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初めてできた友達は、小さくて可愛いコスプレ好きなオタクの女子高生でした。  作者: 安田いこん
第三章 198センチの陰キャオタク君が球技大会で頑張る話
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第49話 大きくなったらわかるよ

「おらーっ! 外れろー! ああー! 負けたぁー! 常鞘に負けたぁちくしょうー!」


 雷華が放ったは最後のシュートがリングに入り、一本差でかなたは勝負に負けた。


「かなたちゃんおしかったね! あのリングをころころしてたシュートが入っていれば……だった!」


「あれ入ってればイーブンだったのにぃ……悔しすぎるぅ!」

 

「なんだこいつ、たかがシュート対決で負けただけであんなテンションしやがって」


 雷華は腰に手を置いてやれやれと汗を拭いながら隣にいた倫太郎に言う。

 だが、どこか晴れやかな顔をしていたのを倫太郎は見逃さない。


「バスケ、楽しい?」


「は? どこが?」


 雷華はぶっきらぼうに言う。その割には、しきりにフォーム練習をしては倫太郎に聞く。

 

「……俺のフォーム、ロボットみたいってあいつに言われたんだけど、そんな変か?」


「ど、どうだろう……。すごく綺麗だったと思うけど、あれかも……思い切りが足りないとか、かなぁ。もっと思い切り投げてもいいと思う」


「あっそ」


「あーっ! 釘矢君に教えてもらってる! ズルぅ!」


「ズルいもクソもあるか」


「もう一回! もう一回やるぞ! 次負けたら罰ゲームだからな!」


「ほざいてろ」


「あと釘矢君! 私の投げ方なんか直したらいいところある!?」


「言ったお前がズルしてどうする」


「えっと……もっと力抜いていいと思います。狙いに一直線で、横にずれないことを意識しながら、がいいと思います」


「ありがとー! ぜってえぶっ倒してやるぜぇ!」

 

 そう言いながら雷華はかなたと再びリングに向かって勝負する。それを見守る倫太郎に、雫はゆっくりと近づく。


「釘矢君、教えるのが上手だね」


「み、みんな、飲み込みがいい、おかげだと、思います」


 ぎこちなく喋るが、表情は随分と明るくなった。雫はホッとする。


「それと……あの、今日のこと、ありがとうございます」


「……えっ?」


「あの、常鞘君から、少し前に、き、教室で、教えてもらったんです。昨日、俺のために常鞘君、鈴木さんを、集めてくれたって」


「常鞘君ったら……もう」


 雫は恥ずかしそうにしながら汗を拭う。

 

「俺の、その……昨日の、体育館のこと、ですよね」


「……居ても立っても居られなくて。釘矢君が、悲しい思いをしていると、思ったから、なんとか、してあげたくて」


「本当に、ありがとうございます。すごく、元気がもらえました」


 倫太郎は大きな手でぎゅっと拳を握る。もう大丈夫ですよ、と雫に示すために。


「……ふふ、うれしいな」


 ここまで自分のことを案じてくれる雫、雷華、そしてかなたの存在が、倫太郎は嬉しい。

 こんな自分を気にかけてくれる。

 自分は1人ではないんだと思える。


 これ以上に嬉しいことは、ない。


「じー……」


 ふと、目線を感じた。

 かなたよりも低い高さの目線……?


「おにーたん、でっかぁい!!」「せんせーよりもおっきい!」「かいじゅうだー!」


 公園に遊びにきた放課後の小学生たちが、バスケコートにいる倫太郎めがけてやってきた。1,2年生くらいだろうか、物珍しさもあってか穢れのない目をキラキラと輝かせている。

 

「わっ、わぁ……」


 小さな子どもたちに目を向けられ倫太郎は慌てる。


 でも、普段なら(傷つけてしまわないだろうか)と咄嗟に避けていた。今は、なんとか逃げないでいられる。

 そばに、友達がいてくれるから。


「みんなー、お兄さんはね、すっごい優しい人なんだよー?」


 雫が膝を屈んで小学生たちに言った。その言葉に倫太郎はこそばゆくなる。

 

「やさしいのー?」「ほんとー?」「くるまもちあげられるー?」


「おれ、だんくしてみたーい!」


 一人の男の子が倫太郎を見上げながら言う。


「おにーさん、おれだっこしてー!」


 その言葉に、雫はニコッとしながら倫太郎に目配せをした。


「……どう? だっこさせてあげてみる?」


「え、え……ええっ!?」


「おいおいどうしたなんか面白いことやろうとしてんじゃん!」


 さっきまで雷華とシュート勝負して汗だくになったかなたが颯爽と切り替えて倫太郎たちの元へと駆け寄る。


「おい、お前のアドバイス通りにやったら負けたんだけどどういうことだよ」


 雷華が後からやってきて倫太郎に肘でどついた。


「あっ、ご、ごめん……」

 

「……なあ、こいつ、負けたら罰ゲームつってんだけど……マジでなにやらされんだ、俺」


「ま、まあ、鈴木さんは悪い人じゃないし、大丈夫だよ、うん」


「ほんとかよ……」


「ほら、釘矢君。だっこしたげなよ」


 かなたが言う。見ると、男の子が倫太郎に向かって一生懸命腕を上げていた。


「だっこして、だっこしてー!」


「え、えっと……」


 これまでだったら、小さい子を抱きかかえることなんてしようともしなかった。怖かったから。


 でも……


「い、いくよぉ……」


 倫太郎は恐る恐る、その子の腰部分をもった。


「も、持ち上げるからじっとしててね……」


「うん! わかった!」

 

 元気いっぱいな声で答える子に、倫太郎はゆっくりと持ち上げる。


 子どもの視界は、2メートルをはるかに超える高さまで上がった。


「わ、わぁっ! すっごい、すっごぉい! たかい、たかーい!」


 きゃっきゃっと無邪気に高い世界の景色を楽しんでいる。それを羨ましそうに友達の子どもが見上げていた。


「おにーちゃんって、いっつもこんなにたかいところみてるの?」


「え? あ、そ、そう、かも」


「いいなー! おれもこんなにおっきくなりたーい!」


「……そっか」


 その純粋な子どもの声に、倫太郎は微かに微笑んだ。


「ほれ、少年。ボールだぞ」


 かなたは真下からボールを子どもに向かって投げる。


「ありがとう! おねーちゃん!」


「お、おねーちゃんか……はは」


「おにーちゃん! あそこのゴールとこまで行って!」


「うん」


 倫太郎は子どもを抱えながら歩き、それに子どもたちが付いていく。

 ボールを掲げてしまえば、もうリングは目と鼻の先だった。


「おにーちゃん! だんく、する!」


「いいよ、やっちゃって」


 倫太郎がそう言うと、子どもは嬉しそうに、


「いっけえ!!」


 両手でボールをリングにたたきとおした。


「やったぁー! だんくだ、だんく!」


 わいわいわい、と子どもは両手を掲げながらはしゃいでいる。それを倫太郎は器用に抱えながらバランスをとっていた。


「ねえねえ! おれもやりたい!」「かわってかわって!」「ダンクしたい、したい!」


 足元から子どもたちが叫んでくる。それを先ほどダンクした子どもは「やだー! おれがずっとやんの!」と意地を張っている。


「あはは……」


 倫太郎は抱えていた子どもをゆっくりとおろした。


「なんで、なんでおろすの!」


「楽しかったよね」


「たのしかった! だからずっとやりたいの!」


「自分だけが良い思いをするのは、よくないよ」


「……なにそれ! わかんない!」


 子どもは不満げに頬を膨らませている。


「もっとからだがおっきいのがいい! そしたらずっとおもしろいもん!」


「おっきくなったら、分かるよ」


 わがままをいう子どもを倫太郎はなだめすかす。


「つぎ、おれ、おれー!」


 手を離したら我こそはと子どもたちが一斉に襲い掛かる。


「おーい君たちぃ、順番守らないとこのおっきなお兄ちゃん、どっかいっちゃうぞー」


 騒ぎたつ子どもたちをかなたが諫め、

 

「お行儀よくしていれば、お兄さんはだっこしてくれるからね?」


 雫が穏やかな声で諭す。


「で、肩車ならあっこで突っ立ってるお兄ちゃんがやってくれるからさ!」


「……って、俺!?」


 すっかり油断しきっていた雷華にかなたは指さす。


「あそこのお兄ちゃん、肩車してくれるって!」


「「わーい!」」


「お前ふざけ――」


「罰ゲームだから!」


「お前しばく――うぉあぁ?!」


「わーい! お兄ちゃんの背中とったぁ!」


 小さな子どもが器用なまでに雷華の背中に飛び乗った。


「こ、こんのっ……」


 しかし雷華とて子どもたちに声を荒げることなんてできない。ただなすがままに子どもたちの良いようにもてあそばされていた。


「おにーちゃん、おにーちゃん! だんく、だんくー!」


 次の子どもを抱え、倫太郎はリングに向かって歩く。そうして今度は雫にパスしてもらった子どもが、リングにドーンとたたきつける。


「おもしろ! おもしろ! おもしろー!」


「ははっ、おもしろい?」


 倫太郎が抱える子どもに声をかける。子ども相手と話していて、自然と声が高くなる。

 高い声を出すと、勝手に心が明るくなるような気がした。

 子どもと遊ぶと元気をもらえる――と母親が前に言ったことがある。

 それは本当なのかもしれない。


「おもしろいよ! おにーちゃん、ありがとう! おっきくて、かっこいいね!」


「あ、あは、は……」


 おべっかも建前もない、純粋なまでの子どもの言葉に、倫太郎は胸がいっぱいになる。




 ◇◇◇



「ほぁー……子どもたちと遊ぶのおもろかったぁー!」


 かなたたちはベンチに腰掛け、一息ついていた。子どもたちはというと、散々倫太郎と雷華で遊んで満足したのか、今はジャングルジムで思い思いに遊んでいる。熱しやすく冷めやすい、遠慮も何もない子どもの縦横無尽さを見ながらかなたはほほえましい気持ちになる。


「私も! 子どもたちって体力無限にあるよね! 私たちもうくたくたなのに、ジャングルジムの上まで登ってまた降りてをずっとやってるもん。すごいなぁ」


「お、俺も流石に疲れましたね……なんというか、笑い疲れた、みたいな……」


「……(全身という全身が子どもたちに弄ばされ肉体が悲鳴を上げている)」


「常鞘君も子どもたちと遊んで楽しかったよね?」


「……(うるせえこっちは腕脚一本も動かせねえんだよという目をしている)」


 そんな雷華について、楽しそうでよかった、倫太郎は独自の解釈をした。

 

「いやそれにしても疲れたな―、甘い物食べてえわ」


 かなたが空を見上げる。運動前に持ってきた飲料水のペットボトルはすでにすっからかんになっていた。


「あ、あの!」


 倫太郎は突然立ち上がった。びっくりするかなたと雫は顔を上げ、雷華は疲れた体で目だけを倫太郎に向ける。

 

「あの、3人とも、あ、あの、あ、ありがとうご、ございます!」


 深々と倫太郎は頭を下げた。それがどこか他人行儀で、かなたはちょっと笑ってしまった。


「いいよ、そんなに畏まらなくたって!」


「そうだよ! 私は釘矢君が楽しんでくれたらって思ってやっただけだから! ね、常鞘君!」


「……おい」


 雷華が唸るように倫太郎に言う。


「……そんだけ、言うなら……コンビニで、アイス買ってこい……一番、高い奴……」


「おお! 常鞘いいこと言うじゃん! さっすがー! あ、それなら近くに行列ができる人気のアイスクリーム屋あるから、それにしようぜ!」

 

「あっ! あのバズってたお店の!?」


「そうそう! 今の時間なら多分空いてるかも!」


「……コンビニでいいだろ……それか水をくれ」


「あっ、じゃあ私が常鞘君にお水買ってくるね!」


「りょ! じゃあ私と釘矢君でちょっとくらアイス買ってくるわ!」


「それじゃここ集合で!」


「常鞘目印で!」


「はったおすぞ……」


「じゃあ行ってくるね! 常鞘君、待ってて!」


 雫が近くの自販機に向かい、

 

「よし行くぞー!」


「は、はい!」


 かなたは倫太郎を連れてアイスクリーム屋に向かって歩き出した。


「こ、ここからどれくらいのところにあるんですか?」


「いや、わりと近いところ……に……あ、るんだけど」


「も、もしかして……あの、20人くらい並んでるあのお店、ですか?」


「いやならびすぎだろ! 平日だべ今日……」


「あはは、ど、どうしましょうか……」


「いや、ここまできたら並ぶ! 雫にもLANEで知らせとくわ。ま、いうて20分くらいじゃね」


「わ、わかりました」


 倫太郎とかなたは最後尾に並ぶ。すると、店員らしき人がならんでる人たちにお徳用のアイスバーを配っていた。


「すみません、暑い中お待たせしすみません。こちら試供品のサービスです」


「ありがとうございまーす!」


 かなたは元気よく受け取り、倫太郎も店員から受け取る。その店員は、気さくな感じで、少し笑いながら言った。


「お、お客さん、でっかいですね! 殴られたら僕ぶっ飛んじゃいますね!」


「……は、はは」


 それでは! と店員は何事もなかったように店へと戻っていく。


「私チョコだ! 君は?」


「あ、え、えっと、い、いちご、です……」


「いいね」


 そう相槌をしながらかなたはボソッと呟く。


「……まあ、あんま初対面の人間に言っていい言葉ではないわな」


「……あはは」


 かなたと一緒にアイスを食べながら、倫太郎は昔のことを思い出す。

 さっきの店員と同じようなことを、ずっと言われてきたこと。

 そして、実際に――先輩を、怪我させてしまったこと。


 今なら、かなたが近くに居てくれる今なら……。


「……あの、待ってる間……む、昔の話、しても、いいですか」


 かなたは倫太郎の言葉に、頷いた。


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