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初めてできた友達は、小さくて可愛いコスプレ好きなオタクの女子高生でした。  作者: 安田いこん
第三章 198センチの陰キャオタク君が球技大会で頑張る話
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第45話 楽しい楽しい球技大会?

「よぉー、釘矢!」

 

「え!? あ、う、うん、おはよう!」


 ライブが終わって次の日の朝。登校して教室にやってきた倫太郎を男子が気さくに挨拶しに来た。倫太郎は悪夢を見たせいか、少しだけ反応が遅れてしまった。

 彼の名前は雷華と同じ陸上部の多車優孝たぐるま ゆたか。身長は180と高く、倫太郎に対する恐怖心を(周りと比べて)多少はない方ではあった。

 

 とはいえ、周りは優孝に心配げな目を向ける。倫太郎の噂があったからだ。


「今日なんか熱くね? 梅雨になったらまだ温度低くなってマシなのになー」


「そ、そうだね。でも、蒸し暑いのは嫌かも」


「あーそれもあるよなー雨って。どうにかなんねーかなー。首にかける扇風機みたいなやつ、あれって効果あんのかね?」


「ためしてみたいけど……先生に没収されるかも」


「釘矢だったら堂々とそれ使ってても先生ビビって没収しないんじゃね?」


「そ、そうかな……」


「そうしたら周りもじゃあ使っていいんだってなるから、よし釘矢お前からいけ!」


「そ、それはどうなのかなぁ……」


「あっはは! 冗談だよ!」

 

 多車は、倫太郎が噂のような荒っぽい人間ではないだろうだと思っていた。

 ちょっと気弱な所があるくらいで、話していても怖さを感じたことはない。

 顔だって厳つくないし、時折見せる困ったような笑顔を見て、悪い人間だと思う方が難しい。


(多車君、良い人だなぁ……)

 

 倫太郎は、クラスでこうして友達が増えていくのは嬉しかった。

 このまま、何事もなく学校生活が平穏に過ぎて行けば――


「あっそうだ。釘矢、球技大会の種目名に選ぶかきめた?」


「え」


 言われるまで忘れていた。いや、忘れるようにしていたというのが正しいか。

 クラス対抗の球技大会がもうすぐ開催される。クラスの親睦を深めるというのが目的の、学校の恒例行事。


「やっぱり、バスケとかいいんじゃね!?」


「は、はは」


 乾いた笑いを浮かべる。


(……どうしよう)


 倫太郎は落ち込んだ思いを抱えたまま、朝のHRを迎えるのだった。


 朝のHRで、学級委員長が教壇に立ち言う。

 

「それでは各自、やりたい種目に丸を書いてここに入れてくださーい」


 配られたプリント。倫太郎が選べるのは、男女混合ドッチボール、男子ソフトボール、そして男子バスケ。

 周りがワイワイとにぎやかに友達と話しながら丸を書いている。

 

 倫太郎は前に座る雷華に聞いてみた。


「つ、常鞘君はどこにでるの……?」

 

「いや、俺出ねえし」


「そうなの!?」


「声楽だけじゃなくてピアノやってるから。趣味でだけど。突き指でもしたら嫌だって担任に言ったら普通に認められた。吹奏楽の連中も同じ理由で辞退するやつもそこそこ居たみたいだし」


「そ、そうなんだ……俺も、い、今からピアノ習おうかな……」


「何言ってんだお前」


「……俺、球技大会、出たくなくて」


(そういえばこいつ、言ってたな……ラグビーで、トラウマでもあんのか)


 雷華は、カラオケの時に聞いた倫太郎の過去を思い出した。

 過去の出来事で、スポーツに対し極度の苦手意識を持ってるのだろう。


 とはいえ。


「辞めたいのは分かるがそこまで俺面倒みねえぞ。自分でなんとかしろ」


 そこまで倫太郎のお世話をするつもりはなかった。

 嫌なことは嫌という。やりたいことはやりたいという。

 それくらい当たり前のこと、わざわざ倫太郎を手伝うことは考えなかった。

 

「ううー……、そうだよね……でも、今更……」


 弱気な声を出す倫太郎に、雷華はため息交じりに言う。

 

「……ドッチボールとかいいんじゃないのか。最悪、突っ立ってるだけでもいいし」


「っ! そ、そうだ! そうだね! そうするよ、ありがとう! さすが常鞘君!」


「うるさ」


 倫太郎はドッチボールに丸を書いて提出する。


「それでは開票しまーす」


 開票の結果……


「ソフトボールは既定の人数通りです。なのでソフトボールを選んだ人はこのまま決定です」


 ソフトボールを選んだ生徒たちは安堵したような顔を浮かべた。


「で、ドッチボールがかなり人多いです。逆にバスケが足りないです」


「っていうかバスケ二人しかいねえじゃん!」


 多車が困惑した声を上げ、クラスがどっと笑う。


(多車君、バスケ選んだんだ……)


 倫太郎が多車の方を見る。

 

「なので、ドッチボール選んだ人から、ええと3名、最低でも来てもらわないといけないんですが」


 多車は、倫太郎と目が合った。


(あっ、やばい)


 倫太郎は咄嗟に目をそらそうとしたが、手遅れだった。

 

「釘矢! バスケいこーぜ!」


 多車は立ち上がり、にこやかな笑顔で、100%の善意の表情で、倫太郎に呼びかけた。


 途端に集まる視線。


「釘矢? ああ、あいつならバスケしたら無双できるんじゃない?」「てか身長デカいやつやったら無敵だろ」「バケモン、バケモンだこれ」「むしろ逆になんでドッチボール選んだんだあいつ、デカい方が不利なのに」「身長198センチって……スラムダンクで言う野辺じゃん!」「誰だよ」「ポールだよ」「チョイスが渋いな……」「やっぱ桜木の反則行為のせいでリバウンド競り負けて流れが変わって結局野辺が交代させられたのちょっといまだに引っかかるんだよね」「数十年前の連載の漫画を今でも引きずってんの何?」

 

「でも、あいつやばい奴なんでしょ? バスケで人ぶっ倒されないかな」「あいつとマッチアップするやつ可哀そうー」

 

 好き勝手に言う周りの言葉に、倫太郎は何も言い返せない。

 いつだってそうだ。

 人から言われて、反論できない。

 したら、怒られてきたから。

 だから、倫太郎はひきつった顔しかできない。


「……ええと、あの、3人選ばないといけなくて……じゃんけんで決めるっていう風にはしたくなくて、なるべく自主的にしてほしいんだけど……」


 委員長が困りはてた顔になっている。本来ならば倫太郎に直接言う言葉だが、倫太郎相手とあって直視ができない。だから誰とも目の焦点が合わず、教室から孤立しかけている。

 そんな委員長の姿がどこかかわいそうに見えてしまい……、


「……は、はい。バスケ、に、行きます」

 

 倫太郎は、憐憫に耐えられずに屈してしまった。


「おおー! これバスケ勝ったんじゃね? 釘矢が居たら優勝するだろ」


 クラス中がにわかに騒ぎたつ。優勝間違いなし! と誰もが盛り上がる。

 そんな中、倫太郎の表情はずっと、後ろめたい顔をしていた。


「……なにやってんだか」


 雷華がぽつりとぼやく。

 

「うう……常鞘君、どうしよう……」


「どうしようっつったって、やるしかないだろ。まあ、適当にやればいんじゃないか、適当に」


 困り果てる倫太郎を、一人のクラスの男子がじっと見つめている。


 彼――風治力也ふうじ りきやは、多車と同じバスケを選択していた。卓球部だが中学まではバスケをしていて、バスケにはそれなりの自信があった。


 だからこそ。


「……気にくわねえ」

 

 倫太郎の注目され具合に不機嫌そうな声を漏らすのだった。




◇◇

 

 


 その日の昼休み前の授業は体育だった。

 クラス合同での授業で、今日は球技大会が近いということもあり、それぞれ選んだ種目でのチーム練習ということになる。


「よーし、じゃあがんばるぞー」


 チームの音頭を取るのは多車。

 身長が高く足も速いことから、このチームを引っ張るうえで柱となる選手なのは間違いない。

 彼の周りに集まるのは、


「……」


 ずっと不機嫌そうな顔をする風治。

 元バスケ部員とあり、身長こそ高くはないが3Pシュートを得意としているらしい。チームのポイントゲッターとして多車から期待されているが、何があったか分からないが不貞腐れた顔を隠さないでいる。


「み、ミスしたらどうしよう……」「大会中に動画撮られてティックタッカとか『運動音痴のへたくそすぎるプレイがヤバすぎるwwww』とかで晒されるんだ……」


 見るからに運動したことがほとんどなさそうな男子二人――暇木(ひまき)手知てち

 彼らは本当はドッチボールに行きたかったが、最終的にじゃんけんに負けたようだ。やる気は……十分とは言えなさそうだ。


「は、はい」


 そして、全校生徒で一番背の高い倫太郎。

 

「まじで最低限の5人しかいねえから交代もなんもできねえけど、まー、走り切って頑張ろうぜ!」


 多車はそう言いながら、バスケットボールを手に取る。


「じゃあ、軽くパス練習でもするか!」


 五人が輪になってパスをする。多車は運動のセンスがあるのか、パスするのも受け取るのも難なくこなしている。


「……ちっ」


 風治は不貞腐れたように早いパスを出して、運動経験のない暇木がキャッチできない。


「おーい、風治。もうちょい柔らかいパスしたげろよ」


 多車は注意しながら、倫太郎の方に指をさす。


「釘矢みたいにさ」


 倫太郎は、実にほんわかしたパスを、同じく運動経験のない手知にする。手知は慌てながらもしっかりとキャッチ出来ていて、安心したような顔を浮かべていた。


「あんなへなちょこなパスして、どうせ相手に取られるだけだろ」


「つっても味方が取れないパスしても仕方がないだろうがよ」


「うるせぇなぁ」


 風治の態度に、多車は困ったように腰に手を当てている。


「まあ、パスはこれくらいにして……シュート練習するか!」


 重い空気を切り替えるようとして、多車は、倫太郎に何気なく言った。


「そうだ、釘矢。ダンクしてみろよ!」


 その言葉で、他のクラスでバスケ練習をしていた生徒たちが一斉に倫太郎の方を向いた。


「とうとうダンクするのかあいつ」「どんなんだろうな」「あのでけえ体でダンクしたらゴールぶっ壊れるんじゃね?」「うわー、見て見てえ」


「わ、わぁ……」


 周りの視線を浴びて、倫太郎は身を強張らせる。


「あっはは、そんな周りの目にビビんなって。お前がダンク決めれたらさ、楽勝なんだから!」


 あくまで倫太郎を勇気づけるように放った多車の言葉が、


「じゃあ俺いらねえじゃん」


 風治の堪忍袋の緒を切った。

 

「なんだ、どうしたんだよ? いらねえとは言ってねえよ」


「言ってんだろうが」


「だからいつ言ったんだっていってんだよ。俺の話聞いてんのか」


「聞くわけねえだろお前みたいなへたくそなやつのこと」


「お前それはないだろ、なあ」


 多車と風治が、互いに向き合って小競り合いになる。

 

 風治には、バスケ経験者としての矜持があった。

 自分が試合で活躍できるということを期待していた、だからこそバスケを選んだ。


 だが、多車も、そしてほかの連中も、自分ではなく倫太郎の方を向いている。


 バスケをやったこともない、ただ身長が大きいだけの倫太郎を。


 それが風治は気に入らなかった。


 そしてそれをそのまま口にできるほど、まっすぐな性格ではなかった。

 だからただ不満の感情を多車にぶつける。

 多車も多車で、風治のせいで空気が悪くなっているのをなんとかしようとしているのに、まるでいうことを聞かない風治に対し、とうとういら立ちを隠せられないでいた。


「び、びびる……」「喧嘩こわいぃ……」


 暇木と手知は二人の喧嘩に恐れをなしていて、

 

「ど、ど、どうし、よう……」


 倫太郎は仲裁することもできずにその場で慌てふためいていた。


(何してんだあいつら)


 それを雷華は体育館のステージに腰かけながら見ていた。当日不参加ということで外ではなく体育館で見学しながらバスケのチームがどんなもんかを見ていた。


 想像を超えるほどにバラバラで、あきれてものも言えない。

 とはいえ、険悪なムードを見せつけられるのも大概嫌気がさしてきたので、雷華はステージから降りて止めようかと思っていた。


 雷華の前を、だれかが遮った。

 他のクラスの男子だった。


「話聞いたぜ。バケモノがバスケすんだって?」


 ニヤニヤと笑いながら、二人ではなく、倫太郎の方を向いている。


 喧嘩をしていた多車と風治は、自分たちではなく倫太郎の方に近づいてくるのを見て、カチンときた。


「なんだよお前」「こっちの事情に口出してんじゃねえよ」


 それに、と多車がその男子に言う。


「お前、バスケ部だろ。なんでお前がバスケのチーム入ってんだよ」


 球技大会のルールでは、バスケ部はバスケを、野球部とソフトボール部はソフトボールを選択できない。

 しかしその他クラスの男子――水木原浩二みずきばら こうじは、意気揚々とした顔でバスケットボールを人探しで回しながら笑っている。

 バスケ部では期待の一年生として早くも対外試合で結果を残しているというポイントガードで、身長172センチの身長はバスケとしては小柄だが俊敏そうな見た目をしている。


「んー? それはね、特別ルール。その様子だと君たちまだ知らねえ見てえだな。このバケモン、ダンク禁止だって」


「は……はぁ!?」


「寝耳に水って反応だねぇ。だって、こんなバケモンがゴール下に居たら無限にゴールできるでしょ。だから、合理的な配慮ってこと」


 なんだよ、と周りの反応がしらける。

 その反応を待っていましたとばかりに、水木原が倫太郎の方に顔を向ける。


「でも、俺らのクラスのチームと戦うときは、ダンクOK。その代わりに、バスケ部の俺が出るけどね」


「な、なんじゃそりゃ……」


 多車が困惑した表情を浮かべる。


「と、いうわけで……釘矢」


「っ……!」

  

 倫太郎は、水木原にずっと向けられるその笑みに、本能的に拒否感があった。


 理由は分からない。

 

 ただ、ぞくぞくと、背筋が凍るものを感じていた。


 あえて言葉にするなら、人の話を聞くつもりのない、対話のない、笑顔。


 笑顔なのに、明確な敵意がある。

 

「じゃあちょっと僕とやってみなよ。1ON1で」


「え、え……?」


「お前センターすんだろ? ゴール下で点入れるんだろ? 俺がお前をディフェンスしてやるよ。そうだな……3分以内に1回でもシュート入れたらお前の勝ちでいいよ」


 周りがざわつく。

 

 いくらバスケ部員とはいえ、198センチの大物を圧倒できるのか――周囲がにわかに騒めく。


「ほら、いくぞ」


「え、えっと、あ、ぁ」


 そうして水木原との対決が、始まったのだった。

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