第28話 実践編! 友達の作り方!
「……というわけで、常鞘君と、友達になるには、ど、どうしたらいいんでしょうか」
「なるほど、それでLANEで通話したいってことだったんだね。うん、相談にのるよ」
「あっ、ありがとうございます……!」
その日に家に帰って夜ご飯もそこそこに、倫太郎は私室の勉強机に悩ましげに肘をつきながらLANE通話をしていた。
通話先は、雫だ。
「あ、飴川さんって、その、すっごく、友達が多いっていう、印象があって、そ、それで、そ、相談したくって……!」
「私も結構引っ込み思案なところあるから、友達を作る方法なんてあんまりわかんないかもだけど、それでもいいなら!」
「いやでも! く、クラスでも美術部でも、友達がたくさんいるって鈴木さんから聞いてます! 学級委員長としてみんなから頼りにされてるってこと……! ひ、引っ込み思案っておっしゃってますけれど、と、友達がいるなんてすごいって思いますし……あ、い、いやなんか変な言い方になっちゃって申し訳ないです! で、でも、お、俺みたいなガチの陰キャからしてみたらものすっごい陽キャです! あれ!? これって誉め言葉ですか!?」
「ふふっ。大丈夫大丈夫、伝わってるよ、釘矢君の気持ち」
幼いころはどちらかというと口下手だった雫だから、ぎこちない言葉遣いながらも倫太郎が思いを伝えようとしているのだろうという気持ちは十二分にわかった。
「かなたちゃんのため、だもんね?」
「あ、そ、それは……は、はい」
(……人と話すことに抵抗があると言っても、かなたちゃんのためならそんなこと忘れて私に通話を持ちかけてくるんだねぇ。これも釘矢君のかなたちゃんへの想いが強いってことなんだねぇ)
倫太郎のかなたへ向ける(無意識の)感情の大きさを想像すると、雫はにやけ面を堪えきれずに宿題を放り出してベットに転がった。
「その、い、一番緊張しなくしゃべれるというか相談できるのって鈴木さんなんですけど、でも、このことを相談すると鈴木さんが気を使ってそんな無理しなくていいよって言われそうで、だから飴川さんにちょっと相談したくて……あ、い、いや、その、飴川さんで妥協したとかそんなんじゃなくて! あの、俺本当に学校の中でこうして普通に、普通? 普通ってなんでしょうね、あはは! あ、あの、す、すいません、と、とにかくあの、あ、飴川さんに相談できて俺すっごい助かるというか、あの……あ、ありがとうございます!」
おー頭の中が大渋滞してるなー、と思いながら雫は交通整理をする。
「とりあえず、常鞘君っていう人にどうしたらうまく話しかけられるかを考えてみよっか」
「あ、はい!」
倫太郎は姿勢を正し、勉強机に広げたノートに向かってペンを執る。
雫からのアドバイスをすべて書き記すつもりだ。
「常鞘君って、釘矢君からしてみたらどんな人なの?」
「えっと……授業中はいっつも気だるそうにしてて、たまに居眠りしてます。同じクラスの陸上部の人と話しているところは見たことはあるんですけど、そ、それ以上に……女子、に、話しかけられることが多いと思います。女子に、モテる人なのかなって」
「なるほどね。じゃあ私が常鞘君だとして、いろいろ話しかけて見て? 例えば、今日のお昼ご飯何食べたの? って」
「あ、は、はい! え、えっと、つ、常鞘君……あ、あの、えっと、さ、差し支えなければお聞かせ願いたいんですけれども、その、ぷ、プライベートの、ことを、聴いて申し訳ないんですけれども」
「はいストップー!」
「あ、は、はい」
「そんな畏まって聞くことじゃないよ? お昼ご飯だもん」
「あ、そ、そう、ですかね……? いやでも、それが例えば特大級の地雷だったりでもしたらもうそれ以降話しかけられなくなっちゃうとか」
「そんなめちゃくちゃレアケースなこと考えなくていいよ。そこから共通の話題を見つけられたらそこから話をつなげていけばいいんだから」
「な、なるほど」
倫太郎は頷きながらメモに書いていく。
「相手の好きなモノとか、興味あるものについて自分が関心を持ってる、っていうことを伝えられたらいいと思うな」
あとはね、と雫は言葉を続ける。
「もっと気楽に、力抜いてしゃべったらそれでオッケー!」
「え、それだけで、いいんですか……? か、会話するからには何か一つ面白いこととか、実のあることを話さなきゃって……」
「そんなことないよ。会話は気楽なものなんだから、肩肘張らずにするといいよ!」
「あ、ありがとうございます……! すごく、気が楽になりました……!」
倫太郎はノートに”気楽に!”と書いてその周りをぐるぐると円を描いた。
(……そっか、これまでは鈴木さんに、気楽な雰囲気を出してもらってたから、普通に会話できてたんだ。本当に俺、鈴木さんに甘えてばっかりだったんだな……)
倫太郎はノートに"鈴木さん"と書こうとして、鈴、と書きかけたところでピタッとペンが止まってしまった。
なぜか、自分のノートにかなたの名前を書くのが急に恥ずかしくなった。
(な、なんか名前を書くのってやっちゃいけないような気が……そ、そんなことな、はずなのに……)
気持ちを落ち着かせるために左馬の文字を二重線で引こうにもそれもなんか悪い気がして、心がざわついてしまう。
「あ、あとは……こ、怖がられない様にはどうすればいいか、ですけど……」
倫太郎は思い悩んだ。いざ話しかけるとなると、そこが悩みどころだった。なにせ怖がられるのが普通になりすぎて、"普通に"話しかけるというのが倫太郎はわからないのだ。
「釘矢君って全然怖くないのにね」
「は、はきはきしゃべらないのがだめ、だと、思ってて……え、えっと、その、あっと、そ、その……」
倫太郎は言葉に詰まってしまう。
(あ、や、やばい。な、何か、こ、言葉続けないと……! ど、どうしよう、ど、どうしたら、ええと、ええっと……!)
会話を途切れさせないように、倫太郎は必死に頭の中から話題を見つけようとする。
「あ、あ、あの! ち、中学生の頃っ、ら、ラグビーを、やってて!」
もがいてもがいてようやく話題を見つけた。それを急いで雫に投げ飛ばす。
焦るがあまり、普段は閉じているはずの心の扉を開いてしまっている。
「こ、声出さないとすっごい怒られるので……なんというか、ほぼ叫んでました。はい、とか、わかりました、とか、そんな声で……あんまり自分の言葉を話せっていう環境ではなかったので……。会話とは程遠いかもしれないです、けど、でも、その時は今よりずっと、声が、でてて……………………そし、て…………………………」
10秒以上もの間黙ってしまったことに倫太郎は気が付いて、慌てて雫に謝る。
「あ、いや、す、すいません!」
昔のラグビースクールの時代のことを、先輩のことを思い出してしまった。
「ラグビーのこと、思い出してたの?」
優しく、思いやる様な雫の声が耳に伝わってくる。
雫は倫太郎を急かすでもなく、無理やりに止めるでもなく、ただ待ってあげていた。倫太郎の暴走熱が冷めるのを。
「……はい。あの、すみません、ちょっと、あんまり、あれ、なので……」
できれば、ラグビースクールの時代の話は、したくはない。でも、自分が話題を振ったのに会話の流れでそれをしないというのも変だし、ああ、どうしよう、どうしよう――
「まあ、初めて話しかけるのにそんなに大きな声を出すのもちょっと気合入りすぎちゃうもんね。とりあえず、ゆっくりでもいいからしっかりと言葉を伝えるってだけでもいいと思うな」
「あ、は、はい……!」
ラグビーの話を掘り下げられるのではないかと思ったから、倫太郎は心の底からホッとする。
(……やっぱり、かなたちゃんが言ってた通りだ。ラグビーのこと、話したくないんだ)
少し前に、かなたから言われていたことがあった。
『彼さ、中学のラグビーでよくない噂があんだよ。そんな噂許せねえんだけど、でも彼と話しても、ラグビーのことしゃべらないんだ。多分、ラグビー時代の時になんかあって、それが曲解に曲解してよくない噂になったんだと思う。だから……彼には極力ラグビーの話はしないであげてほしいんだ。彼、きっと、ラグビーのことは話したくないんだろうから』
倫太郎の心境を慮るかなたの言葉を、雫はしみじみと思い出す。
(二人とも、お互いのことをすっごい気にかけてあげてるんだねぇ)
雫はほのぼのと、心温かい気持ちになる。
「後は、常鞘君の趣味の話を聞いてみるっていうのもありだね。常鞘君は声楽が好きなんだよね」
「あ、はい。多分、と言うか絶対、歌が上手いと思います」
「それだったら、声楽のことをちょっと調べてみたらどうだろう? 自分も声楽に興味があって、こういう歌手の人が好き、とか」
「そ、そうですね、声楽に関心を持てばいいんですよね。そうして共通項を増やして、話題のとっかかりを見つけて……」
これまで自分の趣味、漫画やゲーム、イラストSNS、コスプレ喫茶……かなたとの共通話題だったし、そこから増やそうと思わなかった。
人と交流関係を築こうとしたら、今のままでは限界がある。もっと興味の幅を増やさないといけない。
(これまで、友達を作ることを諦めちゃっていたから、こんな初歩的なことに気が付かなかったんだ)
「なんというか……これまでどうやったら自分の趣味が常鞘君の趣味と被るかなって思ってたんですけど……そうですよね、俺から近づいていけばいいんだ」
「うんうん。にわかになっちゃうかもしれないけれど、こういうのに興味があって、って。きっと、常鞘君も喜んで話を聞いてくれると思うな。自分の好きなことに興味を持ってくれるのは、誰だって嬉しいからね!」
「は、はい! ちょっとこれから、声楽のこと勉強します!」
雫との通話で倫太郎は学んだ。
会話は最初のハードルが、一番高いだけ。
お互いの共通点を探し出して、会話を広げる。
相手の好きに、興味を持つ。
「あ、ありがとうございます……! 頑張って、常鞘君と友達になります!」
「うん、頑張って! 何かあったらまた相談に乗るよ」
そうして長々と続いた通話が終わった。倫太郎は一息つき、椅子の背もたれに背中を預ける。
倫太郎は、自分が変わっていっていることに気が付く。
自分から積極的にコミュニケーションをとろうとするなんて、これまでの人生の中で考えもしなかった。
成長……しているのかもしれない。
その変化が、倫太郎はどこかむずかゆくて、そして、嬉しかったりする。
「さあ、声楽のこと勉強しよう!」
倫太郎は宿題のことはさておいて、スマホでさっそく調べにかかった。
(常鞘君は、声楽のどんなところが好きなんだろう。オペラの歌かな、クラシックの音楽かな……。オペラの曲ってすごい歴史あるんだ、うわ、これ半分世界史の勉強だな……。常鞘君が思う、声楽の世界を、自分も、知ろう……)
他人の好きを知ろうとすること。それに、倫太郎は真剣に取り掛かった。
(常鞘君と仲良く話が出来たらいいな……!)
◇◇◇
時を同じくして、常鞘雷華の実家。
「どうだ、雷華。学校は楽しいか? 友達はできたか?」
久しぶりに父親の仕事が早く終わり、珍しく家族で夕飯の食卓を囲っていた。
「お母さんも聞きたいわ、陸上部はどう? 同級生の子たちとは仲良くしてる?」
「……別に」
雷華はつまらなそうに返事をする。
それは決して両親に対して反抗しているわけではない。
本当に、つまらないからだ。
学校が。
同級生が。
教師が。
すべてが。
「……」
心配そうに、隣に座る雷華の姉が見つめている。その視線が少し申し訳なくなり、雷華は仕方ないといった風に口を開く。
「……別に、心配されるようなことじゃない。お父さんに言われて、声楽家になるのなら体力もつけたほうがいいと言われて、入った。それで、淡々と練習しているだけ。おかげで体力はつきはじめていると、声楽のレッスンで多少なりとも実感できてる。お父さんに言われたことは間違いなく、無駄なことじゃない」
そして、雷華は透き通るような声で、はっきりと言った。
「だから、それだけ。俺は声楽家として成功するためにこの高校三年間をささげると決めた。だから――」
覚悟を決めるような、そんな迫真に迫った声でもなんでもない。
ただ単に、当たり前だという風に、両親に、姉に、告げる。
「ほかの連中と仲良くする必要なんてない。俺の人生は全部、日本一、世界一のテノール歌手になるために全てを費やす。それ以外、俺はいらないから」
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