のドレスをつまみ膝を折る。光沢のある上質な生地が花のように広がった。
アシュレーン家といえばセラヴェル家と同じく環伯家……最上位の貴族だ。
(そう……同じ環伯家で同じ年ごろの令嬢がいるということで、やたらとお嬢様の比較対象になる、あの……!)
それにしても。
(なんて、お美しい方かしら……)
淡い茶色の髪がさらさらと肩に流れて柔和な輪郭を縁取り、陽光を湛えた湖のような瞳は穏やかにきらめいている。
スティラお嬢様の紅薔薇のような華やかさとは対照的に、楚々とした白牡丹のような……。
──はっと気がついてしまった。
(……まさかこの方が「善役令嬢」!?)
スティラお嬢様と正反対でありながら、同じほどに優れている……!
い、いえ、もちろんお嬢様の方が少し上ですが!
「……アンナ様は、レオネル様のお知り合いでらっしゃいますのね?」
私の動揺など知る由もなく、ユーテリア様は上品に小首をかしげる。
「はい。と申しましても、少々縁は遠いのでございますが」
「そう……ですの」
その瞳に一瞬、不安がよぎったのを見逃さなかった。
(これは、有益なお話が聞けるかも。しかも善役令嬢かもしれない以上、探りは入れさせていただきたいわ!)
「レオネル様に何か御用でも?」
「……いえ、少々……ご本人には申し上げづらいのですが、心配なことがあって」
私はここぞとにっこり微笑んだ。
「もしよろしければ、私が伺いましょうか? 話すだけで気が楽になることもございますし」
「いえ……おいそれと口にできることではございませんの。でも、ご心配ありがとうございます」
(それはぜひ聞きたい!!)
食い気味にそう叫びたいのを我慢すると、私は心配するそぶりで、それとなくユーテリア様を中庭の東屋へ誘った。
──花とツタに覆われた東屋に、すっと背筋を伸ばして座るユーテリア様の美しいこと……。ま、まあうちのお嬢様ほどではありませんけれど!
沈んだ表情なれど、可憐さを残す顔立ち、憂いを宿し潤んだ瞳、気品ある所作。私のような使用人にも礼を欠かさない。
──これこそまさに、「善役令嬢」……!
このような方相手に申し訳ないけれど、お嬢様のため──。カマをかけさせていただくわ……!




