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初めてできた友達は、小さくて可愛いコスプレ好きなオタクの女子高生でした。  作者: 安田いこん
第三章 198センチの陰キャオタク君が球技大会で頑張る話
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第63話 憎悪

 ちょうど試合が終わったところの、同じクラスのドッチボールのチームたちが、こぞって倫太郎たちを応援しにきていたのだ。


「な、なんか……バスケのチーム、すごい頑張ってね?」「常鞘が出るって聞いてびっくりしたけど、でも思った以上にやれてるっていうか……」「風治ってバスケやってたんだ、結構やるじゃん」

「おいおい、俺ら同じクラスだからもっと前で見させろよ」「俺ら応援するんだからよ!」

「がんばれー! 風治!」「常鞘くーん!!!! かっこいいよおおおお!!!!!!!!」「ひっ、ひまきぃ……てちぃ……がんがえぇー……」


 他のクラスの生徒を押しのけて、どんどんとクラスメートがやってくる。次第に大きな応援団のように集まってきている。


 最初、倫太郎は自分以外の4人の応援の声だけが耳に入っていた。

 自分への応援はないと思っていたし、それがこれまで当たり前だと思っていた。

 だがら、遅れて倫太郎は知覚する。

 自分に向けられた声援を。その、大きい声を。


「っていうかあの釘矢……なんか思ってたのと全然違う動き方してね!?」「ずっと延々とサポートに回ってる」「もっとオラオラって感じでダンクしまくりぶっ倒しまくりって思ってた……」

 「釘矢―! お前やるじゃねえかー!」「その調子でパス回していけー!」「やったれ釘矢―!」


 凶暴で恐ろしい存在だと思っていたクラスメートたちは、倫太郎の献身的なプレーを見て、少しずつ、印象を変えていく。

 

 倫太郎が殺人タックルをしていた、というのはあくまで人づての噂だ。

 目の前で戦っている倫太郎は、そんな噂なんかよりもはるかに魅力的に映る。


 その声援が、熱い声援が、倫太郎に向けられていた。


(お、俺を、応援、して……?)

 

 試合中に声援を送られることなんて、倫太郎は初めてだった。


 得点を決めても、チームメイトからは祝福もされず。

 応援に来るチームメイトの父兄たちは、倫太郎とかいうバケモノだけが活躍する展開に心底つまらなそうな顔を浮かべていて。


 今は、違う。


「なんかあのバケモノ、意外とパス回すの上手いじゃん……」「てか長身がポイントガードやってんの面白すぎね?」「ポイントセンターやってんの初めて見る! こんなんなんだ……」


 派手なダンクや、あわよくば倫太郎の暴力的な乱闘を見れるんじゃないかと言う思惑からは外れていた。だがそれ以上に、倫太郎があくまで正攻法で、水木原のチームに勝ちに行っているというのが、物珍しく、そして面白い。

 誰もが皆、水木原と言うバスケのエースに対し倫太郎がどうパスを回して躱していくのか、そして戦っていくのか。

 その戦術性の高い倫太郎のプレーに、みんなが夢中になって応援していたのだ。


(……)


 声援が力になる。

 

 そんなこと、実感したこともなかったから、信じてもいなかった。


 足が、わずかに、軽くなった気がする。気のせいかもしれない。気の迷いかもしれない。

 こんなバケモノみたいな自分が誰かから応援されるだなんて思う方が、おかしいかもしれない。

  

 でも、それでも、今だけは信じて見たくなった。



 一方……水木原はインターバルの間、ずっとイライラしていた。


 周りの声援が、倫太郎を応援しているのが。


「なんだよ、結局……デカい奴が動いたら面白いだけかよ……クソが」


(バスケは身長が正義なスポーツなんかじゃない。日本人でNBAの舞台に立ったあの選手の身長は俺とだいたい同じくらいなんだ。ただデカいだけが取り柄のあいつが、ちょっと試合で動いてるからっつって全員、クソみたいに注目しやがって……!)

 

 チームメイトは一人いら立ちを隠せない水木原に近寄れないでいた。水木原は葉を嚙み鳴らしながらコートに向かう。

 その水木原に対し、白宮が一言、ぼそりと言う。


「水木原。本気出していいぞ」


 水木原は白宮の方を振り返る。白宮もまた、釘矢が試合で活躍している様を苦々しい目で見ていた。パスを出す役割で体の接触がほとんどなく、ファウルを取る隙がない。


「わかりました。”プレス”をしかけます」


「歓声で浮かれてるあのキモいデカブツ、つぶせ」


「はい」


 白宮からの命令は、単純明快だった。

 

 倫太郎を一方的に叩きのめす。


 徹底的に。


 水木原の全身に、青白い気迫の湯気が纏う。


「お前ら。後半、何もするな」


 水木原がチームメイトに告げる。


「俺が全部やるから。だから、邪魔するな」


 後半が始まる。水木原のチームのボールとなり、倫太郎はすぐさま水木原をガードするために動く。


「邪魔」


 水木原は瞬く間に倫太郎を抜いたかと思えば、そのまま風治を躱し、一瞬のうちにしてシュートを決める。

 8対12。早くも4点差となった、


「は、はやっ……!」「何今の、すごくねっ……!?」「バスケ部の本気だっ……!」


 水木原の速攻に衝撃を受けているのは観客たちだけではない。倫太郎は、水木原のスピードに手も足も出ず唖然としてしまっていた。


(ぜ、前半よりも、速くなってる……? どうやって、止めれば……)


「おい、釘矢! 攻めるぞ!」


 風治はいち早くボールを掴み、倫太郎へと投げ込む。


「あ、う、うん!」


 風治からボールを渡され、倫太郎は我に返った。


(と、とにかく1点でも返さないとっ……!)


 そう思いながら倫太郎が、相手ゴール側からドリブルで走り出そうとした時だった。


「っ!?」


 倫太郎の行方を阻むように、水木原がピッタリと付いていた。


「ゾーンプレスっ!?」


 風治は驚いた声を上げる。

 ディフェンス側がボールを持った相手をコートの隅に追い詰め封殺するプレーで、相手陣地ボールを奪おうと果敢に動く水木原に倫太郎は自ずと後退してしまっていた。


(き、球技大会でやっていい作戦じゃねえだろ!)


「釘矢! こっち!」


 助け船を出そうと風治が声を出すが、そこに投げ込もうにも窮屈な姿勢を強いられ、倫太郎は苦しい顔をする。


(き、急に激しい動きをっ……! これファウルじゃない……!?)


 水木原はファウルをしないギリギリのラインで倫太郎の体に接触する。白宮も、仮に平等に見たとしても水木原に笛を吹くことはない。


(ちょこまかと動いて不快だろ、腹が立つだろ、窮屈で早く抜け出したくなるだろ)


 水木原の思惑通り、倫太郎は無理な状態からボールを風治に投げ込もうと腕を振り上げる。

 そのわずかな隙を、水木原は見逃さなかった。


「あっ!?」


 水木原の手がスルリと滑るように動き、倫太郎のボールを掴む。そしていとも簡単に倫太郎の手からはがし、水木原はボールを手にした。そして倫太郎が追いつく暇もなくすぐさまシュートを決める、

 8対14。1分もしないうちに、2点差だった状況が一気に6点差になる。


「釘矢! 速攻で行くぞ!」


 風治は再び倫太郎にボールを投げ、すぐドリブルで突破するように声を出す。


「う、うん!」


 だが、それにビタ付けのディフェンスを水木原は仕掛ける。


「させねえよ。にげんじゃねえ」


 水木原に再びボールを取られるのではないかと言う緊張感で、倫太郎は足を止めてしまう。足を止めてしまったら、もうそれ以上前に進むことができない。じりじりと、行動範囲を狭まれる。選択肢をつぶされる。

 

(こっち出せバカタレ)


 雷華はサッと水木原の背後から、倫太郎に伝わるように目くばせしながら近づいてきた。


(つ、常鞘君!)


 救いの女神みたいに見えてきた雷華に向かって、倫太郎はボールを投げ――


「焦ると目が分かりやすくなるな」


「っ!?」

 

 水木原はあっさりと倫太郎の動きを読み、パスをはじく。そしてそのままボールを持って、またシュートする。

 8対16。これで、8点差になった。


 試合の雰囲気が、一気に重苦しくなる。

 逆転の可能性が、たった水木原一人の手によって、いとも簡単につぶされていく。


 観客たちは水木原のプレーに圧倒され、言葉が出ない。


(どうする。どうする。どうする、どうする……!)


 倫太郎の脳内を、焦りが支配する。

 水木原のプレスを躱そうと必死になって、足を必要以上に動かしてしまっている。精神的に肉体的に追い詰められ、倫太郎は息苦しさを覚え始めていた。


(こんな、あっさり、点差が開くなんて……)


 いけると思っていた。後半戦、もっともっと頑張れば、何とかなると思っていた。


(あきらめちゃ、だめだっ……!)


「風治君!」


 倫太郎はダッシュして、遠くからボールを投げ込んでもらうように風治に声を出す。

 その意図を組んで、風治はボールを投げ、


「カスが」

 

 それを読んでいた水木原はいとも簡単にパスを奪った。


「く、くそぉっ!?」


 風治が即座に水木原をディフェンスするが、それをあざ笑うかのように抜き去って水木原はシュートする。

 2点が簡単に入った。

 8対18。10点差。その点数が、倫太郎のチームに重くのしかかる。

 

「わ、わるい、釘矢……! 俺がミスしたばかりに……」


「大丈夫、うん、大丈夫。大丈夫、だから」

 

 その言葉とは裏腹に、倫太郎は足元が崩れ去る様な絶望感に苛まれていた。


(水木原も、俺と同じくらい、疲労がたまっているはずなのに……ディフェンスを、抜けられる気がしない……)


 水木原は倫太郎以上に体を動かし、疲弊している。だが目が血走り、一縷の隙も油断もない。


(ちょっとしかスポーツやってねえお前と俺が、試合の土壇場の体力勝負で勝てると思ってんのか、カスが)


 身の程をわきまえさせてやる、と水木原はスタミナの限界を超えて倫太郎を相手する。


「う、うわ、ちょっとあれ……」「ガチでやりすぎじゃない……?」


 試合を見守っていた生徒たちは、水木原の大人げないプレーに引き気味だった。


 風治をはじめ雷華、暇木、手知も倫太郎を助けようと近づくも、相手選手に阻まれ動けない。


 一方的に、水木原に倫太郎が蹂躙されるのを、ただ見ていることしかできない。

 

 水木原一人で、試合が完全に終わっていく。


「はぁ、はぁ、はぁっ……」


 風治からボールをもらうも、水木原のプレスは止まらない。


(本当に、最後までやる続けるってこと……?)


 水木原にいいようにやられている自分が、情けなくて、許せない。

 押し付けられる水木原の体を、手で、強く、押し倒したくなる。

 やってはだめだ。そんなことをしたら、噂通りの人間になってしまう。


 でも、自分には水木原になすすべはない。


(このまま、何もできなくて、終わったら……)


 情けなく水木原にぼこぼこにされるみじめな自分の姿が、晒されるだけだ。


(……じゃあ、もう、いい、のかな)


 自分が恥をかいてこの試合が終わるのなら。

 4人はとても頑張ってくれた。自分だけがみじめにやられて終わった。


 それでいいんじゃないのか。

 

 その羞恥を、自分だけが我慢すればいいんじゃないのか。


(そうだ、自分が我慢をすれば場が収まる……。その通りに、すれば、いいんだ……)


 ――暴れるな。何かを言われても反撃しようとするな。黙っていろ。

 ――お前さえ我慢すれば、何も起きないんだから。


(怒ったら、怒られるもんな。そうだ、もう、あきらめたらいいんだ。このどうしようもない怒りは、ずっと、胸に沈めていれば――)

 


「釘矢くーん!!! がんばれー!!!」


 

 声がした。


 心地いい声。


 可愛くて、天使みたいな声。


 愛らしくて頼もしくて、耳にするだけで幸せになる声。


「……鈴木さん?」


 視界に、映った。


 かなたの姿が。


 鼻に詰め物をしながら、倫太郎に大きく手を振って、応援する。


「いけー! ぶったおせー!!!」

 

 両手でメガホンを作って、倫太郎に腹から声を出す。そのあどけない仕草が、懸命に声援を送ろうとする健気な姿が、すべてが、愛おしく見える。


 かなたのドッチボール組の生徒たちも詰め掛け 「いけー! なんかでっかくてつよい人ー!」「釘矢君だって、釘矢君!」「おねがーい! やっつけちゃってー!」と声を送っていた。

 かなたに顔面をぶつけた騒動で、水木原のクラスに対抗心が芽生えたのだろうか、バスケの試合で一泡吹かせてほしいと、かなたの音頭と共に倫太郎に熱烈な応援を送っている。


(よかった、病院沙汰とかじゃ、なくて……)


 詰め物はしているが、鼻を骨折したわけでもなく、鼻血を流したで済んでいる。

 それが分かっただけで、倫太郎は付き物が落ちたかのような心地に至る。


(本当に、良かったぁ……)


 そのかなたの声は、水木原の耳に届いていた。

 そして水木原は、吐き捨てるように言う。

 


 

「うわ、あのチビだ。ちょこまかとうるせえなぁ。もっと思いっきり鼻に当てて顔ひしゃげさせりゃよかった」


 


 瞬間。


(■■■■■■■■、■■■■■■■■、■■■■■■■、■■■■、■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■、■■、■■■■■■■■■■、■■■■■)


 倫太郎が考える、一番最低で最悪な罵倒が、脳内を駆けまわった。


 

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