18✦☾石拾いから始まる推しプロデュース
ぶんぶんと大げさに首を横に振って、その不敬すぎる思考を追い払う。
「ななな、何を考えているの私は!そんなわけないじゃない!!」
(こうなった以上、プランBしかないわ!)
お嬢様の螺術を使えない以上、プランB──つまり装飾だけで「お嬢様☆超キラメキ計画」を進めなければならない。
「とはいえ、前回よりも派手で目立つ物となると……」
物置小屋で、私は屋敷中から集めたガラス板や大理石の欠片などを前に、座り込んでため息をついた。
皆の螺術を駆使しても、前回以上のことをやるなら……。
「きゃぁっ!」
後ろから突然、お嬢様の悲鳴が聞こえて、反射的にスライディングする。
……が、お嬢様はかろうじて、柱にしがみついて立っていた。どうやら石に躓いたらしい。
「ああもう!うざったい石ころだこと!こんな物集めて、何をしようというの!?」
「お、お嬢様、こんな汚いところへわざわざ……」
無駄に殴打した顔面を抑えながら起き上がる。
ああ……私を冷たい目で見下すお嬢様は今日も一点の曇りもなくお美しい。……やはり、こんな方が「逸脱者」のわけがない。
そんないわくつきの人物は、この屋敷に私一人で十分なのだ。
「前回のドレスは、寸前まで隠されていたもの。今回は仲間外れはごめんだわ!」
仲間外れって……言葉のチョイスが二十一歳とは思えない!女児か!?可愛い!
……と思ったそばから、お嬢様はまた石ころに躓きかけている。
ガラクタだらけのこの物置は、ハイヒールのお嬢様には難易度が高すぎるのだ。
「もう!この石っころ!カチ割ってやろうかしら!」
「石を割る……ですか」
思わず、私はその言葉を繰り返した。
「そうだわ、割りなさい!たかが石のくせに私を躓かせた罰よ!」
(そうなのよね……。ガラスでも石でも、せめて簡単なカットや研磨ができれば……)
でも、鉱石を装飾に使う文化がないということは、カットや研磨の技術も道具もないということだ
。割るくらいならできても、それではとても前回のドレスは超えられない。
(だいたい、前世オタ知識によると、こういうファンタジー世界の属性って、だいたい風水火土がメインじゃないの?土属性があれば石もなんとかできたかもしれないのに、なんで土だけないのよ!?)
世界の理に文句を言っても仕方がないが……。
「石を加工するにしても、こう、無いない尽くしでは……」
思わず声に出して愚痴ってしまう。
「何を言っているの、石っころくらい、金づちで割れるでしょう!?道具が足りないなら、買うなり作るなりしなさい!お金は惜しまないわよ!!」
お嬢様はバラ色の頬をぷっくり膨らませて腕を組んだ。
例え女児でも、躓いた石ころにそこまでの復讐心を燃やさないであろう……というお嬢様の相変わらずの残念さはさておいて。
道具がなければ、作ればいい──!
「そうよ!そんな単純なことを思いつかなかったなんて!」
思わずそう叫んで立ち上がった。
私もすっかり、この世界に浸りきっていたものだわ。
”そこに無ければ無いですね”で終わらせていたら、元研究者の名折れ!!
ガラスなら簡単なカットまではできる。研磨の道具がないなら作ればいいのよ!
「お嬢様、本当にありがとうございます!!道具、全力で作らせていただきます!」
お嬢様はいつだって、私に啓示をくださるのだわ!
あまりの感動に、ジャンピング土下座から、這いつくばったままお嬢様に詰め寄ってしまった。
「き、気持ち悪……ま、まあ、……そんなに本気にならなくてもよくってよ?たかが石ころに……」
何故か言い出しっぺのお嬢様が引いている気がするが、私は地べたにこすりつけすぎて土だらけになった額を上げると、満面の笑顔で応える。
「いえ!このシアナ!お嬢様の助言は決して無駄にいたしません!楽しみにしていてください!」
前世チートと執念で、この世界にダイヤモンドカット……は無理でも、そこそこカットくらいは再現してみせる!──元研究者の名にかけて!
「お嬢様☆超キラメキ計画」、本格的に始動よ!
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私は急ぎメイド達を呼び寄せた。キックオフミーティングだ!
「次の舞踏会には、大きめのカットガラスでアクセサリーやドレスを飾ろうと思うの」
「カットガラス?」
初めて聞く単語に、皆ぴんとこないようだ。
「前回はガラスを細かく割ったけれど、次は大きく割ったうえで、綺麗な形にカットして磨くのよ。ガラスでもかなり美しく輝くわ」
前回のガラス片をつまんで光を反射させつつ、皆に説明すると、メイド達は想像したのか、みるみる表情が明るくなる。
「もっと大きく美しいガラス片を作るんですね?」
「まあ、それでネックレスを作ったり、ドレスを飾ったら、さぞ映えるでしょう」
「大小組み合わせたら、きっと素敵ですわ!」
盛り上がるメイド達に、ここぞと私は発表する。
「そこで、ガラスを磨く石を探すために『研磨材を拾い隊!』を編成するわ!」
ガラス研磨に使えそうな石英砂ならば、採取できる川に心当たりがあるが……数人は人手が欲しい。
しかし、急速にメイド達のテンションが下がった。……あら?
「そんなダサ……奇妙な名前の隊には絶対入りたくありませんわ」
ソリーナが言い切った。今「ダサ」って言った?
「な、名前はどうでもいいの!!とても重要なお役目なのよ!?」
それでも目を合わせてくれないメイド達に、私は管理職権限で数人を指名するしかなかった。
……そんなにいまいちなネーミングだったかしら?割とうまいこと言った!と思ったのだけれど。
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「ドレス装飾のための材料を探しにいく」とお嬢様に告げれば、外出許可は簡単にとれた……というか、ご自分も着いてゆくと言ってきかなかったくらいだ。
「わたくしのドレスですもの、当然ですわ!」
──とにかくお嬢様は好奇心旺盛なのだ。
少女時代から、散歩では脱走し、迷ったり転んだり落ちたりと、あまりに危ないので、滅多に外に出してもらえなくなり……結果、社交界では謎多き深窓の令嬢となってしまった。
(妙な噂がたちやすいのは、そのせいでもあるのよね……)
「お嬢様、徒歩でゆくのですよ。危ないですから、どうかお屋敷に」
「わたくしにだって足くらいあるわよ!」
副執事長のエヴァルス様の言葉もまったく届いていない。
「どうしてもと言うなら、このシアナが負ぶってさしあげます!どうかそのおみ足で、私の背に……!」
「嫌よ、潰れそうだし乗り心地も悪そう。馬車にして」
即却下された。そんな……。
「馬車では難しい所も通りますし、河原での石ころ探しなんて何も面白いことはありませんわよ。泥まみれになるだけです」
駄々をこねるお嬢様にマーシアが微笑みかける。彼女は弟妹が多いせいか、お嬢様の扱いもこなれていて助かる。
泥まみれという言葉に、ようやくお嬢様も諦めてくれた。
……しかし私は今後の課題として、脳内のtodoに「足腰筋トレ」と「乗り心地の向上」をしっかり加えた。
いつか馬車に勝ち、お嬢様を負ぶってみせる!!
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結局、その日比較的手が空いていたチェスカとリルネ、マーシアの三人を連れてゆくこととなった。
留守のことはソリーナに任せればとりあえず安心だ。
「気を付けてくださいね、メイド長。落ちている物を食べてはいけません。あと、蝶や小鳥を追いかけて迷子にならないよう。マーシアの言うことをよく聞くのですよ」
……私もソリーナに女児だと思われている節があるわね。
目指すのは徒歩二時間くらいの郊外の小川だ。
昔、井戸の濾過装置を改善したときに、そこで石英砂を採取できたのを覚えていた。きっとまだあるはず。
しかし、普段お屋敷からあまり出ないメイド達にはけっこうな距離だったらしく、王国の城壁の門を抜け、石畳が土の道になってきたころには、すでに疲れが出始めていた。
「なんで私たちだけ、貧乏くじなのよー」
「まあまあ、チェスカ。ピクニックだと思いましょうよ。美味しいサンドイッチもたくさん作ってきましたから」
「マーシアさんはそれ以上食べない方がいいですよ。そろそろメイド服のボタンが飛びそうじゃないですかぁ」
「あらホント!後で縫い直さなきゃ」
口をとがらせるチェスカを、おおらかなマーシアがなんとかなだめてくれている。
「風が強くて、大事なリボンが飛んでしまいそうですわ。靴も汚れますし」
「リボンはとってカバンにしまっておきなさいな。靴も後で磨けばいいわ」
「カバンにしまったらリボンの意味がないですわ」
リルネもなんだかんだ着いてきてくれている。
本来、御屋敷の中での仕事をするメイド達だ。突然野外活動……フィールドワークに駆り出されたら、不満が出るのも無理はない。
「皆、もう少し頑張ってね」
振り向いてそう励ましたとき、私は妙な違和感をもった。
「……?」
誰かの視線を感じた気がして、周囲を見回してみるが、特に誰も見当たらない。
「気のせいかしら?」
動物だったのかも……と、あまり気にせずに、そのまましばらく歩くと、ようやく川のせせらぎが聞こえてくる。
「もう、足が痛くて歩けませんわ」
リルネが弱音を吐き始めたころにようやく川辺についた。
林の中を流れる美しい川だ。以前私が石英砂を取りにきたのと同じ場所に間違いない。
「皆、お疲れ様。作業に取り掛かる前にランチにしましょう」
布を敷き、マーシアが背負ってきてくれた多すぎるサンドイッチを並べ、水筒のお茶を出す。
お天気も良いし木々を揺らしていく風が気持ちいい。
「きゃっ!?」
突然、リルネが悲鳴を上げ、飛びのいた。
「どうしたの!?」
「あ、あそこに誰か」
リルネが震えながら指さす方向を見ると、林の木々の間から……こちらを見つめる何人もの人影らしきものが。
よもや盗賊!?
思わずメイド達を庇うように前に出た。
あれは……!?




