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第71話 逃げるな

 しばらく雫と一緒に勉強していたかなただったが、集中力がどうしても続かない。

 教科書に浮かんでくる単語、数字、それらすべてが意味を成していない意味不明な羅列のように思えてしまう。


 ごめん、一回花摘んでくるわね、とかなたは申し訳なさそうに言う。せっかく勉強に付き合ってくれているのに、こんなに集中力が続かないなんて申し訳なさばかりが募る。


「いってらっしゃーい」


 それでも雫は優しい笑顔で見送ってくれる。自分の勉強もあるというのに――雫の大切な勉強の時間を、こんな不出来な自分なんかのために使わせることに、だんだんと腹が立ってきてしまう。


(あーーもう、最悪だ。自己嫌悪で頭が忙しいって状態になってる……ううー)


 一人廊下を歩きながら、かなたは悶々と自分で自分を戒める思考から逃れられないでいた。


 自分が悪い。

 自分がこんなどうしようもないしょうもない人間なのが悪い。

 自分があきれてものも言えないほどに人に迷惑をかけているという存在であるにもかかわらずこうしてのうのうとしているのが悪い。

 全部自分が馬鹿であほで愚鈍でやる気のない才能のないなんの魅力もないカスで濁り切った沈殿物から生まれてきた害虫みたいなのが悪い。


 こんなことを無限に考える自分が、自分を罵倒する言葉を思いついて自傷することに夢中になっている自分が本当に嫌い。


 思い当たる原因は、一つしかなかった。


 母親と、会話したからだ。

 母親と話すたびに、自分の自尊心が根こそぎから奪われていくのを感じる。


(はぁ、ダメだ。完全に駄目ループに入ってる……何も頭に入ってこない……)


 いつもヘラヘラしている自分の頭の中が普段からこんなんだって笑えてくるよな、とかなたは眉をキュッと締める。


 だからだろうか。


「――さん、――き、さん!」


 後ろから聞こえてくる声に、反応するのが遅れてしまった。


「鈴木さん!?」


「おうわぁ!?」


 かなたは驚いて振り返った。そこには、誰よりも背が高い、内気な……


「お、おう……釘矢君かい。びっくりさせんなよー。心臓が飛び出てそのまま死んじまうところだったじゃないかー」


 かなたは無理にでもマイナス思考に陥っている自分を他人に――特に、倫太郎には悟られたくなかったから無理にでも小ボケをかました。


「え、あ、そ、そんなに心臓に悪かったですか!? すす、すすすっ……すみませんっ……!」


 だが倫太郎は愚直なまでにかなたの言葉をうのみにしてしまう。自分が他人に――特に、かなたを傷つけたくなかったから、倫太郎は申し訳なさで頭がいっぱいになる。


「こ、言葉の綾だよ綾! 私生きとる! ほら!」


 かなたは(薄い)胸をぱんと張って倫太郎に見せつけた。ほら、大丈夫だろう? と。


「……は、はいぃ……」


 だが、倫太郎はどこか恥ずかし気に目を伏せていた。なんで急に恥ずかしがってんだ? とかなたは不思議に思う。

 かなたは胸を押し出すようなポージングが魅力的でも何でもないと思っていた。貧相な体で細いだけの体に、エロくとも何ともないだろうと。


 倫太郎は、目の前のかなたが急に制服に膨らんで浮かび上がる小さな双丘の形状が露になる様を見て、思わず火照るほどに気恥ずかしさを覚えたのだった。


(鈴木さん……メイド服もいいけど、制服姿も可愛いなぁ……。胸元のリボンもきっちり締めてるところとか、なんというか、全身が、こう、可愛いで埋め尽くされてて……)


 こんなに可愛いと思える存在なんてほかに居るのかとさえ思える。


「まあそれはいいとして……君は何してんの?」


「あ、えっと……と、友達と! 勉強してます!」


「へえ。いいじゃん。あのバスケの人ら?」


「は、はい! そうなんです! 俺、放課後に友達と勉強するっていうのが、ずっと羨ましくて、やってみたくて……それが出来て、うれしいです!」


「10連ガチャで限定星3キャラ2枚抜きするよりも?」


「っ……は、はぁい!」


「逡巡すな」


「いやー、でも、本当に嬉しいんです、楽しいんです、最近、なんか……」


 へへ、と倫太郎は人懐っこく笑う。

 その笑みは、いつも自分に向けている笑顔だ。

 やわらかくて、ほほえましくて、どこか子どもっぽくて……心が絆されるような、笑顔。


(そうか。この笑顔を、クラスメートにも、見せているんだ)


 自分だけが知っていると思っていた。

 倫太郎のその笑顔の良さを。


 でも、今は違う。


(……なんでこんな私、複雑な気持ちになってるんだ)


「わっはっは。そうかそうか、君もとうとう陽キャにクラスチェンジってところか!」


「えぇ!? よ、陽キャっ……!? ってあのー……陽キャって、どう、な、なんですかね、な、何をする、んでしょうか……?」


「そらもうあれよ」


「急に関西の監督に……」


「まああれじゃない? イソスタでひと夏の思い出を100個くらいアップしたらいいんじゃない?」


「半分以上ailes d’angeでの思い出になりそうですね……」


「……ぷっ」


 思わずかなたは笑った。


「あはは、ごめんごめん。馬鹿にしてるわけじゃないんだ」


 かなはたホッとした。

 

 ああ、良かった。


 なんだか、倫太郎が遠くに行ってしまうんじゃないかと、思っていたから。


「まあでも、ailes d’ange以外だと、テンセグのスクショ画面とかになりそうです……。もう少ししたらハーフアニバなので……」


「あー、来るなぁ。今回はどんなぶっ壊れ性能キャラが出てくることや」


「そのために必死になってガチャを耐え忍んでいますから俺……」


「え? じゃあ前のガチャの”紀閃ふわり”もスルーしたの?」


「しましたよ……、ストーリーでも第二章であんな大立ち回りをして、そのあとずっとガチャに登場してこなかったんですよ? 初登場から387日も経ったんですよ? なんならふわりがアニバ記念で出ると思ったんですから……でも、恒常だからってことで、何とか、必死に、耐えて、耐えて……」


「ハーフアニバの期間は星3の排出率2倍になるっしょ? それに半年たてばセレチケの選択キャラの範囲内に入ってくるだろうし、まあ耐えればいいじゃない」


「そうっすね……耐えて、耐えます……苦しい……こんなにもガチャで出てくることを楽しみにしていたのに、時期が時期なだけに、見送らざるを得ないのが……そしてそれを10連でも20連でも回して己の運否天賦に賭けようともしない情けない自分が……」


「でもその耐え忍ぶ姿勢がいつかきっと身を結ぶ時がくるだろうから、頑張りたまえよ若者よ……」


「ありがとうございます……同い年ですけど……」

 

 なんだか、倫太郎と話していると、モヤモヤしていた自分の頭の中が和らいでいくのを感じた。


 不思議だ。


 倫太郎と一緒にいると、楽しいっていう感情が、負の感情を簡単に超えてくれる。


 気持ちを前に向けることができる。


「よーっし、勉強頑張るかねー」


 そう言ってグッと背伸びする。細い体が縦にさらに伸び、倫太郎の前でついつい無防備な姿勢を見せた。


 その背伸びの姿すら倫太郎は刺激的に見えてまた耳を赤くしてしまっていた。

 恥ずかしがっていることがバレたくないから、倫太郎は話を半ば無理矢理にでも変えた。

 

「……あ、が、頑張りましょう! 試験もですけど……テンセグも!」


「え? あ、あー……テンセグなぁ……ちょっと、しばらくはやめようかなって思ったんだよな」


「そ、そうなんですか? もうすぐ始まるイベント戦で、せっかく鈴木さんが(お嫁さんは殿堂入りとして)めちゃくちゃ好きなノイルが活躍するボス『スノウフェアリィ』が出てくるじゃないですか」

 

「そうなんだよなぁ……いや、本当は、ほんとーは、もう、やりたいのはやまやまなんだが……ちょっと、テストを真面目に頑張ろうって思って、テンセグも触らないようにしようと思うんだ。やり始めたら攻略サイトとか見るだろ? その時間がほら、もったいないじゃない」


「そう、なんですか……」


 普段から毎日デイリーきっちり消化して無料で取れるジュエルや育成アイテムも欠かさず取りに行っていたし、普段の会話でも当たり前のように口にしては楽しそうに語るテンセグを、テスト期間中とはいえ止めるのは倫太郎にとっては意外だった。


「じ、じゃあ……最近までずっと、LANEでやり取りしてたテンセグの話とかも……」


「あー、そうだなー、控えるようにするわ。てか、ほっとんど私からの一方的なやり取りみたいになってたけどな! このキャラのイラストめっちゃ好きとか、太腿の間の影の色合いがスケベすぎるだろみたいな」


「い、一方的なのは全然いいんですけど……でも、そう、ですか」


 倫太郎は、かなたと頻繁にLANEでオタクの話をやり取りするのが好きだった。好きなゲームの話ができるというのもあるし、でも、それ以上に――


「あっはは、なに落ち込んでんだって! クラスでできた友達とゲームの話とかすればいいじゃん! あれでしょ、バスケの人たちもオタクが二人くらいいたんでしょ? オタク話するならそれでいいっしょ」


「そ、それは、そうなんですけど……」

  

(暇木君、手知君と、話するのは、楽しい……でも、それ以上に、鈴木さんと話をするのが、一番、楽しい……)


 そんな心内を曝け出す勇気は倫太郎にはなく、ただかなたの言葉に否定もできずにあいまいな肯定をすることしかできなかった。


「でも、どうして、そんな、急に勉強を……」


「ん? あー、まあ、ね」


『今度こそ、お母さんに褒めらたいから』

 

「ちょい真面目に学生らしいことしなきゃと思ってねー」


「そうなんですね! ……あの、バイトもやってて大変じゃないですか?」


「なーに君が不安になってんだい。学業とバイトくらい乗りこなしてみせるさ」


 そしてかなたは、自分に強く言い聞かせるように、言った。


「何事も、頑張ったらうまくいくんだから」


 かなたの眼が、薄暗い、黒色に染まる。

 

「出来ないっていうのは頑張ってないってことと一緒だからさ」


 その時。

 倫太郎の背筋が凍った。


 笑っているはずのかなたの瞳が、普段とはまるで違う――氷のような、冷徹な光を帯びていたから。

 

 非情で、厳格で、いつものかなたとはまるで違う。


(誰だ……?)


 誰かが、かなたの心に”憑依”している。


「そいじゃ、戻るわー」


 そう言ってかなたは、何事もないように、倫太郎に手を振って雫が待つ次週部屋へと戻ろうとする。

 その後ろ姿に、倫太郎は何度も心の中で(こんな俺が言ってもいいのだろうか)と逡巡しながらも、勇気をもって、声を放つ。


「あ。あの、鈴木さん!」


「んあ?」


「あの……鈴木さんは、鈴木さんのままで、か、変わらないで、欲しい、です」


 自分でも何を言っているのか分からない。

 でも、なにか、急に不安になった。


 さっき見せた表情が、何かが、得体のしれない何者かが、かなたの心に、精神に、乗り移っているように見えたから。

 

 かなたが、変わっていってしまうんじゃないか、という恐怖。

 理屈はない。根拠もない。

 だから、これはただのたわごとに過ぎない。

 何なら、自分がほっとしたいから、安心したいから、という保身の気持ちから放たれた言葉かもしれない。


 そう思っていてもなお、倫太郎は口に出したかった。


 変わってほしくないから。

 ずっとずっと、かなたはかなたのままで、いてほしかったから。


「……」


 かなたは振り返り、じっと、倫太郎の顔を見る。


「なんか、私、変に見えた?」


「え、あ、い、いや、そんな、ことは……」


「だよね。あーよかった」


 そう言ってかなたは背中を向け、歩き去って行った。


 一人残された倫太郎は、動悸が収まらないでいた。


 いつも通りの口調なはずなのに、かなたの表情は、眼だけは笑っていなかった。

 

 それが何を意味しているのか、倫太郎は分からない。

 倫太郎が気遣おうとした気持ちを、拒絶するような。


(……鈴木さん……本当に、大丈夫、なのかな……)


 それをただ思慮することしかできない自分の無力さが、倫太郎は苦しかった。


 


 ◇◇◇



『なーに君が不安になってんだい。学業とバイトくらい乗りこなしてみせるさ』


 自分が放った言葉が今、かなたを苦しめていた。


 雫に勉強を教えられて改めて自覚した。今の自分には普通に考えれば30位なんて目指せるような学力なんて持ち合わせていない。

 授業をさぼれるところはさぼって、友達と宿題を上手いこと分担しながら手抜きをしてきたかなたには、おそらく平均90点は必要であろうラインにまるで届いていない。

 せいぜい、60点がいいところというレベルだ。


 じゃあ、それを底上げするには、毎日勉強しなければならない。

 三週間かけて。


 かなたは一人マンションの部屋で、机に向かって孤独に勉強に取り組もうとする。

 だが、あまりにも高すぎる目標が、逆にかなたの集中力を削いでしまう。

 こんな初歩的なところもわからないのに、90点も取れるのか? と。


 そうしたら気を抜いてしまって、自然とスマホに手を伸ばそうとして――


『ほら。貴方っていっつもそうね。やる気のない、だらしない子』


「っ!」

 

 かなたはうめき声を上げながらスマホをとっさに投げ飛ばした。狭い部屋でリビングを超え、玄関まで弾き飛んだ。


「…………………………………………………………ああ、もう、本当、カス」


 さらにかなたには、ailes d’angeのバイトもあった。一か月前にシフトを決める際、定期考査の期間中でもかなたは『どーせテストなんて真面目にやんないしいっか』と適当な気持ちでテスト準備期間中にもいつもと同じ仕事量を自分の手で選んだのだ。

 その時は、勉強なんてどうでもいいと思っていた。

 

 でも、今は――勉強の時間が惜しい。母親に認めてもらえるかもしれないチャンスだから。


「なんで私、明日もシフト入れたんだろう……バカ、あほ、どじ、間抜け」


 もちろんバイト中に勉強なんてできるわけもなく、終わった後は疲れて勉強どころではない。

 冷静に計算すればするほど、30位なんて不可能だということを思い知らされる。


 そう。


 こうして無理だ、できっこないって悩んでいる時間が進めば進むほど、不可能がより確実なものになっていく。


 そんなことを考えずにとにかく今できることをするべきだ。勉強をするべきだ。

 

 分かってる。

 分かってる。

 分かってるのに。


「……」


 かなたは力なくへたり込んだ。


 普段以上に食欲が湧かず、力も出ない。頭痛がする。


 この頭痛でいっそ倒れれば、と不謹慎に願うが、鬱々とした思考ははっきりと自らを諫めるように罵詈雑言を叫んでいる。


 ピカッと、投げ飛ばされたスマホの画面が光る。何かの通知だろうか。

 かなたは足取り重く、スマホを手に取った。


 Heear Craftの店長からのチャットだった。


 マイナス思考に苛まれている中、もしも店長からのお叱りのチャットだったらどうしよう――と些細なミスや失敗を誇大化しそうになる。


 しかし、チャットの内容は、かなたの想像とは全く逆だった。


 むしろ、今のかなたの現状を救えることができるものだった。


『そろそろ期末考査の時期だろ? 前の中間考査もだが、この時期にバイトに入って勉強する時間は取れているのか?』

 

『テスト期間中は休んだらどうだ シフトも余裕はある』


「っ……!」


 救いの糸が、今まさに目の前に垂らされている。

 かなたの眼が生気を取り戻し、頭が心地いいくらいにチカチカと痛んだ。


 やった。

 やった。

 やった。


 これで、これで、これで……バイトから、

 逃げれる


『そうやって、また約束したことから逃げるんだ?』


 幻聴の母親の声が耳を劈いた。目を強く瞑り、現実と言う名の自己嫌悪に戻る。


(そうだ、私、約束しただろ、この期間はテスト準備期間だけどシフト入れてもいいのかって、言われても……大丈夫って、私が、私の言葉が……勉強なんてどうでもいいとか思ってたような自分が、答えたんだろうが。その言葉に責任を持てよ。なんでそう軽々と、約束したことを私は勝手に、てめえの都合で、ただだらしないだけというなっさけない理由で、それを反故にできるんだよ)


(そうやって簡単にバイト休みますって言って、それで店長からの信頼が損なわれたらどうする。コスプレして女子高生が働ける場所なんて近辺でここしかないんだぞ。普通はお酒を出したりする店なんだよコンカフェは。でもここはそういうことをしないんだ。だから、こんな、楽しい場所は、オタクのお姉さまたちと楽しく話せて、お客さんがオタクの話で盛り上がっているのを眺められて、それに、未成年でも入れる……雫と、そして……そう、釘矢君に、会えるのは、この場所でしかないんだ)


(この場所を、失いたくない)


(自分の身勝手な理由で、テストが大変だからと言う理由だけで、休んでいい理由になんてならない。店長にもっともっと信頼されるには、ここで、胸を張って約束を守ることが大切だろうが)


 かなたは無我夢中でスマホにメッセージを打つ。

 

 ――絶対、休んだ方がいい。


 内なる小さな声を、かなたは歯ぎしりをしながら無視した。


『大丈夫です! 任せてください 私、ちゃんとバイトと学業両立できるんで!』


 そのメッセージを、勢いに任せて送信した。


 余裕を見せなければ、と思い、かなたは、テンセグのSD化された美少女キャラが、サムズアップして『だいじょうぶっ♡』と大きな文字が描かれているスタンプを打った。


 バクバクと、心臓の音がうるさい。


 やってしまったんじゃないか。

 こんなこと、しないほうがよかったんじゃないか。


 いや、でも、


 そうだ。


 店長が、無理にでも、シフトを変えさせられるようなことが起きたらどうだ?

 やっぱり高校生は今のうちにちゃんと勉強した方がいいんじゃないかって起点を効かせてくれるんじゃないのか?


 あ、そうだそうだ。

 その可能性がある。


 だから、こうして私がメッセージを打って死ぬほど後悔しているのも、実はなんの意味もなくて――


『わかった 無理はするなよ』


 店長のメッセージが返ってきた。


 そうして、かなたはテストまであと三週間の内、バイトで半分つぶれることが確定した。


 もう、やるしかない。とにかく、睡眠時間を全部削ってでも、やりきるしかない。


 政治家だって公約を守らなくて糾弾されるだろ。それと同じだ。


 約束したことは必ずやり切る。


 やり切りないからこうやってこれまで母親に見放されたんだろうが。


 頑張る、頑張る、頑張る。


 頑張る。


 明日のバイトも、頑張る。勉強も頑張る


 頑張る。


 頑張るしかないんだ。


 「あ、はは、は、はー、はっはは、が、がんばる、ぞ!!」

 

 かなたは叫んだ。


 叫ぶしかなかったから。


「今日はもう徹夜で勉強するしかないな!」


 かなたは気合を入れるように自分で自分の頬を強くたたいた。何度も何度も。


 母親が自分をはたくとしたらこれくらいだろうな、と想像しながら。



 


 数日後。

 かなたはバイトで先で、最悪のミスを犯した。

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