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9✦✦円環の守護者たち

華やかな舞踏会の翌朝──、大教会内にて。


王宮近くにある大教会は、「円環の守護者(ガルディア)」と呼ばれるこの大規模な組織の中枢にあたる。


真白な壁と、同じく白く塗られた高い天井が連なる、荘厳なる「円環の間」。

その中心には、円環に螺旋が重ねられた巨大な紋章が、朝の光を受けて鈍く輝いている。


今朝も、神官たちは(おごそ)かに祈りを捧げていた。その中には、学術者エリヤの姿もある。


両腕で輪をつくり、何かを抱きしめるかのようなポーズ。それが「円環の祈り」だ。


「昨夜の満月も、滞りなく各地にて『クレミナラの夜明け』の儀式が完了した。皆の者、ご苦労だった」


祈りが終わると、壇上にて高位神官アークガルディアがそう告げる。

続いて各地方教会からの報告が読み上げられていくが、エリヤは退屈そうに頬杖をつき、窓の外の雲を眺めていた。


「……皆の者に、伝えねばならぬことがある。──非常に悪い報告だ」


報告が終わった後のアークガルディアの言葉に、ようやくエリヤはその氷色の瞳を檀上に向けた。


「昨晩──、まだ詳細はわからぬが、悪しき者の存在が、観測された」


神官たちは顔を見合わせ、かすかにざわめく。


「悪しき、とは……?」


若い神官が不安げに一歩踏み出る。


「まだ……はっきりと言えることはない。しかし、この円環の世界に(あだ)なす者であることは、間違いあるまい」


ざわめきは一層大きくなる。


「このことは神官以外には決して知らせぬこと。いたずらに事を荒立てることを円環は望まぬ。ただ、異変を感じたらすぐに報告するように」


アークガルディアはそう話を終えると、一度檀上を降りる。

わずかに場の緊張がゆるみ、神官たちは各々に、心配そうな表情を見せたり、不安げに何か小声でささやきあったりしていた。


「そういえばエリヤ、昨夜の舞踏会でセラヴェル家の令嬢が、やけに光る装飾を身につけていたらしいが、物は何だったのだ?」


高圧的な神官の声に、エリヤは足をぶらつかせながら気の抜けた調子で応じる。


「あァ……あれですか。小粒の真珠を散らした飾りでしたヨ」

「ふん、真珠か……」


とたん、神官は興味を失ったようだった。……真珠は生物由来の宝飾品。教会の「警戒外」なのだ。


「しかし、貴族連中もくだらない舞踏会をよく毎月毎月……。神聖な満月の夜に限って」

「だーから、儀式で忙しい神官サマに代わり、ボクらが舞踏会番をしてるんでしょうヨ、……本来、ボクらは学術者で、そうヒマでもないんですけどネ」


エリヤの軽口に、神官の眉がぴくりと動く。


「エリヤよ。おまえの鉱石知識を重宝し、貴族社会の監視をさせているが、おまえは本来まともに生きられる存在ではないことは肝に銘じておけ。教会の温情に感謝を忘れるな」


一際低い声で、その神官はすれ違いざま、エリヤの耳元でささやいた。


「この醜き逸脱者(デスヴィア)──、いや、簒奪者(ザルナ)が」


周囲の神官たちの視線が冷たく刺さる。

だがエリヤはまるで気にも留めず、口の端を吊り上げてにやりと笑うだけだった。


やがて王宮をはじめ、市井の人々が到着し、本格的な祈りの儀が始まる。

しかし、エリヤは人波に紛れてさっさと退出してしまった。


「どーも、あの人達は苦手ですナ……」


(まァでも……)


円環の間を出ると、朝日がまさに昇りゆくころだった。

スティラのドレスからそっと拝借した、一片のガラス装飾をこっそりと取り出すと、エリヤは指に挟んで光の反射を楽しむ。


「あのシアナちゃん……、個人的にキョーミありますネ」


そしてエリヤはその欠片をぽいっと投げ捨てる。


「……セラヴェル家なら、使える『駒』もありますし……」


小さなガラス装飾は、キラリと一瞬朝日を反射すると、あっけなく草むらに消えた。


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