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初めてできた友達は、小さくて可愛いコスプレ好きなオタクの女子高生でした。  作者: 安田いこん
第三章 198センチの陰キャオタク君が球技大会で頑張る話
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第51話 小さいからって舐めんなよ

 そのあと、倫太郎はコーチに入念に準備体操をされたのち、途中からの練習に混ざることになった。


 パス練習で、攻撃側の4人が並走しながらボールをパスする。その対面に防御側の3人がいるのだが、何か変なクッションを持っていた。まるで盾のようにもつ、分厚い何か。


「あれはタックルバック。タックル練習の際に使うものです」


 コーチが言う。タックルバックを持った人が、正面にいる人がパスをしようとするのを止めるように突進する。ぶつかる直前で攻撃側の人がパスをするのだが、ギリギリまでボールを持っているのでパスを出した瞬間に防御側の人とぶつかる。

 ドスン! とクッションで守られはするが、その衝撃音が響く。

 それが2人目、3人目、と立て続けに鳴る。生徒たちの大きな声と、走り出す音。それがローテーションで回り続け、休む暇もなく激しく繰り広げられている。


「う、うわ……」


 倫太郎は思わず引いてしまった。クッションがあるとはいえ、体同士が激しく接触する。まるで本番さながらの迫力だが、何をここまで激しく練習しなければならないんだと思った。


 そのパス練習の際にも、七馬という生徒は皆に大きな声で指示を出す。


「対面が隣のやつに流れて行かないようにパスするときは引き付けよう! 一番外のやつも、パスもらう合図出すときはちゃんと自分とこにスペースあるのを意識して! ただ声出しするんじゃなくて、今のディフェンスとの状況を見て声出せよ! 声出すだけならサルでもできるからな! おお、スバル! 今のパスは良い判断だ!」

 

 コーチはいう。


「ラグビーは、試合中に監督から指示は出せないんです。だからこそ、選手たちが意思疎通を図る必要があります。そのうえであの子は、卓越しています。私が指示するのを待つのではなく、積極的に声掛けをしています」


「は、はぁ」


「チームのために、あそこまで動ける選手はなかなかいないんですよ」


「……」


 正直、チームのためだとか、そんなの、興味がない。自分の時間を守るのが第一だから、そんな周りのために頑張ろうとするのが、倫太郎は想像もつかないし、意味が分からない。


「選手たちが投げてるボールですが、持ってみますか?」


 コーチから手渡されたラグビーボールを持ってみる。

 変な形だった。太ったアーモンドみたい。

 なんでわざわざこんな変な形に……、と不可解な気持ちになる。


「ちょっとパス練習混ざってみますか?」


「ええ……」


 大外だから特にぶつかりはしない。パスもしない。受け取るだけでいいから、とのこと。


「……は、はい」


 断る流れでもなく、渋々と、倫太郎は練習に混ざる。皆が一斉に倫太郎を見た。中学でも見たことがない背の高さに目を丸くしている。

 その視線が嫌だと思いながら、倫太郎は攻撃側の大外を走った。遠いところからパスをして、この人が次の人に投げたら――と思ったら、まさにその人が急に前にボールを蹴り出した。防御側の人の後ろをこえ、ポーンと空高く飛んでいる。

 蹴ったのは、七馬だった。

 

「キャッチ!」


「は……はぁ?!」


 倫太郎は急かされるように走った。そして、宙に浮いて変な回転をしながら落ちてくるそれを両手でキャッチしようとして、手から滑り落ちた。


「うわっ!」


 地面に落ちたボールは不規則で、勢いつけて倫太郎の顔を掠める。あともう少しで顔面にボールが当たるところだった。


「あ、あぶなっ……!」


 倫太郎は苛立ちながら、ボールを蹴った七馬の方を思わずにらんだ。


「おいおい、避けんなよ! キャッチしなきゃだろ!」


 七馬は笑っていた。その七馬の小馬鹿にする表情が倫太郎はちょっとムカッとした。こっちは初めてボールに触るっているのに、なんなんだこの人は。


「まあまあ、最初はボールに慣れるところからですからね」


 コーチが苦笑いしながらフォローする。七馬はずっと笑っていた。


(何がそんなに面白いんだ、この人……)


「さて、次はタックル練習です」


 散々走って汗だくになりながら生徒たちは大きなクッションを持ち出しながら手際よく準備を始めた。その大きなクッションはちょっとしたベッドみたいだ。


 クッションを持った人が走る人と、それを倒す人に分かれる。


「っしょぁ!!」「っらぁ!」


 気合の入った声が飛ぶ。倒す人は走ってくる人のクッションに突っ込んで抱え込み、横方向に体を向けさせる。ベットみたいなクッションに倒れ込むとはいえ、さっきよりもより激しい。ゴッ、ゴッ、と、肩や足、腰がぶつかり合う音がする。

 

「……」


 倫太郎はそれを、どこか冷めた目で見ていた。


 自分なら、あんな簡単に倒れないのにな、と。


「お、君、タックルされてみたい!? そんな目をしているね!」


「え」


「さっきの準備体操で体ほぐれているし、首のストレッチも入念にやったし問題ないな。さあ、タックルされて自分がどこまで耐えらるかやってみるかい?」


「いや、あの、俺は」


「そうだな、プロップに任せようか」


「コーチ! 俺! 俺やりたい!」


 小さい選手が主張してきた。七馬だった。


「……ええっ!?」


 倫太郎はビビった。


「え、や、やめたほうがいいです!」


 コーチは、笑った。周りの生徒たちも笑っている。


 (何がおかしいんだ……? だって、倒れるわけない、だろ。俺が……。自転車にぶつかれても倒れなかったのに)


「はっはは! 七馬、舐められたものですね。よし、やってみましょうか」


「ほ、本気ですか!?」


 倫太郎はヘッドギアを付けされ、盾みたいなクッションも持たされる。さっきまで誰かが使っていたのか汗がべっとりついていて不快だった。

 事前に受け身の練習を何度も取らされる。倒れるわけないのに、と思いながら。


「いいか、倒れたらまず自分のへそを見るんだ。それだけ守れてたらそれでいい」


「は、はぁ」


「よーしいくか」


 七馬は軽くジャンプしながら意気揚々としている。やる気満々だ。

 怖くないのか? 倫太郎は思う。


「じゃあ、倫太郎君がこのクッションもって、突っ込んで」


「は、は……い」


 倫太郎はとろとろと走る。


「お前舐めてんのか? ちんぽついてんの?」


「はっ……はぁ!?」


 倫太郎は、キレた。

 もういい、じゃあ、普通につっこんでやる。痛い思いをしても、知らないからな。


 自分が持つクッションに七馬が突っ込み、そのまま両手で自分を抱えるつもりなのだろう。だったら、そのまま押し返してしまえばいい。


 そう決めて倫太郎は小さい体の七馬に向かって走って――突然、視界から七馬が消えた。


「うわぁ!?」


 倫太郎の視界が宙に浮く。とっさに言われた通り、へそに目を向ける。

 ドスン、とクッションに倒れ、勢いそのまま滑って芝生に寝転んでしまった。

 芝生のやわらかいクッションのおかげで痛みはそこまではない。


 ただそれ以上に、衝撃的だった。

 

 今、自分は、空を見上げている。


(俺……今、倒された……?)


「みたか! チビだからこそできる、超低空タックル!」


 勝ち誇った顔で七馬が倒れ込む倫太郎を見下ろしていた。


 どうやら七馬は、倫太郎のクッションではなく両足をつかんでいたようだ。そうして膝裏を手でつかみ、そのまま真横に倒したのだという。

 

「……え、あ、あの、走る人の足をつかむのって……い、痛くないんですか?」


「え? ああ、うん。肩普通にくっそ痛い。お前結構本気で走って来たな。わはは」

 

「い、痛いんですか!? じゃあ、なんで……」


 そんな倫太郎の言葉に、七馬は応える。

 

「ラグビーってのはそもそも、痛みを伴うスポーツだ。誰もがみんな、痛いのを堪えながらプレーする。まあ、こういってみりゃあ世界一奇妙なスポーツかもな。痛いのが当たり前って」


 ははは、と七馬は笑う。ほかの生徒も、どこか誇らしげにしていた。

 

「でも、俺みてえなチビがお前みたいなのをぶっ倒せたらさ、仲間は勇気をもらう訳だ。楽しいぞぉ、でけえ奴をぶっ倒して試合の空気をいっぺんさせちまうのは。今まさにこの瞬間とかな!」


 そういって七馬は、手を差し伸べる。


「痛い思いをさせるのも、させられるのも、当たり前のスポーツだ。お前がもし、人に痛みを与えるのが怖いってんなら上等だ。痛くさせたらどうしよう、だなんて思う余裕なんてないくらいのハードな世界に連れてってやるよ」


 言われて、倫太郎は思わず、手を握った。

 小さい。

 でも、”堅い”。


 自分のせいで痛みを覚えさせて、こんなに笑っている人、初めて見た。


『とにかく、見学に一回来て見てほしい! きっと、君の望む場所がそこにあるよ!』


 元プロラグビー選手の言葉を、思い出す。


 本当に、もしかしたら、ここが……。


(俺の居場所、なのかも、しれない……)

 


 ◇◇◇


 

 倫太郎は、ラグビースクールに入ることを決めた。母親と父親は大層喜んでいた。

 ああ、きっと、本当は部活なりスポーツチームなり入ってほしかったんだろうな、と倫太郎は察する。


 ラグビースクールは基本的に土日の活動となる。中学で他の部活を掛け持ちできるという利点があるが、倫太郎にとっては貴重な土日が消えることになるので得ではない。


 それでも、何か、このスクールに通えば、何かが手に入るかもしれないと思った。

 痛くしても、それが当たり前だというこのラグビーという競技に、倫太郎は何か可能性のようなものを覚えていた。


 ……とはいえ、スクールの練習は運動をしたことのない倫太郎にとってひたすらつらいものであった。


 練習はひたすら走る、走る、走る。


 全身の筋肉を余すことなく使って、息が切れたらそこからが本番とばかりにコーチが声を上げる。


「つらいのはみんなも一緒! つらいって思える状況から一歩踏み出せる勇気を出しましょう! さあ、もう一本!」


 練習がただひたすらつらい。


「き、きっつい……」

 

 特につらいのは、練習中に膝に手をつこうとしてそれを周りの生徒たちから咎められることだ。


「おい! 手つくな!」「腰もだめ!」「すんなら頭にしろ!」


 なんでだよ、と倫太郎は苛立って仕方がない。


「相手に弱ってるところ見せたら終わりだぞ」「こういう時に堂々としてねえと舐められるだろ」


 その言葉の意味がよく分からない。なんだよ、ヤンキー漫画の世界観じゃああるまいし。舐められてもなんだってんだよ。舐めらたからって何だってんだよ。

 

 意味が分からないから倫太郎は無意識のうちに膝に手をつけるのを止められない。そうしてまた怒られる。

 

 タックルの練習も、自分だけ二人かかりで相手をされるからちっとも楽じゃない。むしろ『こんな初心者にやられてたまるか!』という克己心でやってくるものだから容赦してくれない。

 さらに、低く低くタックルしろと言われる、倫太郎の背丈では低くタックルのが難しい。ほとんど猫背みたいな無理な姿勢になる。

 少しでも高いと、


「おい、危ないだろ!」「肩より上にタックルすんじゃねえ!!」「あぶねえっつってんだろ!」


 鬼のように怒られる。


 周りの同級生たちと会話する余裕もない。体力がなくて、会話らしい会話もできない。

 自分だけ遅れて入会したから、すでに出来上がっているグループに入る勇気がない。


 そして、練習が終わったらすぐに帰る。


 母親が迎えに来る車に乗り込んだら、そのまま後部座席で寝転び寝落ちする。

 

 同級生たちは昼からどこかで集まっているらしい。自転車でこのあと、きっとどこかで遊んでいるのだろう。


 倫太郎にはその余裕がない。

 疲れて、一歩も動けない。

 俺も一緒にあそびたい、という勇気を出す気力すらない。


(辞めたい……)


 だが、母親は「ラグビー頑張ってるね!」という言葉の前で反故に出来ない。


「友達、できた?」


 家から一時間以上もある遠いところから往復して運転する母親が言う期待の言葉に、倫太郎は嘘でしか返せない。


「……うん、できた」


 自分から、うまくコミュニケーションが取れない。どうやって取ったらいいんだろうか。

 だんだんと、同級生からは珍獣みたいな扱いをされはじめた。話しかけられたりもなくなった。

 タッチラグビーでも避けられているようだった。

 

 ただ、七馬だけは違った。


「お前、飯食ってるか? ちゃんと朝食食べねえとマジで死ぬぞ」


「た、食べてますよ……」


「じゃあ何喰ったんか先輩に言うてみいや」


「か、唐揚げと、卵焼き……」


「いや思ったよりも食っとる!? 朝から唐揚げとかお前食いしん坊だなぁ、え、なに、冷凍の?」


「あ、いや、は、母親が朝、作ってくれて」


「しかも揚げたてかい! お前の母ちゃん朝っぱらから揚げ物してんの!? お前んち中華店かなんか?」


「いや、その……お、俺が、食べたいっていったら……なんか、作って、くれて」


「お前の母ちゃんマジで凄いな! 毎日ありがとうって言えよ!」


「は、はぁ……」


「あ、それはそれとしてだな。さっきのプレーだけど、背高いからラックの時にピックアップの反則取られやすいし気を付けろよ。俺が審判なら笛吹くわ。それだと手だけ動かしとるように見える。ちゃんとこう、審判がどこにいるかを確認して、で、審判が見えるところでちゃんとこう大股にしてだな……」


 七馬は、練習の合間合間に倫太郎にしきりに声をかけた。


 きっと、一人ぼっちでいる倫太郎を気にかけてのことだろう。

 でも、ただ優しい人だけではないことを倫太郎は知っていた。


 七馬は二年生だが、三年生に混じってレギュラーを張る実力を持っていた。

 ポジションはスクラムハーフで、とにかくパスを回すのが役割。試合の流れによってボールの行方は目まぐるしく変わる。そのたびにスクラムハーフはボールめがけて走り回る。さらにはきめ細やかなサインプレーや、時には相手のラインのわずかな隙間に向かってボールを持って突っ込む胆力が求められる、無尽の体力がなければ務まらない仕事だ。

 

 そして七馬が光るのは、そのパス精度。相手が走る位置を見定め、ジャストフィットでスポッと構えた両手の位置に放る。それを幾度となく連続してこなす。

 それは七馬の視界が広いだけじゃない。

 練習をしていてもずっと走っていて、苦しい表情をまるで見せない。

 顔を下げない。

 前だけを見ている。


 つらい練習でも大きな声を出して周りを鼓舞し、自らが先陣を切って走り込む。


 2年生ながらも試合の流れをコントロールするスクラムハーフという大役を任せられるほどの実力と信頼を、このスクールで勝ち取っているのだ。

 

「世界のトップ選手が試合中にしんどい顔みせねえだろ」

 

 強い人だと、倫太郎は思った。

 最初は変な人だと思っていた。

 それが一緒に練習していくと、そのすごさをひしひしと感じる。


 この人と一緒に試合をしてみたい。


 そんなことを、倫太郎は思っていた。


読んでいただきありがとうございます! 評価、ブックマークよろしくお願いします!

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