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初めてできた友達は、小さくて可愛いコスプレ好きなオタクの女子高生でした。  作者: 安田いこん
第三章 198センチの陰キャオタク君が球技大会で頑張る話
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第56話 和解と、蟠りと

 次の日。倫太郎は変わらず、奇怪なもので見られる視線に晒され続けるのは変わらなかった。

 ――あいつが、殺人タックルで先輩怪我させたやつだ。マジひどいやつだよな。人の心とかないんか。バケモノだからないか。


 そんな日々でも、変わっていくことがあった。

 

「おい」

 

 昼休み。いつもは倉庫の屋上で一人弁当を食べようとしていた倫太郎を止め、倫太郎のの机に雷華は雑に自分の弁当箱を置いた。


「……え?」


「食べるぞ」


 それだけ言って、倫太郎と向かい合わせに座って弁当を食べめ始めた。


「……あ、う、うん!」


 初めてだった。

 友達とこうして、教室で食べることができるのが。


 雷華にとっては単純なことだった。

 倫太郎が孤独で情けない姿をさらしているのが、雷華は無性に腹が立つ。

 しゃきっとしろ。

 俺の友達を名乗ってんなら、うじうじしてんじゃねえ。

 ただそれだけだ。


「……で、そこで突っ立ってるお前も」


 雷華の言葉にびくっとするのは、多車。


「あ、えっとぉ……そのぉ……」


 多車だけではなく、教室中が『あの雷華が誰かを誘ってご飯を食べようとしている!?!?!』と注目していた。

 いつもなら雷華は早弁して昼休み中顔を突っ伏して寝ていたから、そんなあり得ない光景に周囲はざわついていたのだ。


「ぼさっと立ってんじゃねえ。言いたいことあるならこっちこい。ないなら去れ」


「っ……そ、その」


 多車はこっそりと、倫太郎の顔を見る。


 『こいつ、中学の頃ラグビーでなぁ、気に入らない先輩を殺人タックルで大けがさせて、ラグビー出来なくさせたんだよ!』


 水木原のあの横暴な態度は正直嫌いだった。

 でも、倫太郎のことについて本当のことを言っているのなら、倫太郎とは距離を置きたかった。


 水木原は嫌い、でも、倫太郎を信じ切れない。


 そんな苦しみにいた多車は、立ちながら、倫太郎に問う。

 

「……なあ、釘矢。その……正直に、教えて、欲しいんだ」


 本人の口からしっかりと、ききたかった。

 その噂の真相を。

 

「……水木原が、言ったこと……。あれ、本当、なのか……?」


 その多車の言葉に、倫太郎は、凛とした顔で、表情で、言った。


「怪我をさせたのは……事実。だけど……わざとじゃない。俺は、先輩を恨んで怪我をさせたりなんか、しない」


 はっきりと、胸を張って、堂々と……倫太郎は言った。

 雷華は(ようやくまともに言えたなこいつ)と思いながら卵焼きをモグモグ食べている。


「……そっか、そっか! わかった! じゃあ俺はお前の言ったこと信じるぜ!」


 椅子を持って倫太郎の机の近くにおいて、菓子パン片手に座った。


「た、多車君っ……!」

 

「俺、お前のその言葉が聞きたかったんだよ! よーし、球技大会、頑張ろうな!」


「うんっ……!」


(暑苦しいなこいつら)


 いつものペットボトルの水を飲みながら雷華はそんなことを思う。


(言っても……信じてくれないと思ってた。だから、水木原君の言葉に何も言えなかった。自分はバケモノ扱いされてるから、誰も自分のことを信じないだろうって。でも、勇気を出して、口に出せば……可能性は、ゼロじゃなくなるんだ。信じてくれる人の耳に、届く可能性を産み出すことができるんだ。一歩、踏み出す勇気さえ、あれば)

 

「ところで釘矢の弁当ってすげえみっちみちに入ってんな。すげえ肉入ってる」


「あっ……お、俺、野菜嫌いだから……」


「わかる! 野菜って触感が変で気持ち悪いよな!」


「う、うんっ……! な、ナスとか、臭いとか変だし、噛むとモキュってなるのが嫌で……」


「いやぁーわかるわかる! 天ぷらにするとうめえんだけどな!」


「そっ……そう! 天ぷらで、天つゆでひたひたにしたら食べれる!」


「それなっ!」


「好き嫌いなく食えよガキども」


「なんだい、常鞘だって好き嫌いあるだろ?」


「……ねえよ」


「あ、これ絶対あるぞ、釘矢! 当てようぜ!」


「う、うんっ……」


「やってろ勝手に」


「じゃあ、トマト!」


「食うわ」


「あ、そ、それじゃあ……え、えっと……に、にんじん! にんじん!」


「野菜から離れろ」


「えー? じゃあなんだろ……喉に優しくない食べ物とかじゃね?」


「じ、じゃあっ……唐辛子!」


「あれだ! 激辛麻婆豆腐!」


「……食わなきゃ殺すって言われたら食う」


「ネタ切れになったデスゲーム?」


「で、デスゲームで……水なす食べろって言われたら……ギリギリ、死を選ぶかも……」


「釘矢も釘矢でなんでそんな覚悟決めた顔してんだよ。誰も殺さねえから安心しな」


「ありがとう……い、一緒に、常鞘君の嫌い食べ物、探そうね……」


「おう!」

  

「だから嫌いな食べ物ないっつってんだろうが。懲りないな……」


 倫太郎と多車が盛り上がっている様を見て呆れる雷華。

 その三人が机を囲んで昼ご飯を食べているその光景はクラスメートたちの度肝を抜いたのは当然のことだった。


 腫れもの扱いだった倫太郎に、あの雷華と、そして多車が普通のように、当たり前のように接している。


 そんな倫太郎の様子を、球技大会のメンバーである暇木と手知は、いつものように教室の隅っこで隠れるように二人で寄り添いながら食べている場所から覗いていくうちに、考えが変わっていった。


 「……あ、あの釘矢っていう、デカい人……あ、あんな感じで、笑うんだね……」「き、球技大会でミスして殴られたどうしようって思ったけど……そ、そんなこと、し、しなさそう……かも……」


 一方で、もう一人のメンバーである風治は、


(……くだらね)


 仲良しごっこみたいな真似をしている倫太郎たちの様子に一人毒を吐いていた。

 




 ◇◇◇


球技大会当日。今日一日は授業はない。朝から体操服に着替え、教室はどこか浮足建つような、お祭り騒ぎな空気で満たされていた。


「よーし! 俺らソフトボールで優勝すんぞー!」「「「おー!!!」」」


「ドッチボールは最後までたってたやつが最強! 作戦は一つ! 最後の一人になっても戦え! いくぞぉ!」「「「うおおおおお!!!!」」」


 ソフトボール、ドッチボールの組は円陣まで組んで団結している。


 一方、バスケはと言うと……


「よーし、俺らも肩組もうぜ!」


 多車が率先しで音頭をとるものの、


「くだらねえ」


 風治がそっぽを向く。暇木と手知は、バスケ組の空気の悪さに怯えているのか、近寄ってこようとしない。


「が、頑張ろう、ね……!」


 倫太郎だけが多車に同調したが、多車の肩をまるで繊細なガラス細工を触るかのような手つきでおぼつかない。

 

「……えーと、まあ、その……頑張るぞー!」


「おー!」


 倫太郎の絞り出すような声と、


「お、おー」「わ、わー……」


 暇木と手知のか細い声。


 風治は無言。


 てんでバラバラな状態のまま、試合を迎えることになったのだった。


「予選は3回戦って、上位2チームが決勝トーナメントに行く! なので、とりあえず2勝すればほぼ確定だから、勝てる試合をしっかり勝っていこう! な!」


 多車は作戦を伝える。

 まず、倫太郎がゴールの下にいること。その倫太郎に向かってみんながパスをする。高くパスしても倫太郎ならジャンプして取れるはず。そうしたらあとは倫太郎がシュートするだけ。

 とにかく倫太郎にパスさえ通れば、ほぼ確定で2点が入るという計算だ。


「それと、風治もゴールから離れたところにいるから、風治にもパスして3点シュートっていう作戦でいこう! 風治もそれでいいよな!」


「勝手にすればいいだろ」


「……えー、ということで、そういう作戦で! 暇木、手知は困ったらとにかくパス回そう! 大丈夫、いけるいける!」


 申し訳なさそうに暇木と手知が聞いてきた。

 

「し、質問があるんだけど……」「あ、あの……バスケって何歩以上歩いたらダメなんでしたっけ……」


「3歩だよ!?」


 多車は思わずツッコミを入れてしまった。

 

「そ、そうなんだ……」「知らなかった、そんなの……」


「……」


 頭を抱える多車に、倫太郎は励ます様に言う。


「だ、大丈夫! お、俺、が、頑張ってシュート、入れる、から!」


「マジでお前が頼りだ、頼むぞマジで……!」


「う、うん!」


 体育館で行われる競技は女子のバトミントンと男子のバスケ。その競技に参加する人たちが体育館に集まる。視線は自然と、倫太郎の巨体に向かっていた。


 殺人タックルの噂はすでにほぼ一年生全員に伝わっているようで、倫太郎に露骨に距離を置く女子もいた。


「気にすんなよ、釘矢。普通にやればいいんだから、ふフツーに」


 励ますように言う多車の言葉に倫太郎は助けられる。そう、そう……、普通に、危ないことをしなければいいだけなんだから。


 バスケの予選第一試合が始まる。早速、倫太郎のクラスの出番だ。


多車が試合前にもう一回円陣を組もうとしたが風治はそっぽをむき、暇木と手知はもじもじとしながら近寄ろうとも遠ざかろうともしない。


「……まぁ、各自頑張ってこう!」


 手をポンと叩き、形だけでもまとまらせた。

 そうして倫太郎が、多車と一緒にセンターコートに来た時だった。相手選手が倫太郎を見て、露骨に嫌悪感を露わにし出した。

 

「うわ、でた」

「初戦からバケモンのチームかよ」

「きっついわー、骨折られたくねえよ」


 これ見よがしにげんなりとする相手に、倫太郎は引き攣った顔をする。

 

「釘矢、落ち着いていけよ。試合の流れを握ってるのはお前だからな」


「……うん」


「楽しもうな、釘矢!」

 

 夢を思い出す。スポーツをする楽しみは分からない。


 でも、求められているのなら、それをするだけだ。

 そう思おうとしたその最中――


「おーい、釘矢ぁ」


 肩を揺らしながら。審判を務める教師がやってきた。

 入学からずっと倫太郎を追いかけ回していた、白宮だった。


「っ……」


 倫太郎は怖気ついた。

 ここのところ追いかけ回されなくなり、諦めてくれたのだ思っていた。

 それは確かにその通りなのだが、ただ諦めるだけなら白宮は倫太郎にしつこく入部を迫るような横暴な真似はしない。


「お前……バスケ部には入らねえ癖に、球技大会には出るんだな。ふざけやがって……」


 白宮は倫太郎を一方的に敵視していた。それは生徒を導く立場である教師の本来の姿とはかけ離れている。


「お前、殺人タックルなんかすんじゃあねえぞ?」


「な……ち、ちょっと!」


 多車は白宮の言葉に絶句する。倫太郎が殺人タックルしたというのは水木原が広めた噂だ。噂は噂だとして、それを信じてしまう生徒がいるのは、どうしようもない。


 でも、教師がその噂に乗っかってくるだなんて、ありえないだろ。


「それは流石にひど――」


「いいよ、多車君」


 白宮に詰め寄ろうとする多車を、倫太郎はやんわりと制した。


「い、いいよってお前っ……」


「いいんだ。よくあることだから」


 小学校の頃から、学校の大人たちから疎まれてきた。疎まれるのが普通だったから、今更白宮に何を言われても、もうどうでもいいとさえ思っている。

 強がりじゃない。

 諦めだから。

 

「そうだそうだ、お前間違ってアメフトみたいに殺人タックルすんじゃねえぞ」

「あれ? このバケモンってラグビーっつってなかったっけ」「ラグビーとアメフトも同じようなもんだろ」「確かに」

 

 殺人タックルという言葉が、試合を観戦する生徒たちに伝搬していく。その悪意のある言葉の拡散はもう止まらない。


 ざわざわと、倫太郎に数多の生徒たちの眼差しが向けられる。

 

「……な、なぁ、本当に大丈夫なのか?」


 心配するように肩に手をかける多車に、倫太郎は「大丈夫……」とだけ答えた。


 白宮が笛を鳴らす。

 かくして試合が始まった。


「うおお、やっぱりあのバケモノ高え!」

 

 最初のボールキャッチは、白宮が怪しまれないギリギリに相手よりにボールを投げていたのを、倫太郎はなんとかゲットした。

 

 倫太郎のビッグプレーを見たさに、またあの噂のような凶暴なプレーが見れるのか、と野次馬的に人が増えている。


 倫太郎からのボールを多車はキャッチする。

 多車はドリブルをしながら、どこにバスをするのかを見定める。まずは試合の入り出しだ、と多車は試合前に考えていた。

 焦らなくてもいい、スペースが空いてるからと言って無理に入らなくてもいい。

 まずは確実に、点を入れること。


 多車のポジションはボールを回すポイントガード。相手のディフェンスの隙をついてパスを回すのが役目だ。

 その多車はゴール前にいるであろう倫太郎を見たが――


「えっ」


 多車はギョッとする。


 倫太郎に3人もの選手がディフェンスについていたのだ。要は3人がかりで倫太郎を止めようという作戦だ。

 スポーツの経験がなさそうな暇木と手知はフリーになっている。あの2人にパスが渡ったとて何もできないだろ? という思考が透けて見える。


「そこまでやるか……」


 極端だが、逆に変にゆっくり時間をかける必要もなくなった。


(よし、もういっちゃえ、釘矢!)


 多車は思い切って倫太郎にパスを出した。


「高い!」


 相手選手の驚く声が飛ぶ。

 その高いボールを、倫太郎は長身を活かしてがっちりと取った。

 おお! と観客の生徒たちの声が飛ぶ。


「さすがだぜ、釘矢!」


 正直いきなり倫太郎にパスが通ったのは出来過ぎなくらいだ。

 あとは倫太郎の大きな体でシュートするだけだ、と多車は期待を込めながら倫太郎を見つめる。

 

 その倫太郎は、3人もついたディフェンスに困惑しながらもシュートコースは見えていた。

 パスをもらいやすいようなある程度ゴールから離れた位置に立つことで、可能であればゴール側を守りたいというディフェンスの思惑を逆手に取った形となる。


 あとは、ディフェンスの隙間を縫いながらゴール近くまで足を進める。フリースローラインのところまでいけば、そこからシュートは多分入るだろうと倫太郎は思っていた。


 ディフェンスの選手が倫太郎にプレッシャーをかけていく。3方向から両手が倫太郎を囲み、シュートコースをとにかく潰す。


「っ!」


 瞬間、ラグビーのタックルを思い出した。

 体と体が接触する。ラグビーだったら、こんなプッシュ片手で押しのけてしまえるのに。


 いや、そんなこと考えちゃダメだ。


 これは、バスケなんだから。


 倫太郎は慎重に、ディフェンスの穴を確認する。軽くフェイントをかけると、1人の選手の重心が大きく動いた。倫太郎はこのあと起きるであろうことを予想しらわずかな時間でドリブルの準備を心の中でする。


「っ!」


 倫太郎が想像した通り、左方向に体が寄れた。ディフェンスの選手が、しまった、という顔をする。そうして生まれた隙間に、倫太郎はすぐさま突破を仕掛ける。


「うわぁっ」


 突然、相手のディフェンスが倒れた。

 倫太郎とわずかに体が触れただけだ。

 ただ単に、倫太郎が怖くて、尻餅をついただけだ。


 倒れてしまった選手は「やべっ」と慌てた表情を浮かべている。倒れた側ですら、ミスだと思うほどのものだった。


(あ、あれ……? 真正面から当たって押したわけじゃない……よね? バスケってこれでファウルとらないはず……?)


 倫太郎も、相手が倒れて一瞬ヒヤッとするも、ファウルに該当するとまでは思ってなかった。


 だが、白宮は笛を鳴らした。


「ファウル!」


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