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初めてできた友達は、小さくて可愛いコスプレ好きなオタクの女子高生でした。  作者: 安田いこん
第三章 198センチの陰キャオタク君が球技大会で頑張る話
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第47話 釘矢君のためにできること

「釘矢君そんなことになってんの!?!??!!?」


「うるせぇ」


 その日の夜。

 さっそく雫は雷華とかなたをグループ通話に誘った。

 かなたはライブの疲れの影響で学校を休んでいたが、午後にはすっかり体調を取り戻していて今の今までゲームしていた。


「マジか……彼、落ち込んでるだろうな……通りで、テンセグのイベントのスコアタイム全然伸びなくてLANEで相談したのに返事返ってきてないのか」


 いつもだったらいつLANEメッセージを投げても爆速で返ってくるから、よほど忙しいか手放せない用事があったのだろうと思っていた。

 それがまさか……とかなたは流石に頭を抱える。 


「つーか、なんでバスケ部のやつが球技大会のバスケやってんだよ」


「それなんだけど……友達から聞いた話で……」


 雫が言うには、倫太郎が球技大会のバスケに出ると聞いて、真っ先に反応したのが今までさんざん倫太郎を追いかけまわしていた教師の白宮だった。


『バスケ部には入らないのに、球技大会には出るのか? 許せん!』


 その当てつけとばかりに、倫太郎にダンク禁止だと一方的に決めたという。


 ただ、そのあとすぐに、話を聞きつけてきた水木原がある提案をした。


『みんなも、釘矢君のダンクを見たいと思いますよ。そこでなんですが、僕が釘矢君の試合の時だけ、代わりに出てもいいでしょうか。彼の身長は全国を見渡してもそうそう居るものではないですから、僕としてもいい練習になると思います。そしてどうでしょう。その試合だけ、釘矢君にダンクを許可するのは。僕も、長身相手のダンクをどう封じるか自分の実力を試してみたいんです』


 それに白宮は乗ったという。


『確かに、ビッグマンとマッチアップするまたとない機会だな。いいだろう、許可する。ただし、全力でやってこい。二度とバスケしたくないと思わせるくらいに、徹底的にな』


「……ということ、らしいの」


「なんじゃ、そら。楽しい楽しい球技大会で何やってんだか」


 かなたは唖然とした声を漏らす。


「まあ、盛り上がるだろうが」


 雷華が言う。

 見世物としてはこれ以上ない。

 先輩を怪我させるような怖い長身男を、バスケ部の期待の一年生エースが成敗する、という構図。 


「教師がやっていいことではないと思うが」


「そうだよ! あのクソ教師ほんま……」


「……どうしたら、いいだろう 私、何も思いつかなくて……」


 雫が思いつめたように言う。


「雫、とりあえず私らを招集したのはまーじで判断。それだけで完璧」


「ありがとう……」


「そういうの良いから早く決めろ」


「白状だなーもう」


 かなたはベッドの上で寝転がって考えながらしゃべる。


「釘矢君がショックを受けているのは……面前で自分が殺人タックルしたと言いふらされたことだよな。だから……釘矢君が、少しでも前向きに、球技大会に出てくれることだろう。ここで大会に出なかったら……もう、その噂が強固なものになる」

 

「大会に出なくなったら、それはもう自分から自白しているようなものだからな」


「彼がそんな馬鹿なことするような人じゃないのになぁ。そも、怪我させたのかどうかも正確じゃねえし」


(やっぱり、かなたちゃん、釘矢君のこと信じてくれているんだね)

 

 何気なく言うかなたの言葉に、雫は心がほっこりと温まる。


「鈴木。お前釘矢と仲いいんだからなんかわかるだろ。あいつが喜びそうなこと」


「よっしゃ、やんやのコスプレして目の前で歌うか」


「それ以外で」


「えーなんでよ。絶対彼元気出るってー」


「元気出たとてあいつの卑屈さが変わるわけじゃないだろ」


 かなたと雷華の会話を聞いているうちに、雫はあることを思いついた。

 

「……あの、かなたちゃん。常鞘君。私、思ったことがあるんだけど……」


「ん? どしたん雫?」


「……ailes d’angeの近くの公園に、バスケのコートがあったよね?」


「あー、あったあった」


「そこでさ……四人で一緒に、バスケしてみない?」


「おお! めっちゃいいアイディアじゃん! やろ、やろ!」

 

「きっとみんなで楽しくバスケをすれば、大会にも前向きになってくれると思うんだ……!」


「よっしゃよっしゃ! バスケのボール、確かコスプレ喫茶の先輩持ってたはずだから貸してもらうわ! バスケの漫画のコスプレしててその小道具で持ってるはずだから!」

 

「やったやった! お願いね、かなたちゃん!」

 

「……」


 雫とかなたが盛り上がっているところで、しれっと頭数に加えられていることに雷華はうんざりする。


「もちろん常鞘君も来るよね!」


「な! まさか友達がつらい思いをしてるときに知らんぷりするような薄情な奴じゃあないよなぁ!」


「……はぁ」

 

 面倒くさいと思ったが、二人のスマホ越しの”圧”から逃れる方がよっぽど面倒くさかったので、しぶしぶと了承するのだった。

 


 ◇◇◇



 倫太郎は自宅の自室で、椅子に座って学習机に突っ伏していた。

 頭の中では、かなたからのLANEの返事をしなければと思っている。既読スルーになってしまっていて、本当に申し訳ないと思ってる。

 

 それが分かっているのに、体が言うことを聞かない。


(ああ、本当に情けない……)


 何もする気も起きない。ただただ、苦しいだけ。

 あれだけ好きだったテンセグのイベントも攻略できていない。

 好きなことに、没頭できない。

 それが苦しくて苦しくて仕方がない。

 

 ピコン。


「っ!」


 LANEの通知が鳴る。恐る恐る、倫太郎はスマホを見る。

 きっと、返信が遅いことでかなたが怒っているんじゃないかと、そんな見当違いなことを思っていた。


『明日、日本大橋の公園でバスケしようぜ』


 その通知と同時に、かなた、雫、雷華のグループLANEに招待された。


「え……!?」


 倫太郎は驚いて、とっさに、その招待を受け入れた。

 うれしかったから。純粋に。

 誘われるということが。

 友達の輪に、自分が、自分という存在が、認められているというのが。


「っ……」


 倫太郎は流石に察していた。

 きっとこの誘いは、自分が体育館での一幕を知っていて、それを案じてくれているからだと。


 つまり、これは、かなたの、雫の、雷華の、心遣いなのだ。


 こんな自分を、気にかけてくれている。


「……」


 倫太郎は鼻をすすった。


 そして、すぐに、返事をした。


「行きます」


 どんなに辛くても。

 もう何もしたくないとふさぎ込んでいても。

 

 それでも。

 この三人の気持ちだけには、裏切ってはだめだ。


 それだけは、守らないといけないと思っていたから。


『おっけー』


 サムズアップするテンセグのキャラクターのスタンプがかなたから送られてきて、倫太郎は安心して、そのまま机に突っ伏して、眠った。


 その日も、同じ悪夢を見た。


 

 ◇◇◇


 

 次の日。


 放課後、四人は電車に乗って日本大橋まで向かっていた。

 ロングシートに倫太郎、かなた、雫、そして雷華の並びで座っている。会話の中心はかなたと雫の女子二人だ。


「カナデさん、バスケの漫画のコスプレしてたんだね」


「そうそう、あの人男装のコスプレするの好きだしめちゃくちゃ似合うんだよねー。で、コスするキャラがめっちゃ努力家でボールがすぐ擦り減ってるっていう設定なんだけど、コスプレしてる時に持ってるボールが新品だったらだめだから、ある程度使い古した感が欲しいんだって。だから、思う存分使い倒しちゃってって言ってた」


「わーっ、私そのキャラ知ってる! その漫画の推しの先輩でなんだけど、後輩思いで優しい人なんだけど試合になった途端にクールになって相手の動きを読んで欺いたりちょっと腹黒いところを見せたりするっていうのがギャップがあっていいんだよね!  見たいなぁコスプレ……! ailes d’angeではやらないのかなぁ」

 

「夏に道屯堀でやるコスプレフェスで専門学校の友達と合わせするって言ってたよ」


「うわ、もうそれ絶対行く! かなたちゃんはどうするの? コスプレする?」


「わたしどうすっかなーってちょっと悩み中。人多いの結構しんどいしなぁ。はるにゃんが出るっていうのなら考えはするけどもって感じ」


「はるにゃんはコスプレするのかな、ねえ常鞘君知ってる?」


「そこで俺に話をふるんじゃねえ」


「え? はるにゃんが家でコスプレどれにしようかなって選んでて、でそこに弟の君がふらっとやってきて『ふーん、こっちでいいんじゃない?』みたいに言うんじゃないの?」


「あ、そのシチュエーションすごい良いね……」


「姉が着替えているところに平然とやってくる変態だと思われてんの俺?」


「いや変態とは言ってないよ、ただ姉に自分好みのコスプレを着せたがる弟だと」


「それを変態と言うんじゃねえのか」


「でもはるにゃん裏で寂しがってたよ。ailes d’angeに来た日にさ、家に帰って感想聴いても衣装のことなかなか褒めてくれなかったってLANEで呟いてた」


「え、なにお前姉とLANE交換してんの?」


「そりゃそうでしょうよ、同じバイト仲間なんだから」


「推しと繋がってるの羨ましくて吐血しそう……」


「お前もお前でなんなんだよ」


「でも常鞘君。推し、じゃなかったお姉さんのことはちゃんと褒めなきゃだめだよ?」

 

「どう褒めたらいいんだよ姉のコスプレを弟の俺が」


「そうだね……ありのままの感想を言えばいいんじゃないかな? 私だったら『胸おっきくてファーがもこもこで可愛い! 抱き着きたい!』っていうかな」


「変態おやじすぎるだろその台詞は」


「釘矢君やい、君なら何て言う?」


 かなたは隣の倫太郎に声をかける。


「……え、あ、す、すいません……ま、窓の景色見てました」


 すいません、と倫太郎は頭を下げる。

 普段からかなたたちの会話に自分から話すことはは多くはないタイプだが、ここまで一向に会話に混ざろうとしていないのは流石に珍しい。

 

「は、はるにゃんの衣装を、どう褒めるか、ですか……。お、狼で、こう、食べられちゃう……なぁ、みたいな」


「だってよ、常鞘」


「これを参考の意見として紹介するの頭おかしいだろ」

 

「じゃあ今からはるにゃんの衣装をどう褒めるか会議しましょう!」


「うそだろおい……」


 熱を持って語る雫とそれに付き合わされる雷華に会話を任せつつ、かなたは倫太郎に再度声をかける。

 今度は、やさしく、囁くように。


「……本当に体調大丈夫なのか?」


「あ、ありがとうございます。た、体調は、大丈夫です」


「それなら、いいんだけど……」


 今日の昼休みに体育館倉庫の屋上で駄弁っていた時も、倫太郎はどこか上の空だった。あれだけ好きなテンセグの話で盛り上げようとしても、倫太郎の反応は乏しい。それでも雷華に言わせれば「反応があるだけだいぶマシ」とのことだった。


 よほど昨日のことが堪えているのだろう。

 バスケをして遊ぶことが、悪い方向でプレッシャーになってしまわないかと思っていたが、


「……今日、みんなと、遊ぶ、のが楽しみで、学校来たので……」


 倫太郎の小さな声にかなたはホッとするのと同時に、なんとしてでも元気を取り戻してあげたいと思った。


 大切な、友達だから。


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