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初めてできた友達は、小さくて可愛いコスプレ好きなオタクの女子高生でした。  作者: 安田いこん
第三章 198センチの陰キャオタク君が球技大会で頑張る話
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第48話 バスケしようぜ!

「よーしっ! ボール持ってきたぜー!」


 営業中のailes d’angeのバックベースに置いてくれていたバスケットボールを持ってきたかなたは、公園のコートで待っていた3人に走りながら勢いよくボールを投げ込んだ。


「どこに投げてんだおい」


 横を通り過ぎるように飛んでいったボールを流し目で見る。


「おいおい、取ってよー」


「明後日の方向に投げすぎだろ」


「あ、お、俺が取りに行きますね……」


 倫太郎が小走りでボールを手に取る。

 手に取って、その感触を感じる。


(……ラグビーボールよりも全然、つかみやすい。いやそれは当たり前ではあるんだけど)


「おーい、釘矢君やい! こっちにパぁース!


 かなたがぴょんぴょんと飛び跳ねていた。そのかなたのしぐさにくすぐったさを覚えながら、ゆるりとボールを投げる。

 ワンバウンド、ツーバウンドしてピッタリとかなたが構えた両手にスポッと入った。


「おおー、パスうまっ! すごいじゃん!」


「あはは……あ、ありがとうございます……」


(ちゃんとボールが丸いから、バウンドがまっすぐ進むんだな……。ラグビーボールみたいにはならないか、うん)


 屋外でボールを握ったからか、自然と中学のラグビーのことを思いだしてしまう。

 キックしてバウンドしたボールが、ボールを取ろうとして走る自分に向かってきて頭をぶったよな、とか。


 そういう思い出の中には常に、七馬先輩がいた。


『おいおい大丈夫かー!? キャッチ出来なくても相手に取られる前にライン外に蹴りだしとけよ! おお、そうそう、それそれ! やるじゃねえか!』


「――い、おーい、釘矢君っ!」


 雫の声が聞こえるのに気が付いた。足元にボールが飛び込んでいた。


「あ、わ、わ」

 

 倫太郎は慌ててキャッチする。


「釘矢君、パースっ!」


 雫が両手を上げている。4人とも制服姿だが、雫はスカートが短くしているからそのジャンプがちょっと危うく思えてしまう。


「え、えいっ」


 だからできるだけ雫を見ないようにしてボールを投げた。


「おっと、っと!」


 雫は多少パスがずれたけれどそれを両手でがっちりとキャッチ出来た。


「わ、わ! 私もボール取れた! わーい!」


「そんながっちりとキャッチしてたらドリブルも何もできないだろ」


 呆れたように雷華が言う。


「ドリブル? あ、こ、こうかな?」


 雫がボールを地面に手で思い切りたたきつけたと思ったら、明後日の方向に飛んで行ってしまった。


「あれ……?」


「雫ったらもうー! ドジっ子なんだから! 見てみなよ私が華麗なるドリブルを――あれぇ!?」


「なんでお前らは思い切り地面にたたきつけてんだよ」


 雷華は近くに転がったボールをだるそうに手に取る。


「バスケのボールはある程度バウンドしやすいようにできてんだから……ちょっと軽く地面に向かって投げて、それを迎え入れるようにすれば……ほら、できるだろ」


「常鞘うますぎワロタ」


「ドリブルの仕方くらい体育のバスケの授業でやってたはずだが」


「私みたいな運動神経終わってる人間が体育などという過酷な授業に本気で向き合ったと思うか?」


「どういうキレ方してんだよお前」


「つ、常鞘君、上手だね……」


「まあお前は背が高いからドリブル難しそうだけどな」


 雷華は冗談交じりに倫太郎にボールを手渡す。


「やってみろよ」


「あ、う、うん」


 ボールを握り、それを地面に投げおろし、上に上がってくるボールをふんわりと柔らかくつかみ、すぐにまた地面に投げおろす。

 それを2回、3回、4回……慣れてきてだんだんとスピードを上げていく。


 右手でやっていたのを左手にスイッチする。リズミカルに、ペースを変えながら。


「おおおお! え、うまっ!」


 かなたは倫太郎の素早いボールさばきに驚きの声を上げる。

 

「あいつ手がデカいな……それだけで得するな」


 雷華は自分の手を握りながら(あんなに手が大きかったらピアノもやりやすいだろうな)と思った。


「い、いや、あ、あの、ご、ごめんなさい俺ばっかりやって」


 慌てて倫太郎は雫にパスをする。


「わっと。よーし、私も釘矢君みたいにドリブルしよ! うわぁ!?」


 元気よくドリブルしようとしてやはりボールが明後日の方向に飛んでしまう。

 

「あ、あの、飴川さん。まず、ゆ、ゆっくりバウンドさせるところからやった方がいいかもです!」


 ボールを追いかけてつかんだ雫は、倫太郎の言葉通りにやってみる。


「軽く、軽く……」


「そ、そうです、こう、迎え入れるような感じです。指で握るっていうよりかは、こう、包み込むような」


「あっ、こ、こう……こう!?」


「そ、そうですそうです! いいですね!」


「なるほど、なるほど! 一定の動きをするのが大切なんだね!」


「その通りです! 力をなるべく均等に、同じにするのがいいと思います!」


「まって私もやりたい! 雫、パース!」


「はーいっ!」


 雫は両手でひょんとかなたにパスをする。


「っしょっと。よっしゃ行くぜ行くぜ行くぜ! さっきまで雫のドリブル見てたからコツは分かって来たぜ! あれぇ!?」


「ずいぶんと乱暴なパスだな」


 雷華の方にボールが飛んでしまった。


「は? 常鞘にパスしただけだが?」


「言ってろ」


 雷華はかなたにワンバウンドでパスする。


「よし、もう一回、もう一回……うわぁ!? むっず!?」


 地面にバウンドして自分に返ってくるボールが、顔面に向かってきて思わずのけ反ってしまう。


「かなたちゃん、顔に来る前に手でこう迎え入れるんだよ?」


「な、なるほどぉ?! あれぇ!?」


 何度やっても何度やっても、二回目のドリブルができない。


「ひーん」


「泣かないでかなたちゃん」


「……あの、鈴木さん。もっとこう、手の動きを緩くして……ボールをたたくときだけ力を入れて……」


「どうしたらそうできんねん」


「それはその……こう、しゅっと、つかんで、バーンと……」


「長嶋茂雄みたいな教え方みたいで草」


「あの電話口で松井茂雄に指導してた時みたいな……」


「そうそうそれそれ」


「何言ってんだお前ら」


 雷華が突っ込む。


「ドリブルとかいいねん、それよりかはやっぱりシュートだよ、シュート!」


 早々とあきらめてかなたはゴールポストに向かって走った。


「このゴールに入ったら点が入るんでしょ? ドリブルなんかできなくてもシュートが入ればいいんじゃーい!」


 かなたが両手でぽーんと投げたボールは、リングの網の先にカスっと触れてそのままむなしく地面に落ちた。


「ごめん、もしかしたらバスケってクソゲーかもしれん」


「あきらめないでかなたちゃん!」


 むなしく転がっていくボールをつかみ、


「いけーっ!」


 かたき討ちとばかりに雫がボールを思いっきり上にあげた。


 リングのはるか上を通り過ぎて行った。


「バスケってなんでこんな高い位置にあるんだろうね……絶対おかしいよ……ルールが間違ってるんだよ……私たちは悪くないよ……」


「何をしてんだお前ら」


 いじけてしゃがむ二人をしり目に雷華はボールを手に取ってシュート……しようとして、ボールを倫太郎に投げた。


「まあ、お前が一回シュート決めてみろよ」


「常鞘、お前あきらめたな?」


 かなたの言葉を雷華は無視した。


「ええと、は、はい……」


 倫太郎は適当な位置に立って、


 シュッ


 ボールを放つ。


 きれいな放物線を描き、見事に、リングを通った。

 

「おおお! 入った! 入った! すげえ、入るんだ!」


「釘矢君、すっごい!」


 かなたと雫が驚嘆の声を上げる。それに倫太郎は「あ、あはは」と困ったような顔をしながら転がるボールを取った。


「お前、バスケやってたのか?」


「や、やってないよ。やってたのは、ラグビー、だけ、だから……」


「……」


 背が高いだけで簡単にシュートが入るものだろうか、と雷華は思う。


(……こいつ、思ってた以上に……)

 

 最初のドリブルも、簡単にやってみせたシュートも、初めてだとすれば普通あるはずのぎこちなさがない。

 恵まれた体格と卓越した身のこなし……確かに、周りのスポーツを指導する大人たちが黙っていなかったことだろう。


「やっぱ男の子ってすげえなー! 私もシュートしたい! 釘矢君、コツ教えてくれい!」


「あっ! 私も私もー!」

 

「え、あ、あ」


 かなたと雫の2人にせがまれ、倫太郎は慌てふためく。


「え、えっと……こ、こうして、手だけで投げんじゃなくて、体全体使って……」


 2人をなるべくゴール下近くに連れて行き、リング近くにある四角形のマークを指差す。


「リングのあの枠に放り入れるのって感覚的に難しいと思うので……あのマークに、ぶつけにいくようなイメージです」


「こ……こうかな!? おおっ!」


 何回か練習していくうちにコツを掴んだか、雫はシュートに成功した。網を潜るボールの音が心地いい。


「おお! すごいです!」


 倫太郎は思わず拍手する。


「へへっ……やった♪」


 雫は元気よく倫太郎にピースする。


「よし、次は私だ!」


 雫がゴールして転がったボールを拾い、かなたは果敢にシュートを繰り返す。


「ダメだ全然入らねぇ」


「左馬刻さん、肘を曲げた状態から腕を伸ばすって感じで……」


「わっかんねぇや」


 と言うことで……とかなたは倫太郎を近くによらせる。


「え、な、なんでしょうか……」


「君、私の体を自由にしていいよ」


「………………え、ええぇぇぇっ?!!?」


 かなたは倫太郎に体を差し出すかの様に両手を広げてみせた。


「ほれ、手首んところ握って私をマリオネットみたいにしてくれい」


「あ、え、えっと……そ、そのっ……」


「君の言う言葉がごめんだけどあんまり理解できんかったから、いっそのこと君が私の体を動かしてもらえればと。そしたら体の動き覚えるでしょ」


 あっけらかんとかなたは言う。雫は(かなたちゃん、本当に釘矢君のこと信頼してるんだね)とほっこりして、雷華は(……わざとやってんのか天然なのかわかんねえ)と困惑していた。


「ほら、ほら。やってやってー」


「は、はいぃ……」


 かなたに言われるがまま、恥ずかし気に倫太郎は背後に回ってかなたの手首をそっと握る。

 

 細かった。強く握ってしまえば、折れてしまうような。


(また、俺が怪我させたりでもしたら……それも、鈴木さんを……)

 

 それが、倫太郎の過去のトラウマを思い起こさせ――


「大丈夫だから」


 かなたは振り向かずに言う。

 自信を持った声で。

 絶対だと、信じて疑わない声で。

 

「え……」


「優しい君なら、私を丁重に扱ってくれる。だろ?」


「……そ、それ、は」


 人を傷つけてしまうのではないか。悲しい目に遭わせてしまうのではないか。

 倫太郎はそう思い続けてきた。それが真実だから。疑いようのない事実だから。


 でも、目の前で悠然と倫太郎に体を預けるかなたは、信じてる。


「……わ、わかり、ました」


 倫太郎はしゃがみ、かなたと同じくらいの目線になる。

 そうして、ガラスのように繊細な腕を丁重につかみながら、それをゆっくりと、上にあげる。


「こ、こうして……肘で、クッションをつけるように……手を放すときも、手の指先が、目印に向かうように……」


「おー、はいはいはい! そういう感じね? もっと軟体動物みたいになればいいってことか」


「え? あ、あー……はは、そ、そうかもしれないです」


 二人羽織のようにしながら、倫太郎はかなたにフォームを教える。

 かなたが痛くないように注意しながらも、自分に握られながら体を動かすことを楽しんでいるかなたを見ると、心がどこか安らいでいく気持ちになる。


「なーるほどなるほど! 体ってこんな感じに動けるんだ! なんか新しいスキルが生えてきたみたいだぜ」


「そ、それじゃあ、一回シュートしてみますね……足を、こう、曲げながら……」


「よしよし、いくぞー! よいしょ! わ、わ、わぁ! リング、リングに当たった! すげえ!」


「い、良い調子です鈴木さん!」


「何回か誘導して! この体の動き覚えたいからさ!」


 雫からパスしてもらったボールを抱きかかえながら、にこにこの笑顔で倫太郎にせがむ。


「は、はい!」


 かなたのほのかに暖かい体温、骨の太さ、接近して感じる汗ばんだ匂い。

 

 ここまで近づいたら普段だったら思わず遠ざかってしまうが、今だけは、倫太郎はかなたと一緒に居たいと思った。


 もっと近くで。


 もっと、一緒に、運動したい。


 楽しく。


 笑いながら。


「っやったぁー!! 入った、入ったぁー!」


 かなたがついにシュートを決め、大喜びで倫太郎に振り向いてハイタッチした。


「や、やりましたね!」


 ちょっと背中を丸めながらかなたの低いタッチを迎え入れる。


「バスケ、最高のゲームかもしれん!」


 学童のようにはしゃぎながらシュートに熱中するかなた。倫太郎も、パスをもらってシュートを決める。


「やっぱうまいなぁ、釘矢君。もっとこう、きれいにジャンプしなきゃいけないのか。勉強になるぜ……よっしゃ! シュート決める勝負しようぜ! 雫ちゃん! 常鞘!」


「おっけー! 私も負けないよー!」


 雫が待ってましたとばかりに手を上げ、

 

「……はいはい」


 雷華はしぶしぶと参加する。

 

 その三人の輪に入りながら倫太郎は、思った。


(す、スポーツって、こんなに、楽しかったんだ……)

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