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初めてできた友達は、小さくて可愛いコスプレ好きなオタクの女子高生でした。  作者: 安田いこん
第一章 198センチの陰キャオタク君に初めての友達が出来るまで
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第3話 好きなことを好きって言うのがこんなにうれしいなんて 

「えー……それはそれとして、リンリン様は今日日本大橋に何のようで来たの?」


 ようやく涙が収まったところで、こころんは倫太郎に話題を振る。

 

 倫太郎はコンビニバイトが落ちた件は伏せたかった。

 

「えっと……」

 

 ただ、同人誌を買いに来たと言う勇気がなかった。恥ずかしいし。

 

「そんな恥ずかしがることもないでしょ。日本大橋に来る人なんて全員オタクなんだから」


 倫太郎の想いを見抜いたか、こころんはズバッと言い切った。

 

「偏見がすごいけどあながち間違いでもないかもしれない……。そ、その、同人誌、買いに……」

 

「へえ! どのジャンル? ここだとメラブ近いよね」


 こころんは興味気に言う。営業トークかもしれない、でも、純粋に自分の放った言葉に関心を持ってくれるというのはうれしかった。


「ちょっと、男性向け……とはよく言われるんですけど、その、スマホゲームで……儚げな世界観で、美少女キャラが沢山いて、荒廃した世界の学園モノで……」

 

「テンセグ?」


「あ、はい、そうです……って、えぇ!?」


 何気なく言ったこころんの単語に、倫太郎は驚いた。

 

 青き乙女の世壊統合(テンセグリティ)

 厄災により世界中の大人が消え失せ殆どの大地が海に還り、取り残された少女たちが唯一現存した星の光のように小さな島「スターライト」で、仮想的な学園生活を作り上げ偽りの青春を送る壊れた世界。唯一の生き残りの大人であるプレイヤーが彼女たちの前に現れ、世界に絶望していた彼女たちをプレイヤーが導き、ばらばらだった彼女たちの想いを一つの希望に統べていく……という筋書きの美少女スマホゲーム。

 硬派な世界感と銘打たれたゲームだが、露出度が高い学園の制服をまとう美少女が肌色が多めなハレンチな展開を繰り広げ、年齢制限ギリギリを攻めたフェチズム溢れるスチルなどが注目を集めて口コミ的人気を博している。もうすぐで三周年と、息も長い。

 イラストレーターの性癖展覧会と揶揄されることもある、ちょっと公言するのがやや恥ずかしい……そんな感じのゲームである。


(男性ファンが多いのも、ちょっとえっちな展開が多いからっていうのもあるけど……ま、まさか、この人が知ってるなんて……)


「ちな、どこの所属が好き?」


「あ、エリシオ学園です」


「おっ、そこかあ。生徒会長だっけ、ゆうらってキャラ人気よね」

 

「そ、そうなんです! リーダー役の由良ゆうらがっ……! 大切なブローチを壊して泣きながら謝る2個下の子のハフリを抱きしめて頭をゆっくり撫でてあげるあのシーンとかっ……! ブローチの伏線まだ全然回収はできてないんですけどその温かい目とか吐息とかっ、そのあとの銃撃戦の戦いでその二人を隣で組ませるとバフがかかってたりとか戦闘中のハフリの声が涙声になってたりとかゆうらが壊れたモノに執着している自分に気が付いてそれはもう取り返しがつかないほどに壊れ切った今の世界と重なって自分は壊れてしまったものにとらわれるんじゃなくて今守るべき子のために戦うんだというゆうらの覚悟を決めるという意味でもこのストーリーは過去との決別を果たすという意味合いがあってすごく良くて高難易度もあってゆうらの乗り越えなければならない壁という解釈とも取れてそこがすっごく、すごく、いいんですよっ……」

 

「へぇ、語るじゃん……」

 

「はっ! ……す、すみせん……」

 

「いやいや、良いじゃん。好きなことを語れるの!」


「好きな、こと……」

 

 言われて倫太郎は思わず復唱した。

 これまでオタク的趣味を持っていることを誰にも言えなかった。

 オタクを語れる友達が居なかったというのもあるが、自分がこうしたい、ああしたい、ということをこれまで言えなかった。

『お前はほかの人よりも体が大きんだから、我慢しなさい』『周りの人が怖がるから、おとなしくしなさい』『嫌なことされても耐えなさい』

 大人たちに言われた言葉たちが、いつの間にか倫太郎の心を縛り付けていた。


 それが今、このコスプレ喫茶で吐露した、オタクとしての言葉が、怪訝な顔をされず肯定される。

 

「だって周りオタクしかいないんだから、好きなことを好きなようにしゃべっていいじゃん、ね?」


「……は、はい……!」


 こころんの言葉に、倫太郎はどこか救われたような気持になる。


「それに私もテンセグのことも語りたいしねぇ」


「こ、こころんさんは、どんなキャラが好きなんですか?」


 そういえばどんなキャラが好きなんだろうかと思う。

 やはり女性受けするような、男性的で中性的なキャラクターとかだろうか?

 

「ふっふふー。私はねえ、ガチで結婚したい子がいるのよ」


「け……結婚!?」


「そう。まあ昔で言うところの”俺の嫁”っていうものだね!」


「は、はぁ……」


 現実には存在しないキャラクターと結婚したい、という欲望を抱いていると聞いてびっくりしてしまった。


(……でも、これも他の人の()()を尊重しなきゃ!)


 倫太郎は気持ちを持ち直し、こころんに聞いてみる。


「それで、どのキャラと結婚したいんですか?」

 

「神楽桜やんや」


「……あ、ああ! やんやですね! レイルリンク学院の……」


「おいちょっとなんで怯んだのよ」


「あ、いや、その……」


 神楽桜やんやはテンセグきってのロリキャラだ。あどけない性格で無垢なままにプレイヤーに抱き着いては『だいちゅき♡』と爛漫な笑顔を振りまく少女である。そういった趣向を持つプレイヤーを狙ったかのようにデザインされたキャラクターで、コアなファンも多い。

 

「私がロリキャラが好きで悪いっていうの?」


「えっと、その、そうではなく……」


「いや私も最初どうかなーって思ったんだけどこう腋を見せびらかすようなでもそういう色気を出すようなことなんて考えないだっておそらく出てくるキャラクターで一番幼いでしょ穢れもなにも知らない壊れた世界が普通の世界だって思ってるくらいなんだから、でそれでシャトークア技術科が作った猫耳型の通信機を付けてて立ち絵をタッチすると耳をぴくぴくしてこっちを私を見てくるわけじゃんそれも愛とか恋とか知らない純粋向きでぴょこぴょこと楽し気に近づいてきてぎゅって腕を抱きしめて(息継ぎ)にぱっと頬を染めるっていうのがたまんねえっつうかもう私がテンセグリティの世界に入り込めたら一日中撫でまわして撫でまわしつづけてやりたいし女の子同士だからお風呂一緒に入って洗いっこしたいしその小さな肢体をこの手できれいに清めてやりたい……」


「わ、わぁ……」


 倫太郎は思わず圧倒されてしまう。


「え、そのこころんさんは……」

 

「ロリコンだが?」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 (こんな堂々とした顔でロリコンって言うのすごいな……)

 

「そういえば第3章の「再生の海域」クリアした? 編成むずすぎ」

 

「あっ、あそこの編成ムズイですよね! 俺は補助キャラを多めにして、命中率を高めにして道中の突破率を上げることを優先してます。ボスはもう正直じゃんけんみたいなものなので試行回数を増やせば多分倒せると思います、俺もそれでやれました!」


「おー、どんな編成にしたの? 見せて見せてー」


「あ、は、はい!」


 求められるのがうれしくて倫太郎は急いでスマホを取り出しゲームを起動しようとする。


「こころんちゃーん! ごめん、ちょっと急いでキッチンに来てー!」

 

「あ、はーい! ごめんね、ちょっと離れるわ。あとでまた編成画面見せてね!」


 そういって倫太郎にごめんねと手を合わせ、キッチン裏へと戻ってしまった。

 

 (いってしまった……)

 

 途端に、寂しくなってしまった。

 

 そういえば他の人はどんなことしてるんだろうと周りを見る。

 

 キャストと楽しそうに話す男性女性。オタクのこと、漫画や少し昔のアニメのこと、萌え萌えきゅんしているところ。それ以外にもトレーディングカードを見せ合ってニヤニヤしているカップル、アクスタを飾ってニコニコしている男性、キャンパスを持ってその場で思いついたイメージを書く女性、ラノベを読む、携帯ゲームをする大人の人。

 

「みんなオタクなんだな……」

 

 そして誰も、自分に注目してない。自分の好きなことに夢中になっている。店内に最初来た時は少し目線を受けたが、そのあとは自分の世界に入っている。

 

「君、コスプレ喫茶は初めてかい」

 

 スザクおじさんが話しかけてきた。

 

「ここはね、自分の好きなことを受け入れてくれる場所なんだ。かく言う私も作家でね。ああいや、アマチュアでして別に大したものでもないんですが。こうしてここでインスピレーションを感じるのもありますが、多くの人たちの好きに囲まれていると、幸せを感じるのです」

 

「な、なるほど……」

 

 好きを受け入れる場所。それがここなんだ。


 なんて素晴らしいお店なんだろう。倫太郎はジーンと胸が熱くなる。


 倫太郎は、ずっとずっとほしかった。好きを満喫できる場所が。

 

「俺……ずっと、好きを語ることが出来なくて……」


 思わず倫太郎はスザクおじさんに語る。スザクおじさんは「うんうん」とかみしめるようにうなずいてくれる。


「だから、ここで、こころんさんと、好きを語れて、誰からも好きを否定されなくて……それが、俺、すごい、感動して……」

 

 ツー、と、倫太郎の鼻から血が流れて来た。

 

「……興奮のあまり、鼻血が出てきたんですよ」

 

「大丈夫!? と、トイレはあそこにあるよ!」


 スザクおじさんは流石に動揺してトイレを指さす。

 

「あ、ありがとうございます……。ちょっとトイレ行ってきます……」


「お、おじさんびっくりしちゃったよ……」

 

 倫太郎はそそくさとトイレに入る。


 その間、少しばかり周囲を見渡した。

 

 違和感を覚えた。

 

(……キャストの人、みんなキッチンに回ってる……?)

 

 何か起きたのかな、と思いながら倫太郎はトイレの扉を閉めた。

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