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初めてできた友達は、小さくて可愛いコスプレ好きなオタクの女子高生でした。  作者: 安田いこん
第三章 198センチの陰キャオタク君が球技大会で頑張る話
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第60話 感情は抑えるのが当たり前だと思ってた

「ソフトボールとドッチボールの試合がちょうど重なるから出られる奴がいない。残ってるのは俺だけ。だから俺が出た。それ以外の説明がいるか?」

 

 多車がいて何とか戦おうと作戦を練っていたところでその多車がいなくなり、その代わりが雷華ということで風治は困惑しかできないでいる。

 

「いっ、いや、説明とかそういうんじゃなくて……お、お前、球技系のスポーツってやったことあんのか……?」


 風治は恐る恐る雷華に尋ねる。


「ない」


「なんでそんな堂々と”ない”って言えるんだよ!? もうちょっと申し訳なさそうに言えよ!?」


「風治……怪我した俺が言えたことじゃないけど……でも、常鞘、こう見えて結構やる気満々っぽいから……。だって、自分から代わりを志願してきたんだぜ」


 こいつが? と風治は雷華を見る。

 

「な、なんでだよ。お前そもそも、音楽やってるとかで辞退したんじゃなかったのかよ」


「気が変わった」


「き、気が変わったって……」


 風治は戸惑う。雷華は確かに陸上部にこそ入っているが、多車のように運動神経が良さそうにはまるで見えない。

 多車から雷華への交替は単純に考えれば戦力ダウンだ。


「お、お前……ば、バスケできるのか? 勝てるのか?」


「なに? お前、勝てる勝負じゃないとやんないのか?」


 常鞘は風治を挑発する。


「なっ……!」


 一瞬ムカッとするが、その挑発は水木原のような侮蔑を目的としたものではないことを風治は悟る。


「勝てるか勝てないか、じゃないだろ。勝つんだろ」


「っ……わ、分かってるわ、そんなこと!」

 

「じゃあもうこれ以上文句言うな。で、次の試合の作戦は決まってんのか?」


「たった今無に帰したところだよ! くそっ、マジでどうしたらいいんだ……」


「風治、俺も協力するから作戦考えよう。外から声出して指示することくらいはできるから」


 多車が風治の肩をポンと叩く。

 これまでのいざこざは無かったことにして、一から考えよう。そう言いたげに。

 

 別に多車は風治に謝ってほしいわけじゃなかった。みんなで協力して試合に勝ちたかった。ただそれだけだった。

 

「……そう、だな」


 多車の想いを感じとり、風治は冷静になって、二人で作戦を練り始める。


「つ、常鞘君」


 二人が作戦会議をする間、倫太郎は雷華に近づく。

 

「ぴ、ピアノはだ、大丈夫なの……?」

 

「俺だって本当は出たくない」


「え?」


「当たり前だろ。突き指でもしたら当分趣味のピアノ弾けなくなるんだぞ。最悪だ」


「……じゃあ、どう、して」

 

 雷華は、倫太郎にだけ聞こえるように、言った。


「……鈴木の、度胸を買ったまでだ。文句ならあいつにいえ」


 倫太郎は目を丸くする。

 

「す、鈴木さん……? ど、どうしてそこで鈴木さんが……」


 かなたから何かを言われたということなのだろうか。

 でも、それで雷華が急にやる気を出してバスケに出よう、となるとは正直あまり思えなかった。

 趣味のピアノを天秤にかけてでも、バスケに出ようと思った理由が分からない。

 

「……まあ、あいつの感情に……変な話、感化されたというだけの話だ」


「と、というと……どういう……?」


 雷華はしばし無言になって、思案する。

 雷華が見た、かなたと水木原のドッチボールの試合の結末を、果たして言っていいものかと。


(正直に全部伝えたら……こいつの情緒どうにかなりそうなんだよな……)


 まあ、でもいいか、と雷華は結論付けるとした。


(こいつも……もう少し感情的になったほうがいいだろうし)


「鈴木と水木原とのドッチボールの試合を、偶然観てた」


「……!」


 水木原の名前が出てきて、倫太郎は思わず身を強張らせる。

 体育の授業で目の前でののしられたこと。

 噂を広められたこと。

 それだけでも、水木原の名前を聞くだけで頭がキュッとなる。


「……え、な、なにが、おきたの……」


「あいつ、体小さいだろ。で、最後の一人になってもずっとボールを避け続けた。簡単には当たらせないって、まあ、頑張ってたんだろうな」


「……」


「で、そこで水木原がボールを取った。で、鈴木にめがけて……」


「え、ま、まって、まさか……」


「思いっきりボールを投げた。顔に」



 ドクン。



 倫太郎の心臓が、張り裂けそうなほどに高鳴った。


「顔に当たって、それも女子にだっていうから周りは大騒ぎだったけど、鈴木は一人だけ『顔面セーフ!』っつって叫んでてゲームを続行しようとしてた」


(鈴木さんの顔面に、ボールが、当たった?)


「で、頭に当たって自分の体に転がったボールを取って、で、思いっきり水木原にボールを投げつけた。騒然となってところだったから水木原が気を取られてて、そのまま取り損ねる。で、あいつが水木原を倒したと」


(あの、可愛い顔に? ボールが?)


「でも鼻血出たから、とかって言って鈴木が保健室に行くことになった。内野に誰もいなくなったから俺らの勝ち、とか水木原がほざいてそこでまた騒ぎになった」


(鼻血? 鈴木さんの鼻に当てたってこと? お、折れたりでもしたら……)


「で、まあ……根性あるなとは思った。あいつなりに水木原に戦おうとしていたんだろうな。お前の悪評をばらまく真似をして、抵抗したかったんだろ」


(まって、まって、まて。鈴木さん、保健室に行った? ど、どうしよう、い、い、行か、行かなきゃ――)


「……おい、なにしてんだ」


 雷華に両手で片手を掴まれる。倫太郎は、思わず、雷華をにらみ返した。


 高い目線から怖い顔で見下ろす倫太郎に、雷華は動じない。

 これで動じるくらいなら、舐め腐った態度で倫太郎の机に顔を突っ伏して寝たりなどしない。


「もうすぐ試合だろ。今保健室に行ってどうする」


「それは、そう、だけ、ど……!」


 雷華に強く握られている片腕。

 多分、簡単にほどけるだろう。

 強く振りかぶれば。


「……っ」


 できるわけがない。友達に暴力を振るうことなんて。


「で、でも……し、心配、で……」

 

 顔に当たって泣いていたりしていないだろうか。あのきれいな形の鼻が、曲がってしまっていないだろうか。

 不安だった。

 不安で、不安で、不安で、どうしようもなくなって――


「鈴木が望むこと、お前にだってわかるだろ」


 諭す様に、雷華が言う。


「それ、は……」


「水木原をぶっ倒すこと、だろ」


「っ……!」


 言われて倫太郎は、水木原に対する感情が、吐出しそうになる。


「それは、そう、だ、だけ、どっ……!!!」

 

 それを必死に歯を食いしばって、堰き止めようとする。

 だめだ、これを、吐き出したらだめだ。

 

(水木原の■を■■■して、■■■■■で、■■■■してやりたくなる……!)


「っ……ごめん、常鞘君。一旦、腕、離して。大丈夫、保健室には、い、行かないから」


 その言葉を信じ、雷華は手を離した。


 瞬間。



 バチィ!!!!!



 倫太郎は両手で思いっきり、自分の頬を叩いた。

 一発。

 二発。

 三発。


「え、え、えっ……!? な、なにやってんだお前……?」

「な、何事……?」


 さっきまで作戦会議をしていた風治と多車が突然の倫太郎の奇行に戸惑いの声を上げた。


「気合入ったか、それで」


 雷華は倫太郎に問う。


「……うん」


 倫太郎は頬を紅くしながら、覚悟を決めた表情になる。


 かなたが望んでいることは、倫太郎が心配した顔で駆け寄ることじゃない。

 水木原を、倒すことだ。

 バスケで。

 スポーツで。

 正当な戦いによって。


「……え、えっと……く、釘矢もやる気を出したってことで……いいんだよな、常鞘?」

 

 ちょっと怯えながら多車は雷華に問う。


「なんで俺に言うんだ。あいつに言え」


「そ、それは、そうなんだけど……ちょっと、なんか、釘矢の雰囲気が急に……変わってって、いうか」


「……俺、ずっと、感情抑え込んでた、無理矢理……」


 倫太郎は独白するように言葉を連ねる。


「怒ると、みんなに、怒られるから。でも、今だけはごめん……個人的に、水木原に、すごい、怒ってるんだ、俺」


「……そりゃ、あんな噂広められたら、なぁ……」


 多車は慮るように言う。風治も言葉にしないが、水木原に対する恨みつらみを同じく持っている倫太郎に、同じ思いだという親近感を抱いていた。


 雷華だけが、倫太郎の怒りの本当の理由を知っている。


「……だから、この、怒りを……全部、試合に、ぶつけたい。水木原のチームを、叩きのめして、やりたいんだ」


 倫太郎は抱え込んでいた感情を、ゆっくりと、しかし確実に、吐き出していく。

 それを暴力ではなく、スポーツの舞台で、すべて、思うがままに、発散したい。

 ただその一心だった。


「一緒に、試合、頑張りたいんだ……多車君、風治君。常鞘君と、それと……」


 倫太郎は急に後ろを振り返る。

 そこはちょうど周りから死角になっていて、人から隠れるには十分な場所だった。


「暇木君と、手知君も」


「は?」


 なんで急にあいつらの名前を? と風治が思っていると、まさに倫太郎が目線を向けた先から、こそこそと二人が現れた。

 

「な、なんで、バレたの……」「せっかく、これからゲーム配信見ようとしてたのに……」


「その場所、人から隠れるいい場所だよね……お、俺も、た、たまに、使ってるから……」


 そこは、倫太郎が白宮から追いかけられていた際に隠れる場所としてよく使っていた場所だった。

 その場所に誰かが来たのは察していて、それが暇木や手知だというのは高い背丈からよく見えていた。

 

「ぼ、僕たち、が、いても、役に、立たないよ」「だって、も、もやし人間だし……」


 バスケの試合でも活躍できなかった二人がすっかり落ち込んでいるのは分かっていた。だから、声をかけるのをためらっていた。


 でも、そんなことを言っている余裕なんてない。


「もやしだだんだとか言ってらんねえだよ、やるんだよ俺たちで」


 風治が怒鳴るように言い、二人は萎縮してしまう。


「ま、まあまあ風治、そう怒るなって……。二人とも、頑張ろうな、うん」


「でも……」「僕たちのチーム、一点も入れられてないのに、勝てるわけなくない……?」


「それは、そうだけど……」

 

 二人の残酷なまでの正論に多車は言い淀んでしまう。


 倫太郎は考える。

 冷静な頭で。

 試合に勝てる方法を、プランを、道筋を。

 1%でも勝てる可能性を探る。


「……」


(風治君がポイントガードするとして、それを水木原……が対峙する。基本はこの二人のマッチアップになると思う。俺がセンターにいたとして、それを止めるはず。パスラインを徹底的につぶす。困り果てた風治君が他の人にパスして、そしたらそこを奪う。それで完封される。なんで完封されるのか。攻撃パターンが一つしかないから。俺がダンクすることくらいでしか、点が入らないから)


 こんな時、七馬だったら何を考えるだろうか。


 どうやって、チームを引っ張るだろうか。


『試合に勝つ方法? そりゃ、数的有利をいかにつくるかだろ。ディフェンスをおびき寄せて、人が少ない場所にこっちが人数をかけて突破する。サッカーでもアメフトでも、同じこと』


 倫太郎は、一つの結論に至る。


「……簡単なことだった。5人対5人じゃあ、勝てない」


 だから。


「作戦は……俺が……二人分になる。そうしたら、6対5で……勝てるかもしれない」


「「「「は?」」」」


 多車、風治、暇木、手知が一斉に戸惑いの声を上げた。

 何を言っているんだこいつは、という目をしている。


「面白いじゃん」


 雷華だけが、楽し気に笑っていた。


 倫太郎は素面だったらこんなことを言わないだろう。

 だが、今の倫太郎は、感情をむき出しにしている。

 その倫太郎の姿を、雷華は見て見たかった。


「聞かせてもらおうか、お前の作戦を」


 雷華の言葉に、倫太郎は静かに頷く。


「……多分、すごい、無茶なことを、みんなに強いるかもしれない。しんどいかもしれない。でも、やりたいんだ」


 理由は一つしかない。


「水木原に勝ちたいから。何がなんでも」



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