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初めてできた友達は、小さくて可愛いコスプレ好きなオタクの女子高生でした。  作者: 安田いこん
第三章 198センチの陰キャオタク君が球技大会で頑張る話
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第61話 オールアウト!!!

 予選最後の試合が始まろうとしていた。

 バケモノの倫太郎とバスケ部のエース水木原が戦うとあって、試合を観ようと詰め掛ける生徒たちが多くいた。

 

 倫太郎たちのクラスは予選敗退がすでに決まっている。これまでの試合で無得点。

 頼みの綱は倫太郎でこの試合のみダンクが許されると言うが、これまでの倫太郎の中途半端なプレーとファウルの多さで、焼け石に水でしかないのではという見方が強い。

 一方で水木原のクラスは、運動部の主力級の部員たちが集い、これまで全戦全勝。

 そこに現バスケ部のエースの水木原がこの試合に限り加わることで完全無欠となった。

 誰も、倫太郎のチームが勝てるだなんて思っていない。


「あのバケモン、水木原が体育の授業でぼこぼこにしたのってマジなんかな」「まじまじ! バケモノがなすすべもなくぶっ倒されたって」

「うわ、みてー! バケモノが倒されるところ!」「でもダンクも見て見たくね?」「でも水木原がさせねえだろ」「水木原をタックルでぶっ倒したらいけるだろ」「水木原のしつこいディフェンスにブチ切れて? うわ、やってきそうで怖い」

「ガチで危険タックルしたらやばいな」「噂通りになったらなったで大変なことになるな」

「早く見たいな、バケモノ対バスケ部のエース」


 身長が高いだけの倫太郎をバスケ部のエースがどう蹂躙するのかと言う面白さ見たさと、

 そしてその倫太郎が、水木原を危険タックルでぶっ倒してしまわないかという怖いもの見たさで、観戦する生徒たちは今や今やと騒ぎ立っていた。


「……お前、本気でやるんだな? 知らねえぞ、途中で体力がなくなっても」


「風治君、ありがとう。でも大丈夫。全力出せば、いけるから」

 

 倫太郎のチームが体育館のコートにやってくる。周囲は倫太郎を好奇な目を向け、特に意地悪な女子たちは中傷的な言葉を投げかけようとして、その倫太郎の隣に――


「えまって常鞘君がいるんだけど!?!?!?!」「うそまじ!?!? マジだ!!!!!!」「やばいこれからバスケする常鞘君見られるの?!?!?!」「やったーーー!!!!!」

「おいバケモノ!!!!! 常鞘君に出来るだけボール回せ! お前はシュートするな!!!!」


 応援なのか罵倒なのか分からない女子たちの声が飛んでくる。それを雷華は無視しながら倫太郎に言う。


「体力なくなっても走り切るだけだからな、お前は」


「そ、そうだね……」


「あ、あの、お、俺たち……し、失敗するかもしれないんですけど……」「お、怒らないで、もらえると、ありがたいっていうか……」


 今から失敗することを恐れている暇木と手知たちに、倫太郎は優しく言う。


「大丈夫、です。全部、俺が、カバー、する、ので」


 5人がコートに集まった。コートの外では多車が5人を見守っている。


 そして、相手のチームが遅れてやってくる。

 先頭を歩くのは――

 

「お、来た来た。危険タックル君じゃん」


 水木原だった。舐めた口で、自分から広めた悪口を倫太郎に吐く。


 後ろに控える選手たちも見るからに走れそうな連中であり、これまで無得点の倫太郎のチームに対して早くも余裕しゃくしゃくと言った表情を浮かべている。

 

「……」


 倫太郎は水木原に顔を見つめられても、目を背けなかった。


 今、倫太郎が水木原の顔を見て、頭に浮かんでくる言葉一つでも吐いてしまったら、止まらないと確信していた。だから、黙っていた。

 黙って、黙って、堪える。


「あっは。黙っちゃって。ダンクできるもんならしてみろよ。ぜってえさせねえから」


「……」


「審判の白宮だけど、俺とお前のマッチアップの時だけ笛の基準を普通に戻すだとよ。だから手加減しないでこいよ。ぶっ殺してやるから」


「……」


「俺、七馬先輩を怪我させたの許してねえからな。いいよ、バスケの試合でむかついてタックルしてきても。そうしたらあとは喧嘩だ。お前の両足の腱を踏みつぶしてずたずたにして二度と歩けねえようにしてやるから」


「……」


 倫太郎は無言を貫く。

 

「死ねよ」


 そう吐き捨てて水木原は踵を返す。


「じゃあ試合始めるぞぉ」


 最後に白宮が現れる。ここで白宮が、水木原が特別に試合に出ること、倫太郎にダンクが許可されることを明言したことで、体育館は異様な盛り上がりを見せる。

 体育館ではもう倫太郎と水木原のバスケしか試合がない。ほかに用事がない生徒たちが興味本位で次々と集まってきており、今日一番の注目がここに注がれていた。


 白宮が笛を吹き、ゲームがスタートする。


 白宮がボールを投げ、それを倫太郎はやはり高い跳躍力で難なく取り、風治にボールが渡った。


(お、あの雑魚がポイントガードやんの? そっか、多車ってやつが怪我したからか。あいつにボール回すセンスあるわけねえだろ)


 水木原はさっそく風治に向かって走ろうとするが、風治が早くもパスをする。


(なんだ、速攻でも仕掛ける気か? 無理無理! だってもう俺らのチームがすぐにゴール下についてんだから……って)


 水木原は一瞬、足が止まった。


 風治がパスした先は、倫太郎だった。

 その倫太郎はボールを抑え、悠々と遠目からパスコースを探している。


「は……はぁ?!」


 水木原は呆れた様な声を出した。

 倫太郎が、ポイントガードのような仕事をしようとしているからだ。


「何、考えてんだお前……」


 水木原は倫太郎に迫りパスの邪魔をする。倫太郎と水木原の1ON1がまさかのポイントガードのフィールドで起こり、生徒たちの動揺の声が広まる。


「お前がポイントセンターだなんてできるわけないだろ! ばぁか!!」


 白宮が嗤いながらやじを飛ばした。


「……」


 対峙する水木原がボールを奪おうとする最中、倫太郎は顔を動かさずに周囲をぐるりと見渡す。

 目を右、左、と二回動かす。

 バスケ経験者の風治に二人ついている。風治はプレッシャーでぎこちない顔をしている。

 雷華に一人ついている。雷華はいつも通りの表情。

 暇木に一人ついている。暇木は気圧されていて腰が引けている。

 手知が、フリーになっている。


(んー……)


 倫太郎が手知の方にわざと顔を向ける。暇木についていたディフェンスが即座に反応して手知の方へ注意を向けた。


(あ、すごいな。分かるんだ)


 関心する。


(そうしてくれると、ありがたいな。誘導にしっかり、乗ってくれるなら)

 

 倫太郎はボールを雷華の方にパスを出そうと手を動かす。

 同時に風治に付いていたディフェンスが、注意を雷華に向ける。


「バカが!」

 

 倫太郎のノールックパスを見抜き、水木原が手で防ぐ。


「分かりやすすぎるんだよお前の動き!」


「……」


 パスをしようとした右手で握っているボールを、倫太郎は左手で受け止めた。

 そして左手にスイッチしてパスを出す。


 その寸前――雷華にディフェンスが注意を向けた分だけわずかに開いた、風治の走るスペースを見る。

 そこから逆算する。

 風治がフリーの状態でシュートを打てる位置を。そこの位置に風治が走り出せる距離を。

 自分がボールを投げるタイミングと、風治がディフェンスの隙間を抜いて走りだすタイミングを。


(これ、ここで風治君が走ってこなかったら一旦常鞘君にボール渡して……)

 

 風治は、自分にディフェンスが開いたのを察知した。

 倫太郎の方を向いて走り出そうとする。

 いや、走った。


(あ、これ、間に合うな)

 

「なっ」


 倫太郎は左手で、誰もいないスペースにボールを投げる。

 パスミスか――と誰もが思っていた。


「うおおっ!」


 その誰もいないスペースめがけて、風治が走った。悪魔みたいなパスで、ギリギリのところでなんとか風治は受け取る。


「はぁ!?」


 風治をディフェンスしていた二人は完全に虚を突かれる。フリーの状態になった風治はすぐにシュートをする。


 パスン。


 あっけなく、2ポイントシュートが入った。


 一瞬だった。

 

「は、はえええええ!?」「なんだ今の!?」「え、ぜ、全然見えなかった、な、何が起きたんだ今の!?」


 周りがどよめきのような歓声を上げる。


「む、無茶なパスをするな本当に……」


 全力で走らないと取れないパスをなんとか受け取ってシュートした風治は、倫太郎の視野の広さと鬼のようなパスに苦笑いした。

  

「は、はぁっ……?」


 水木原が瞳孔を広げ、あっさりとアシストパスを決めた倫太郎をにらみつける。


「ふざけやがって……ただのラッキーパンチだろ、バカが、死ねよ、クソが」


 ボールを即座に受け取り、水木原はすぐに攻撃を仕掛けようと走り出す。


 だが、そこに――倫太郎が、立ちふさがった。


「お前っ……!!」


「……」


 倫太郎は水木原のパスを防ごうと、両手を広げディフェンスをする。


「はっ。どんだけ頑張ってもよぉ、前みたいに抜かされるだけだろうが」


 倫太郎は背後の声を聴く。

 味方の声以外の、相手チームの選手の声。

 運動部らしく、無意識のうちに声を出している。その声の大きさで、自分の背中の右に居るのか、左に居るのか、わかる。

 

 味方はこいつマークした! と声を出すのは風治くらいしかいない。

 味方の声が出てこないほうは必然的に、ディフェンスができる人がいない。


 だから、割り切ったディフェンスをする。


「くっ、こいつっ……!」


 水木原は暇木、手知の明らかに動けない連中がいるところにパスを出そうとする。

 そこだけには絶対に通さないとばかりに、倫太郎が間合いを詰める。

 

 逆に言えば、それ以外は通しても構わない。


「あー、めんどうくせえなぁ!」


 水木原は風治の方に向かってドリブルで抜く。ぬかされた倫太郎の代わりに、今度は風治が水木原をディフェンスする。


「はぁ!? お前、このっ……」


 虚を突かれた形になり、水木原は仕方なくパスを出す。倫太郎のチームでディフェンスが薄い――暇木、手知、雷華の方だ。


 そいつら程度なら抜けるだろうと、水木原は思っていた。


 そこに倫太郎が猛スピードで駆け寄り、ディフェンスに加わる。


「く、釘矢君っ……!」


 急に目の前に相手がボールを持って攻めてきて、混乱していたところに釘矢が現れ、暇木は助けを求めるように言う。


「大丈夫。右のほう、お願い」


 暇木と二人になってディフェンスをする。相手は暇木相手なら簡単に抜けるところを、長身の倫太郎が目の前に現れ、動きが固まってしまう。


「気にするなボケ! あのデカブツに体突っ込め! どうせファウルもらうから!」


 そう水木原に言われたが、いざ対峙すると倫太郎の威圧感が想像よりも強く、思わず身がすくんでしまう。


 これまでの試合で見せていたような、弱腰なディフェンスではない。

 堂々とした姿勢で、低い重心で、早いステップで追従する。


 むりだろこんなのっ……! と、水木原にパスを出す。


「お前っ……まあ、いい、俺が攻め――」


 味方から弱気のパスをもらい、仕方なく攻めようとした水木原の目の前に、再び倫太郎が現れた。


「……お前、馬鹿か?」


 瞬く間に自分の方へとディフェンスしにしたその瞬発力は確かに凄いだろう。だが、水木原は呆れていた。


「そんなんで体力持つわけないだろ……」


「……」


 倫太郎は無言の圧力で水木原にプレッシャーをかける。呼吸はすでに荒い。このコート上で一番動いているのだから当然だ。

 もう一度、同じようにパスをすればいい。そのたびに俺はディフェンスに回る。


 ボールを愚直なまでに追いかける。

 ただボールの近くにいるだけで、相手にプレッシャーをかけられる。パスのコースを制限できる。

 倫太郎一人だけが、オールコート前提で動く。

 これが倫太郎が考えた、勝つための作戦。

 自分一人で二人分の働きをすることで、5対6にする。


「このっ……」


 水木原はもう一度倫太郎を抜き、パスを回す。倫太郎がつかさず回り込むが、水木原は「もういい! パス!」と無理やりパスをもらう。

 そうして倫太郎が戻ってくる前に、水木原は無理やり一人でゴールに突っ込む。

 守っているのは手知と雷華。

 その二人を、細かいフェイントを駆使して抜いてく。


 おお、二人抜きだ! と生徒たちが湧く。


(こんな雑魚抜くのに、フェイントとか体力使う真似したくねえよ! クソが!)


 水木原は体力を使いながらもシュートを決めて、同点に追いついた。


「はぁ、くそ、だるい……」


 こんな序盤で走りまわるだなんて考えもしていなかった。水木原は汗をぬぐう。

 

 倫太郎は、疲れを感じていなかった。ボールを取り、ポイントガードとしてゆっくり、ゆっくりと試合を進めていく。

 

「……」


(次は、どこにパスを通そうかな……)


 味方ではなく、相手のディフェンスの動きを見る。ゴール下に向かわせないようにしているのか、倫太郎へのパスを通さないようにするのか。

 誰がどのパターンなのかを目で見て判断する。

 相手の動きのパターンを組み立てられれば必然的に、ディフェンスが薄いスペースが見つかる。


(あそこ……ボール、通したいな。どうしよう)


「お前、背がデカいからってパスを通せると思ってんだろ……!」


 水木原が執拗なまでに倫太郎の周りを動き、とにかく前へ動かないように止めた。


(……暇木君、開いてるな)


 喉に力を入れる。


 七馬のような、耳によく伝わる声を出すために。


「暇木君!!」


 倫太郎は暇木にパスを出す。と同時に、ボールから手を離した状態で走り出し、すぐさま水木原を抜く。


「わ、わぁっ……!」


 暇木はボールを受け取り、ディフェンスに襲いかけられる。


 が……


「ええいっ!」


 そのままノーモーションで、ボールをポーンと高く投げた。

 

 そこに、ダッシュでかけてきた倫太郎がジャンプし、キャッチする。


 水木原を抜いた状態でパスを受け取って着地して、数歩走ればダンクができる距離にまで迫る。


「やばいっ!?」


 このまま倫太郎を放っておけば、ダンクされて得点が確定で入る。ディフェンスが猛然と倫太郎に駆け寄ってきた。

 倫太郎は一瞬だけ周りを見渡し、フリーになった味方を探した。

 手知だった。


「手知君!」


 倫太郎は手知に素早くパスを回す。倫太郎についていたディフェンス陣が反射的に反応し、手知の方へと向かう。


「うおわぁっ!」


 そして手知は暇木と同じようにまた高くボールを投げる。それを倫太郎は再び高くジャンプして取り、さっきよりもよりゴールに近づいてく。


 その場所で、倫太郎は四方を見渡した。センターの位置で、そこからどこへでもパスが出せる。

 

「ふざけんなお前っ……お前、お前みたいなド素人が、ポイントセンターとか何千年はええんだよ!!」

 

 水木原がすぐさま戻ってきて倫太郎をガードするが、その隙すら与えないように、


「常鞘君!」


 ディフェンス陣が誰もが忘れていたもう一人の選手の雷華に、ボールが渡る。

 知らぬうちに、雷華はゴール下で待っていたのだ。


「はいはい」


 そしてそのまま雷華は、あの日本大橋の公園で練習したように、倫太郎に教わったフォームで、シュートを放つ。

 

 シュートが入り、2点が入った。


 再び歓声が上がる。水木原が入れたシュートよりも大きな歓声だった。


「は、はやっ……!」「パスってあんな簡単にポンポンと決まるもんなの!?」「てかあのバケモン、動きすぎじゃね!?」「きゃーーー!!!! 常鞘君かっこいいいいい!!!!!!!!」


(馬鹿が、だから無理があるだろっ……! ポイントセンターとか、あいつがあんな走り回って、体力が持つわけないだろ……!)


 点を取りなおそうと、水木原が再びボールを持ちドリブルを仕掛ける。


 やはりそこに、並走するように倫太郎がいる。


「しっつこいんだよお前っ……!」


 水木原は強引に倫太郎をぬかそうとして速攻を仕掛ける。

 

「させねえよぉ!」


 それを待ち構えていたかのように風治が水木原の行く手をふさぐ。


「ああ、もう、うぜえっ……! 雑魚がぁっ……!」


 水木原は速度を落としながらステップを決め、風治を交わす。


「ほらよぉ! お前なんかすぐ抜けんだよ! カスが!」


「……そうだな、俺じゃあ、お前を倒せない。だけど……」


 水木原が風治をかわすために速度を一瞬落とした。その隙だけで、倫太郎が間に合うには十分だった。


「こいつとなら……釘矢と二人かかりなら、止められるだろ!」


「し、しつこいっ……! しつこいしつこいしつこいしつこい!!!!」


 ビッグマンと戦えるところを監督の白宮に見せつけたかった。

 実際、倫太郎をあっさりと簡単に抜くことはできる。

 だが、こんな”ポイントガードのように縦横無尽に駆け回る”ビッグマンなどという相手にべったりと付かれるとは想像だにしていなかった。

 あり得ないからだ。198センチもある選手をこんなに走り回させる高校があるなんて。


(俺に抜かれて腰ぬかしててへたり込んでるんじゃなかったのかよっ……クソがぁ!}


 水木原は妥協で、味方にパスをする。やはり倫太郎がパスした先に迫りかかるのを見計らい、パスを返すよう合図を送る。


 そのパスを、倫太郎は反射的に――相手が水木原にパスを出すだろうというのを目線で察知し、手で防ごうとする。


「あぶなぁっ!?」


 だが、ボールはわずかに倫太郎の指をかすめた。そのまま水木原はゴール下へとドリブルし、シュートを決める。


 これで、同点。


(……これだけやって、まだ、同点なのかよ)


 水木原はむしゃくしゃした想いを募らせる。

 点は入る。倫太郎も頭を使えば躱せる。

 

 だが、水木原含め、試合中に感じるプレッシャーの重みが、ずっしりと体にのしかかるのを感じる。


 少しでもミスをすれば、あの長い手をした倫太郎が瞬く間にボールを奪うのではないかと言う、不安。


 その心理的プレッシャーを、倫太郎一人が生み出している。

 肉体的に接触して圧をかけるのではない。


 いつでもそこにいるという恐怖を徹底的に植え付けるのだ。倫太郎の体力と引き換えに。


(……どうしよう、思った以上に足に、疲労がきてる。特にパス取るときにジャンプ繰り返したのがまずかったかも)


 倫太郎はボールを持ちながら、冷静に自分の肉体を分析する。

 自分の体力が空になるのは、もう最初から想定していた。


 空になっても動き続けるのだと、自分を鼓舞し続ける。


 それで肉体がぶっ壊れてもいい。


 どうなったっていい。


(水木原のチームを、倒せるの、なら)


 倫太郎は汗をぬぐうことなく、一心不乱にゲームに集中する。


 ラグビーの試合で、ここまで試合に集中することはなかった。

 ただただ、パスをもらって、走って、相手を抜くだけ。

 向かってくる相手は手で押し倒したり、ステップで躱せばいいだけだった。


 今は違う。


 七馬のように、フィールドを見渡し、味方と相手の動きをつぶさに見て、最適なコースを探す。


 そこにボールを投げ、パズルのようにゴールへと向かって進んでいく。

 

 それが倫太郎は、楽しかった。


(七馬先輩も、こんな景色を見てたんだろうか……)


 七馬と同じ目線に立ってプレーできていることに、倫太郎は嬉しさと喜びを覚える。


 楽しいという感情が、肉体の限界を超えていく。



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