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初めてできた友達は、小さくて可愛いコスプレ好きなオタクの女子高生でした。  作者: 安田いこん
第三章 198センチの陰キャオタク君が球技大会で頑張る話
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第59話 ポイントセンター

 風治が倫太郎と雫を見つけた少し前のこと。


 倫太郎は体育館倉庫の裏で隠れるように項垂れていた。そこで今日頭の中で散々繰り返した自問自答と自虐を再生産していたところに、

 

 「やっほー」

 

 雫がやってきた。


「あっ……あ、飴川さん、お疲れ様、です」


 と倫太郎が律儀に頭を下げる。そのどこかかしこまった倫太郎の仕草が雫はちょっと面白くて「ふふっ」と微笑む。


「偶然釘矢くんの姿見かけたら近づいちゃった。隣、座っていい?」


 倫太郎は、自分が座っていたコンクリートの段差を「あ、ど、どうぞ!」と大きな体を揺らしながらずらす。


「ありがとね」


 穏やかな笑顔を見せながら雫は倫太郎の隣にすわった。


「あ、飴川さんのチームって、ど、どうなりました……?」


「えへへ、決勝いったよ! 予選ギリギリ!」


 雫は倫太郎にダブルピースをしてみせた。よほど嬉しいのだろうか、倫太郎の腕に胸がふんわりと触れるまで体を接近している。


「よ、よかったですね……!」


 雫に密着されて倫太郎は少し声が上ずる。雫の豊満な胸に迫られることよりも、自分が汗臭くないだろうかという心配のほうに意識がいっていた。


「あっ、ご、ごめん近かったね! えへへ、つい興奮しちゃって」


「あ、だ、大丈夫です……」


 倫太郎が目線を胸でも足でもなく、自分の顔を向いてくれることに雫は(こういうところが釘矢くんのいいところなんだよね)と心の中で思う。

 そんな紳士な倫太郎だから、自分の本当の趣味を打ち明けてよかったと思える。


「さっきのダブルピースね? やっぱり不思議なエロさがあるよね。両手を無防備にしてるっていうのとか。致すときにそういうポーズとるの、ピースってちょっと相手に対してふざけてるような印象を与えるけど、実際には相手の体を押し除けれるはずの手をそのおふざけのために使ってて、要するに"私はあなたに屈服しています"ってことを暗に示してるんだよね。エロいよね……」


「それは確かにそうかもしれないですけど間違いなく今この学校内で語ることじゃないと思います……」


 困惑したような顔を浮かべる倫太郎の反応に雫はお淑やかそうに笑った。


「えへへ、ごめんね。釘矢君だったらちょっとえっちなこと喋っても大丈夫かなって。周りに誰もいないしね」


「その、まあ、えっと……飴川さんが楽しそうなら……構いはしないですけど……ちょっと、恥ずかしいです」


「今度、またかなたちゃんと一緒にアダルトショップリベンジしようね」


「ま、またですか!? こ、懲りたんじゃ」


「でも3階はまだ行けてないし……」


「……じ、じゃあ……す、数分間だけ、ちらって覗くだけなら……それと、購入は絶対ダメですからね……お店の人に迷惑がかかるので……」


「やったー! ありがと!」


 押しに弱い倫太郎はついつい雫のお願いに応えてしまう。この押しの強さは見習わなければならないな……と倫太郎は思った。

 

「バスケの調子はどう?」


 雫が言う。倫太郎は顔を俯かせながらも、これまでのことを話す。

 話している間、雫は静かに倫太郎の話に耳を傾けていた。


「……ということ、なんですよね。なんというか、ただただ、自分が恥ずかしいというか……全然期待に応えられてなくて……」


 期待されていた、センターとしてのゴール前の争い、体の接触。それが白宮に全て妨害されている。それに加えて……


「お、俺自信が……まだ、ちょっと、怖いって思ってて……人と、接触するのが。でも、耐えなきゃいけないって言うのは、わかってるんですけど……」


 弱音を吐いてはいけないとわかってるのに、どうしても吐いてしまう。

 そういう弱い気持ちは人に見せるべきではないのに。そんな情けない感情は、みせない方がいいのに。吐露しない方がいいのに。


「ごめんなさい、マイナスなことばっかり言ってしまって……」

 

「あの、私の意見になっちゃうんだけど、いい?」


 辛そうにする倫太郎に、雫は一つ、提案をした。

 

「え、は、はい」


「体と体がぶつかるのが……トラウマなんだよね。だったら……ポイントガードのような仕事、やってみたらどうかな」


「……え、え?」

 

 考えもしなかった。

 多車のようにパスを出すポジション。ゴールから1番遠い場所で、通常、身長の高さは求められていない。


「ごめん、私、私漫画でしかバスケ知らないから変なこと言っちゃってるかもしれないけど……。あの、センター守ってるキャラが周りにパス出したりしてPGみたいな仕事してることあって」


 その漫画が好きなのだろうか、雫はどこかウキウキした口調になっている。

 

「それ、ポイントセンターっていう本当に現実にあるポジションらしくて、アメリカのバスケですごい活躍した選手がまさにそのポジションなんだって! すごいよね、漫画と現実が重なるって……! あ、ご、ごめんね、語っちゃって……。えっと、私が言いたいのは、釘矢君って身長高いし、それによく周りのことに気付いてくれるよね」


 周りのことに気が付きやすいのは、それだけ自分が周りからの目に恐れているから――と言いかけようとして、倫太郎はやめた。

 

 友達である雫が、自分のために考えてくれる。それが純粋に嬉しかったから。

 

「そんな感じで、パスを出す役割を持ったらどうかなって、思ったの。相手の動きを見て次にどこにパスを出したらいいかなって考え、そこにパスを出す。パスを出すだけなら多分、そこまで体の接触はないかなって」


 勝手なこと言っちゃってごめんね、と雫は手を合わせる。


「あ、ありがとうございます……そんな、俺のことを、考えてくれて……」


 ポイントセンターというポジションが本当にあるかどうかは別として、自分がパスを出す役割を持つだなんて考えもしなかった。


 ラグビーの頃は主にパスをもらって相手のディフェンスを突破するのが仕事だった。

 パスを出すのはスクラムハーフ。


(七馬先輩の、ポジションだ)


 七馬のように、走り回ってパスを出して、味方に指示を出して、ゲームメイクをして、そしてみんなを、引っ張る。


(俺が、七馬先輩のような、プレーを……)


 倫太郎にとって七馬は、憧れだった。

 ああなりたい。

 こんな自分でも引っ張ってくれるような、強くて優しい人になりたい。


(そうだ、飴川さんのいう通りだ。パスを回すポジションになれば、ファウルを取られる可能性が減る。俺が、七馬先輩のようにプレーすれば……!)


 ――なれるわけがないのに。

 ――お前がそんな大それたことできないだろ。

 ――身の程を知れよ。

 ――最近調子乗ってんじゃないのか、なあ?

 

 幻聴が聞こえる。

 もう1人の自分が背後霊のように現れる。

 消えたと思ったのに、一歩前を踏み出そうとする時につかさず嘲笑しながら妨害してくる。


 ――うるさい。


 倫太郎は言い返す。その声が、頭の中でさえもか細く情けない。


「参考になるかはわからないけど……でも、頑張ってね! かなたちゃんと一緒に、応援にいくからね!」


 雫はグッと拳を握った。元気つけるように、微笑んで。

 

「……あ、ありがとう、ございます……」


「大丈夫だよ、釘矢君なら」

 

 最後にそう一言、雫は付け加えた。

 大丈夫だって、ちゃんと伝えたかった。

 根拠とか、理由とかじゃない。

 そう自分が倫太郎に思っているのだと、祈っているのだと、知って欲しかったから。

 

「それじゃ、私行くね! かなたちゃんに釘矢君の試合何時からだよってLANE送ったんだけど返信全然ないから、ちょっとかなたちゃん探してくるー」


 そう言って雫は立ち上がり、倫太郎に手を振りながら立ち去っていった。その後ろ姿を見送りながら――倫太郎はここで気がついた。


 風治が、こちらをジーーーっと見つめているのを。


(えっ、な、なんか、す、すっごい見てる……!?)


 雫が風治の隣を通り過ぎるところで、雫は風治ににこやかに手を振った。知り合いなのだろうかと思う。

 その風治はというと、雫に手を振られて――


「おっ、おっ……おう!」


 すっかり上機嫌な表情になっていた。

 

 風治の表情は、片思いしている女子に話しかけられ鼻の下を伸ばすようにしか見えない。

 倫太郎は恋愛の経験がないので(なんか嬉しそうに話してるな……)とくらいにしか思わなかったが。

 

 雫が何処かに行ったところで、風治が猛烈なダッシュで倫太郎に迫ってきた。


「おっ……おまえ!」


「ひ、ひえぇぇ……」


 バスケで全然活躍できないくせになにサボってんだよ、とか言われそうで身を強張らせ――


「お前、あ、飴川と仲いいのか……!?」


「え」


「い、いつから……! 女子男子とも分け隔てなく接する清楚で天使のような人だけど、でもガードは固くて男子と二人きりになったことがないで有名な飴川にお前っ……!」


「え、えっと、そ、それは……」


 本気の顔で倫太郎に迫る風治に、果たしてなんといえばいいのか倫太郎は頭を悩ませる。


『飴川さんが推してるコスプレ喫茶で知り合って、常連仲間で仲良くなって……一緒にアダルトショップとかにも行ってて……』


(ってなんて言っても果たして信じてくれるだろうか……)


「い、いや……この際、どうでもいい! あ、あの、さっきの話の盗み聞きしてたんだけどっ……!」


「え˝」


 やばい、アダルトショップとかダブルピースの話を聞かれてたら大変なことに――


「次の試合……飴川が観に来てくれんだって!?」


「あっ……う、うん……!」


(よかったー、最後の方だけ聞いててくれて)


 よぉし……と風治は真剣な顔つきになる。

 これまでとは何か吹っ切れたような……そんな表情だ。


「あの……すまん、これまで、なんか感情的になってて、あんまり試合で活躍できなかった。でも……でも! 次の試合! あの水木原との試合に勝つために! そして飴川に良いところを見せるために! 俺! 頑張るから! 一緒に頑張ろうな!」


「は、はい……」


 倫太郎は風治の勢いに完全に圧されていた。

 それでもやる気を出してくれるのなら越したことはないか……と、とりあえず納得することにした。


(それにしてもどうしてそこまで飴川さんのことを気にするんだろう)


 推測すれば簡単にたどり着く答えではあるのだが、恋愛の経験はもちろんなく、親しい友達にだけ明かす恋愛相談になんてのも体験したことがないので、そういう話はまるでさっぱりだったのだ。

 だから純粋な疑問として、倫太郎は問うのだった。


「その、飴川さんと、風治君って、どんな関係……?」」


「え。あ、い、いや、た、だたの……ただの、同じ中学、では、あ、あるんだけど……」


「そ、そうなんだ。友達なの……?」


「い、いや、と、友達って言うほどでも、な、ないんだけど……」


「? 友達じゃないの……? じゃあ、なんで……?」


「おっ……お前! わざとかぁ!? わざと言ってんのかぁ!?」


 顔を真っ赤にして風治はもだえた。


「あーっ…! もう! 全部正直に言うわ! 好きなんだよ、俺が! 飴川のこと!」


「……え!? そうなの!?」


「お前やっぱりわざとだろその反応!?」


「ご、ごめんなさい! わ、わざとじゃ……」


 風治はキレそうになるが、倫太郎がここで冗談を言うような陽気な性格でもないし、かといって水木原のように嘲笑するようなタイプでもないだろうということは普段の挙動から分かっていた。

 シンプルに陰キャでおどおどしているだけのやつだ、と。


「ち、中学の頃からずっと片思いで……でも、向こうは俺のこと多分ただの同じ中学の人だっていう認識しかねえだろうから……。その、飴川って、バスケの漫画好きだろ。だから……バスケが上手いところを見せれば、惚れてくれるんじゃないかって思ったんだよ……」


 ああもう、なんでこんな真正直にこいつにこんなことを言わなきゃいけないんだ、と風治は頭を抱える。


「そ、そうなんだ……」


「なんだよ、笑ったらいいだろうが」


「え。な、なんで……?」


「なんでって、お前、それは……」


(俺がバスケ下手で結局飴川に良いところを見せられないまま高校でバスケを辞めたところとか情けないだろ! 分かれよそれくらい!)


「す、素敵……だなと、お、思って……」

 

「……は、はぁ!?」


 倫太郎は少年のようにわくわくとした目で風治を見つめていた。


「ご、ごめん、お、おれっ……れ、恋愛のは、はなし、は、初めて聞いて……それがうれしくて変な反応になっちゃってるかもしれないけど、でも……こう、す、好きな人がいて、そのために頑張れるってすごい! なんか、ま、漫画みたい! 創作物しか恋愛知らないから、俺……な、なんか、ほ、本当にいるんだっていう気持ちになって……あ、い、いや、その、し、失礼な言い方になっちゃったかもしれないけど、でも、こう、こうっ……! 青春してるんだねっ! し、しかも中学の頃からって聞いたから、数年間もずっと思い続けてたってことなんだよね……! なんていうか、ろ、ロマンティックだね……!」


「お、おま、おまえっ……」


 倫太郎の嘘偽りのない恥ずかしくなるくらいに純粋な言葉を浴びせられ、風治は目がぐるぐると回ってしまう。

 それと同時に、ここまで雫への片思いへの感情が否定もされずにただただ肯定してる倫太郎の言葉に、胸がどこかムズムズとするのを感じていた。


「何を、言ってん、だよ……本当に……」

 

 馬鹿にされると思った。お前みたいなバスケが下手でどうしようもない人間が、あの美少女とお付き合いしようだなんておこがましいだろうと、言われると思った。


 倫太郎はそんなこと思っていなかった。陰キャで友達もいなく、恋愛話をするのもされるもの初めてだから、ただただ風治の一途な思いが尊いと感じていた。

 無知だからこそ言える、純朴な誉め言葉が、風治の胸に響く。


「そ、それと……す、スポーツで誰かのために頑張ろうっていう気持ちもすごいと思うよ、だって大変だよね、貴重な休みを費やしてしんどい思いをして練習するの……。練習って地道なことしかしないからとにかく辛いことしか起きないから、それを飴川さんの気を惹きたいっていう思いで続けられたのはすごいと思うよ……!」


「わ、わかった、わかったよ! わかったかもう言うなっ!」


 深呼吸をして、なんとか風治は調子を取り戻そうとする。

 ここまで自分の感情に真正面から向き合って聞くれたのは初めてのことだったから、気恥ずかしさと……そして、ほのかな嬉しさを感じていた。


「……だから、その……次の試合……が、頑張ろうな、釘矢!」


「うん!」


「それで、作戦なんだが……」

 

 倫太郎が危険タックルでもして水木原をぶっ倒す空想シーンを頭から消して、風治は真剣になって作戦を考える。


「とりあえず俺と多車がダブルでボールを運ぶ。相手のポイントガードは水木原だから、二人でなんとか突破する。で、お前は、いっそのこと外にいろ。で、無理でもいいからスリーポイント打て。ボール外れてもいい、お前以外の選手は背の大きさそんなに差がないから、リバウンドを取れる機会はある。そこからシュートを決めるのは俺たちがやる。だからお前の仕事は外に立ってとにかくシュートする。砲台みたいな役割だ。これならあの白宮の理不尽のファウルを食らうこともないだろうから」


「……な、なる、ほど」


「で、お前もたまに内に入ったりとかして、ダンクの警戒をさせるようにしろ。仮にパス受けてもダンクするな。多分ダンクしようとしたら白宮絶対笛鳴らすから。そのまま俺か多車にパスしろ。内と外を行き来する感じで。ディフェンスは、とにかくゴール下で腕をぶんぶん振ってればいい。それだけでいい。それで十分プレッシャー与えられるから」

 

「……わ、わかった」


「よし、これで勝つぞ!」

 

「あの」


「なんだ?」


「……その、お、おれが……」


(ポイントセンターなんてやってみても、いいかな? とか言ったらどんな反応するんだろう……。バスケやってる人から見たら、その、やっぱり馬鹿にするんじゃねえって言われるのかな)


 でも、言わないままでいいのだろうか。

 そうして、本当の自分の考えや気持ちを、伝えないままでいいのだろうか。


(風治君のように……感情をもっと、露にしたら……できたら……)


「……え?」


 風治が戸惑った声を漏らす。

 目線の先には、多車がいた。

 右足首を包帯で巻いて、松葉杖をついている。


「す、すまん……俺、出れなくなった」


 そして多車の隣にいるのは――体操服に着替えた、雷華。


「代わりに俺がでる」


 堂々と、ふてぶてしくも、雷華が告げた。


「ええええええええええ!?!?!



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