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16✦☾『お嬢様☆超キラメキ計画』

「おやシアナ。どうしました?顔が変ですよ」


教育長アデリーナ様は読書中だったらしい。いつもどおりの無表情。モノクルの奥の青灰(せいかい)の瞳は、今日も理知的な光を湛えている。


「か、顔は元からこんなものでございます」


鬼から人に戻れていなかったようだ……。慌てて両手で顔をこねくりまわすと、改めてアデリーナ様の前で一礼する。


お嬢様やお屋敷のことで悩んだときに、私がまっさきに頼るのはたいていアデリーナ様だ。

一見厳しくも見える方だが、その深い知識と公平な視点でいつも光明をくださる。

お嬢様が天上で輝く星なら、アデリーナ様は暗い海面を照らす灯台のようなお方。そしてお嬢様への深い愛情に満ちている。


「本日は、舞踏会での成功をふまえ、今後社交界にてお嬢様をどうお支えしたら良いかの御相談にまいりました」


「相変わらず仕事熱心ですこと。良いでしょう、お話なさい」


表に出さないようにしつつも、内心は煮えくり返っている。


(中傷を流した人間を、何としてでも探し出してやる……!)


サッシャは、うちの屋敷の近辺で噂を聞いたとのことだった。

姿を見ることはできなかったが、貴族らしい男性の声だったと。

「その口調から、すでにある程度広まっているかのような感じでした……」と、サッシャは肩を落としていた。


私はアデリーナ様に軽くお辞儀をする。


「ありがとうございます。まずは先日の舞踏会に出席されていた方々のリストを頭に叩き込みたく存じます。また、私は社交界の人間関係に疎うございます。そのあたりの勉強方法を……」


舞踏会の後から出てきた噂なら、あの舞踏会に出席していた可能性も高い。

それ以外でも貴族で、お嬢様に恨みを持ちそうな人間を片っ端から洗い出す。


「良い心掛けです。リストや社交関係については、総執事長のセズネイ様を頼りなさい。私からも伝えておきます。人間関係についてはリルネやラーサも詳しいと思いますよ。社交界に強い興味がありますから。私から教えられるのは貴族社会の歴史等になりますわね」


私の心中など知る由もないアデリーナ様は、いつものように的確なアドバイスをくださる。


(中傷者よ、首根っこ洗って待っていろ!!)


その気迫が顔ににじみ出てしまったのだろうか。アデリーナ様の鋼鉄のような表情筋がわずかに歪む。


「……目が血走っていますよ。熱心なのは良いですが、まずは落ち着きなさい」

「はい!!ありがとうござい……!!」

「這いつくばるのはやめなさい」


さ、さすがアデリーナ様。まさかの先制土下座ブロック……!


✦••┈┈┈┈••☽••┈┈┈┈••✦


アデリーナ様の部屋を後にした後も、私はどこの誰とも知れぬ中傷者のことが頭にこびりついて離れなかった。


いくらお嬢様の美貌が妬まれやすく、ちょっぴり敵を作りやすい性格だからといって、こんなことをされる理由にはならない!!


「徹底的に叩き潰さないと!!それも根元から!!」


ダンと思わず両手で机をたたくと、周囲にいたメイド達が驚いて飛びのいた。

しまった、ここはメイド部屋……。


「……あ、その、む、虫の話ですわ!困るわよね、大量に湧いてくると」

「なるほど、お嬢様に近づこうとする殿方たちのことですね!」


にっこりとテトが微笑んだけれど……、何か私を誤解している気がするわ……。


「メイド長、いつもどおり様子がおかしいですよ。次の舞踏会のドレスの打ち合わせなんですから、真面目にやってください」


ソリーナにも叱られて、慌てて意識をドレスに戻す。


「今度こそ王子が出席されるかもしれないのに、ヴェールを使いまわすのもね~」

「前回のインパクトが強かっただけに、次も期待されているでしょうし、同じじゃ芸がありませんわよね」


ファッション好きのチェスカやリルネも、頭を悩ませているようだ。


「そうね……。今回は準備期間もあることだし、もっと凝った装飾を作りましょうか」

「もっと凝った装飾!?」


何気なく言った一言に、一斉にメイド達の瞳が輝き、前のめりになる。


「メイド長、また素晴らしいアイデアがあるんですね!?」


すっかり陽気さを取り戻したサッシャの眼が、きらきらと私を見つめている。


(じ、実は、装飾については今から考えるんだけど……)


とは言えず、内心少々焦りつつも、なんとか満面の笑みで頷いてみせる。


「え、ええ。名付けて、『お嬢様☆超キラメキ計画』ですわ!」


……あら?なぜかメイドチームの士気が下がった気がするわ。


「……その名前は……、ちょっと、どうかと……」


ラーサがそっとつぶやいて目を逸らしたけど、まあ気にしないことにする。


装飾については今からだが、私はサッシャから聞いた中傷の話を受けて、あるアイデアを思いついていた。


(ガラス装飾と合わせて、『あれ』を使うことができれば、中傷もドレスも一気に解決できるわ!)


現時点では、間違いなく一番良い策のはず。

ただ……、そのために超えなければならないハードルは高そうだった。


おそらく、『あれ』を使うことには、反対される──。なぜかはわからないけれど、その確信はあった。


(でも、提案だけでもみる価値はある……!)


──私は、今世はチャレンジングにいくと決めたのだ!早速明日打診してみよう。


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