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29✦☾爆誕!「お嬢様を輝かせ隊」

「こほん、さて、皆よくこの『ドレス装飾用工房』に集まってくれたわね」

「どう見てもただの物置小屋です」


私が改まって言うと、ソリーナがすかさず突っ込んでくれた。


「いいえ!ちゃんと工房として使う許可を正式に得ました!ここは工房なのです!」


物置小屋とはいえ、さすがセラヴェル家だ。大きな作業台、道具を置く多数の棚、そして十人程度のメイドが動き回って働いても不自由ない十分な広さがある。


「なんだか……ガラクタばかりですのね」


並べられたガラス板やガラス片、研磨用に集めた石や砂利を前に、ラーサは不安そうだ。


「何さ、私らが頑張って集めてきたんだから、そうガッカリせんでよ」


鼻息あらくチェスカが口をとがらせ、ラーサは慌てて笑ってごまかした。


「大丈夫よ、ラーサ。このガラクタを使って、皆の忍耐と根性でキラキラを作るの!」

「……忍耐と根性……。全く大丈夫に思えませんわ……」


作業開始にはまだ準備が必要だが、皆を呼び寄せたのは理由があった。

エヴァルス様に頼んでいた「推し活ユニフォーム」が出来上がったのである!!


前回はスカーフや眼鏡で代用したけれど、鉱石の研磨や加工には身体を守る装備が必要なのだ。

マスクやゴーグル。他にも厚い手袋やアームカバーなど、作業に必要そうなものはできる限りそろえた。


「ガラス片や粉塵から目や身体を守るために必要なものよ」


そして何より……、


「見て! 工房用の作業エプロンよ! 特別デザイン入り!」


胸元には、大きく「スティラ☆彡ラブ♡」の文字。

これはライブTシャツのようなもの!

皆で推しTを着ることで一体感を高め、推しプロデュースに臨むのだ!


──メイド達の表情が、一瞬で凍った。


「……それ、絶対付けなければなりませんの?」

「当然よリルネ。お屋敷用エプロンじゃ、すぐダメになるもの。これは厚くて燃えにくい特注布なの!」

「そんな大切なエプロンに、なんでその文字を……」


ソリーナとサッシャが視線をそらす。


「チーム名を入れる案もあったのよ。『お嬢様を輝かせ隊』とか!」

「……ち、チーム名? なのですか?」

「そうよ、テト。お嬢様を愛し支える者たちにふさわしい名でしょ?」


……マーシアが、落ち込んだメイド達を励まして回っていたけれど、何なのかしら?


ともかく、物置小屋にて「スティラ☆彡ラブ♡」のエプロンに、粉塵マスクとゴーグルをつけた、メイド九名による「お嬢様輝かせ隊」が爆誕したのであった!


「完璧だわ!!」


「お母さまには見せられない姿ですわ……」


……リルネのか細い声が聞こえた気がするけれど、大事なのは今からだわ!


✦••┈┈┈┈••☽••┈┈┈┈••✦


とはいえ、輝かせ隊の道のりはけっこう長い。

研磨の道具も、まだ材料しかない状態だ。研磨盤は今から作らないといけないのよね。


いったんメイドたちを仕事に戻すと、私は庭師たちの作業小屋を訪ねた。


「ごめんください!どなたかいらっしゃる?」


ノックをすると、庭師の一人、トーレスがひょいと顔をだす。


「なんだ灰色猫かよ。また変な工作をやる気か?」


トーレスは浅黒い肌に黒髪の美丈夫で、なかなか端正な顔立ちをしているのでメイドたちにも隠れファンは多い。

……が、私には昔から塩対応なのよね。勝手に濾過(ろか)装置やら(かまど)やら改良して、屋敷をいじるのが気に食わないのかしら。


「猫じゃなくてシアナよ!……ある程度の大きさの板と、鉛板や鉄の棒はないかしら?」

「あんた、庭師小屋を便利屋と勘違いしてねえか?」


たくましい腕を組むと、トーレスの若葉色の瞳が私を睨む。

そうよ?とは言えないが、庭師小屋は実際、道具や素材の宝庫だ。


この世界では建築業を教会が占有しており、依頼手続きも面倒なため、屋敷の簡単な修繕や大工・左官仕事などは、庭師が担っていることが多いのだ。

そのため、各種工具や素材に事欠かない。


「いいわよ。トーレスが嫌なら、シェルに頼むだけだもの。トーレスと違って優しいシェルなら引き受けてくれるわ」


小屋の近くで作業をしていたシェルに呼びかける。


「おや、シアナちゃん。また何か面白い仕掛けでも作るの?」


シェルはトーレスよりいくつか年上で、人当たりが良い癒し系庭師さんなのだ。

こちらもメイド達にお兄さん的人気を誇っている。


「……俺しか頼れねえってんなら仕方ない。それで何が必要だって?」


──チョロい!

シェルも苦笑すると黙って肩をすくめた。

トーレスとは屋敷に引き取られた頃からの付き合いで、よーくわかっている。


(いわゆる「面倒なツンデレ見栄っ張り属性」よ!!)


「板を円形に切って鉛板を貼り、真ん中に棒を通して、足踏みで板を回せるようにしたいのよ」


装飾作りに欠かせない研磨盤を作るのだ。これがあると無いとで研磨の労力が大分変わる。

私はそこで、ちらりと意味ありげにトーレスを見た。


「でも、安心して。トーレスにそこまで頼むつもりはないわ。こんな難しいこと、無理に決まってるもの」

「そうだねえ、僕なら簡単にできるけど、トーレスにはどうかなあ?」


シェルまでノってくれる。


「は?その程度できねぇわけないだろ」


トーレスの鋭い瞳がきらんと光る。──ほらチョロい!

前世記憶を頼りに描いた拙い図面を見せると、トーレスは一瞬私を睨んだあと、にやりと笑った。


「灰色猫め、最初から俺にやらせるつもりだったな?こんなもの、不器用なあんたに作れっこない」

「えへへ、バレたか」

「まったく、ちゃっかりしてやがる。……さて、この図面じゃどうにもならねえな。ちっと変えるぜ。どういった物にしたいんだ?」


だって、前世で研磨盤から作ったことなんてないんだもの……。今更ながら前世の文明に感謝だわ。


✦••┈┈┈┈••☽••┈┈┈┈••✦


結局トーレスが図面からかなり手伝ってくれ、研磨盤はできあがった。

シェルも横から茶々を入れつつも一緒に考えてくれた。


「ありがとうトーレス、シェル!!あと、ついでにこれもお願いできないかしら?」

「調子に乗るんじゃねえ」

「じゃあシェルに……」

「やっぱり僕かあ」

「ああもう、わかったよ!俺しかできねえんだろ!」


私が差し出したのは、エメリーを入れた二重袋だ。

廃墟で見つけたエメリーはとても堅い鉱物で研磨に便利だが、その堅さゆえ、研磨に使えるように砕くのに力がいる。


粉塵の害を避けるため、小屋からは出て、トーレスにゴーグルと粉塵マスク、エプロンも貸した。

袋の上から金槌で少しずつ叩き、砕いてもらう。

トーレスはエプロンを不審そうに見つめた後、小声でつぶやいた。


「なんでぇ?この妙な文字……」

「ふふ。最高のデザインでしょ?トーレスもほしいなら発注するわよ?」

「……いらねぇ……」

「トーレス……、すっごく素敵だよ……、僕は、好き……!」


シェルが明らかに笑いをこらえながら、……いや、もはやこらえずに指さして爆笑している。

そうよね、素敵よね……?なんでシェルは笑ってるのかしら?


シェルが断固としてエプロンをつけたがらなかったので、トーレス一人でだいたい砕いてもらうと、あとは篩で大きさを分けて、研磨に使うことができる。


「ありがとう!これであなたも『お嬢様を輝かせ隊』の立派な一員よ!」

「は?お嬢様を……何だって??」

「良かったねトーレス!スティラ……ラブ……、あははははは!」


怪訝な顔をしているトーレスと、まだツボに入ってるシェルに改めてお礼を言い、意気揚々と研磨台を物置小屋に設置する。

これにて準備は完了!ようやく、本格的にカットガラス制作にとりかかることができるわ!


思わず、一人で懐かしのオタ芸ポーズを決めていたとき、屋敷の方から騒ぎが起きた。

次の瞬間──お嬢様が息せき切って現れる。


「シアナ!!こんなところに!……何なの、そのポーズ」

「お嬢様!?あ、このポーズは『お嬢様輝かせ隊』気合の……」

「そんなのどうでもいいわ、すぐに来て!!」


訊いておいてご無体な!と思いつつ、ただごとではない様子に、慌てて「スティラ☆彡ラブ♡」エプロンをしたまま、お嬢様の後を追う。


「そのエプロンも何なの!?」

「これは推し……愛のユニフォームです!!」

「二度とわたくしの前で着ないでちょうだい!!」

「何故!!??」


ファンの心、推し知らず!

そんなことを考えながらお屋敷に向かうと、お嬢様を追ってきたらしい、ソリーナやマーシア達とも合流する。


「二人とも、何があったの?」

「それが……」


ソリーナが困ったように言いよどむと、


「ありえないわよ!!大事件だわ!!」


……とお嬢様が叫んだ。


──そのころ、お屋敷では、思わぬ事態が持ち上がっていたのだった。


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