14✦☾セラヴェル家の機密事項
あの素晴らしい舞踏会から数日後、お屋敷の中も晴れやかな空気が流れている。
「シアナメイド長以下、スティラ付のメイド達よ、娘の素晴らしい夜への尽力に感謝する。妻も様子を聞いて喜んでいた」
我々メイドチームは、お嬢様プロデュースの大成功を受け、セラヴェル環伯からじきじきにお褒めの言葉までいただいてしまった。
普段はご静養のためお部屋に籠もられている奥方様までもが、お喜びくださったとあれば──これほど嬉しいことはない。
「これは臨時のご褒美も期待できるさね~!」
ちゃっかりもののチェスカは今からほくほく顔だ。
しかしメイド達を引き連れてお嬢様の部屋に戻ると、副執事長のエヴァルス様が、疲れ果てた顔で大量の文を抱え、お嬢様の元を訪れていた。
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「お嬢様、もうこちらでは対応しきれません」
エヴァルス様は五十代くらいの上品な紳士だ。
総執事長セズネイ様の下で屋敷全体に気を配りつつ、お嬢様の身辺も担当されている……我々メイドにも頼りになる存在だ。
「あら、わたくし宛ての恋文がそんなに?……まあ、無理もないことね。舞踏会では少々目立ちすぎてしまったから」
「いえ、ほとんどが、『あのドレスはどこの仕立屋に作らせたのか?』という問合せでございます」
エヴァルス様のそっけない答えに、得意満面から一転、みるみる不機嫌になったお嬢様の前に、慌ててひれ伏す。
「舞踏会直後に恋文を送るなど、そんな不躾な真似を貴族の殿方がするわけございませんわ!」
「そ、そうね。セラヴェル家令嬢への文ですもの。時間が必要なのは、……し、仕方ないことですわね」
お嬢様のご機嫌はやや持ち直したようでほっとする。
それに……もしお嬢様よりドレスが目立ってしまったなら、それはプロデュースとしては大失敗なので、ドレスではなくお嬢様への反応が多くあってほしい。
それは本音なのだが……、
「今後間違いなくお嬢様に恋文が殺到するかと思いますが、……そ、そんなことになったら、私が全て厳しく検閲さしあげ、当然一通たりとも通しませんわ!!」
「メイド長、それは検閲ではなく弾圧ですわ」
ふくよかな身体を揺らしておっとりと微笑むのは、メイドのマーシア。いつものソリーナのツッコミとはまた違う味わいがあるわね。
「……エヴァルス。わたくし宛ての文はけっしてシアナには渡さないでちょうだい」
「お嬢様!!そんなご無体な!!!」
「おお、そういえば。シアナメイド長にも文がきております」
エヴァルス様は、文の束を私にも差し出した。
「は?わ、私に?」
「メイド長が、あの装飾を作ったことが一部に知られているようで、作り方の指南希望や、装飾の発注まで来ております」
舞踏会でのレオネル様やエリヤ様との会話のせいだ……。私は教会から隠れるため、目立ってはいけないというのに。
お嬢様が私を名指ししてしまったから仕方ないとはいえ、御恨みいたしますわ、レオネル様、エリヤ様……!
「まあ!そんなの秘密に決まってるわ!あのドレスを着られるのはわたくしだけ!まったく、人の物を欲しがるなんて浅ましいったら!」
お嬢様は文を放り出して立ちあがった。
(控室で、嫉妬から他の令嬢のドレスを貶した方のセリフとは思えませんわ、お嬢様……!)
「いいこと!?あの装飾については、皆、一切他言無用だから!!材料も作り方もぜーんぶ秘密よ!」
地団太を踏みかねないお嬢様の隣で、私は一歩進み出ると、エヴァルス様に申し上げる。
「恐れながら指南は難しいかと存じます。あの装飾は、工程自体は単純ですが、螺術の扱いや指示のタイミングが難しく、失敗すれば火災や火傷・怪我の恐れがあるのでございます」
「メ、メイド長、そんな危険なことを私たちに……?」
小心者のラーサが今更怯えている。
「あなた方ならやれるという確信があったからよ。私なら的確な準備や指示もできるし……でも、他の方に教えるとなれば話は別ですわ、危険すぎます」
これは本当だった。加工のためにはガラスを高温にしなければならない。その時点で危険だし、細かく割るための冷却のタイミングや温度だって難しい。飛び散るガラス片や粉塵だって、人体に危害を及ぼすことがある。
そのあたりの対策をし、メイド達一人一人の属性や螺術の力・傾向、性格まで把握したうえで、私が慎重にタイミングをはかったからこそ、一度で成功したのだ。
「発注も……。私どもだけではお嬢様のドレスで手一杯で、他家の令嬢のドレスまでは、とても受けられませんわ」
「当然よ。次の満月の舞踏会では、前回以上のドレスを作ってもらわなきゃ!」
「なるほど。……セラヴェル家の機密ということでお返事するしかなさそうですな」
エヴァルス様はそう結論づけると、お部屋から出てゆかれた。
「ぜ、前回以上って……」
「前回もかなり大変だったわよ……」
「ねえ、ご褒美は~~」
メイド達が戦々恐々としている中、──メイドの一人サッシャが、他の子にわからないように、小声で私に声をかけてきた。
「メイド長。折り入って……二人きりでお話したいことがございます」
この数日間、皆が舞踏会の成功に浮かれている中、サッシャだけがどこか上の空なのには気が付いていた。
これは……。
ま、まさかついに来た……!?




