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第21話 女の子2人とオタクの街で遊ぶ話

 次の日。

 待ち合わせの日本大橋の駅に、倫太郎は1時間前くらいから着いていた。


(と、友達と、外で遊びに、行けるなんてっ……!)


 昨日の夜からずっとそわそわしていて、平日と同じ時間に起きてしまってずっとワクワクとドキドキが止まらなかった。


 (こ、この服……変じゃないかな……)


 これまで遊びに行くことなんてなかったから、それ用の服なんて倫太郎は持っていない。

 唯一ある服と言えば――


「おっ! いたいた!」


 声が聞こえた。かなたの声だ。


「あっ、ど、どどど、どうもっ……」


「いやー、君はどこにいるかすぐわかるな―」


 にひひっと笑いながら倫太郎の隣にぴょこんと立った。

 だぼっとしたビッグスウェットとワイドパンツで、厚底のブーツにおまけに猫耳をイメージしたニットをかぶっている。


「あ、この服? サブカル系っていうかそんな感じの服。お店のお姉さまのお下がりでもらったんだよねー」


「っ……」


 背中のスウェットにプリントされている天使の羽を見せつけるかなたに、倫太郎はしばし見とれてしまう。

 普段の制服姿やメイド服とはまた違う、かなたらしい自由な性格が反映されたようなファッション。お下がりをくれたお姉さまも、さぞかしかなたに似合うと確信していたことだろう。猫耳のようなサブカルらしい要素もまたかなたの嗜好にピッタリとはまっている。使い古したリュックを背負い、ラフな雰囲気がかなたによく似合う。

 華奢なボディラインを隠して、厚底で少しでも背を高く見せる。どこか背伸びをする幼子のようなほほえましさを覚えた。

 

「……な、なんだ、や、やっぱり変か、私の服……?」

 

「い、いや! そ、そんなことないです!!! め、めっちゃ、めっちゃっ……!」


 思わず倫太郎がかなたに向かって声を上げると――


『え、なに? 事案?』

『あの子やばい人に襲われてない?』

『け、警察呼んだ方がいいのかな……!』


 周りの大人たちがざわざわとし始めてしまった。


「あの、大丈夫ですよー、友達なので」

 

 かなたが半笑いで呼びかけると、大人たちは


『そうか……なら、いいか……』

『いやにしたって怖すぎるだろあの人……』

『誘拐とかじゃないよね、あれ……』


 と首をかしげながらも捌けて行った。


「ふーっ、あぶねえあぶねえ」


「あ、あの、す、すいませんいろいろと……」


 倫太郎は背中を丸めてペコペコとかなたに謝る。


「いやまあ、でもぶっちゃけ君の格好……結構、その、特徴的だよな……」


「そ、そうなんですか……? ふ、普通じゃないですか……?」


 倫太郎は中学の頃のラグビーでよく着ていたスポーツウェアを見にまとっていた。

 これで運動をしていたくらいなのだからそこまでおかしくはないはずだと倫太郎はそれなりに自信もあった。

 

「よ、余所行きの服はこれくらいしか、なくて……あ、あの! ち、ちゃんと洗ってるので汗臭くはないはずです!」


「あ、いや、まあ、それはそうなんだけどもよ……」

 

 上はパーカー、下はジャージの全身真っ黒というあまりにも無骨すぎる組み合わせ。治安悪めの繁華街の”運び屋”のような風貌すら感じる。恐らくほかの色を試すなんていうファッションの余裕はなかったのだろうか、それにしてもそのガタイの良さと相まって、通り過ぎる人は思わずぎょっとしてしまうことだろう。

 サブカル系の小さい女子と、半グレを思わせる格好の巨体の男の組み合わせは、確かにただならぬ雰囲気を醸し出していた。


(まあ、これから行くお店のこと考えたら、傍から見たら怖い今の格好の方がありがたいけどな)

 

 そんなことをかなたが思っていると、遅れて雫がやってきた。


「ご、ごめんなさい! 遅れてしまいました!」


 パタパタと足音を奏でながらやってきた雫の姿は、倫太郎とかなたの組み合わせのそれ以上に周りからの注目を集めた。

 

 白く細い肩をさらけ出すノースリーブの白いワンピースに長い脚を際立たせるヒール、そして長く美しい髪を肩まで下げ、整った顔立ちと相まってドラマの撮影かと錯覚するほどのオーラを出していた。

 ウエスト周りをキュッと結んだ紐で大きな胸がことさら強調され、その恵まれたプロポーションを美しく見立てている。手に持つトートバッグも比較的安価のはずだが雫が持つだけでブランド品かと錯覚するほどだ。


「もー、遅いぞー!」


「ご、ごめんね、ちょっと起きるのが遅くなっちゃって……あ、釘矢君! 今日はよろしくね!」


「あ、は、はい……」

 

 これまた深々と頭を下げる倫太郎。雫、そしてかなたは倫太郎がどんな性格かを知っているから、どんなに怖い格好に見えても動じない。

 だが――


『え、な、なにあの三人……』

『どう見てもカタギじゃない男の人とちっちゃい女の子に……女優みたいにきれいな女性……』

『共通点がなさすぎるだろ』

『あのデカい男の人があの二人の女の子を誑かしてるとか……』

『いやまって、なんかあの男の人しきりに頭を下げてペコペコしているんだけど』

『あ、ちっちゃい子が先頭になって歩き出した。え? あの子が引っ張るの?』 

『だめだ情報量が多すぎて脳がパンクする……』


 待ちゆく人たちは倫太郎、かなた、雫の三人が仲良く歩いている姿に混乱させられていた。


「よーし、いくぞー!」

 

 かなたが先導する。


「そういえば今日はどこに行くんですか?」


 待ち合わせは日本大橋だということは聞かされていたが、具体的なお店までは聞いていなかった。

 

「今日は男の子である君がいてくれないと中々行きずらいとこに行こうと思ってるんだよね」


「……え? それってどういう……」


「私と雫はちょくちょく2人で遊ぶんだけど、女の子2人だと行ってみたいけど行きにくいお店とかあるんだよね」


「な、なるほど……?」


「私もずっと行ってみたいとこあってさ。たとえばあそこのラーメン屋とか」


 ああ、と倫太郎は諒解する。確かに女の子二人では行きにくいだろう。


「雫も行きたいって言ってたもんね」


 こくり、と雫はちょっと恥ずかしげに答えた。

 

「そういう意味で、君がいると行きやすいだろう?」

 

「そういうことなら、いつでも呼んでくださいよ」

 

 倫太郎は朗らかに笑う。それに雫も少しホッとする。


 コスプレ喫茶のキャストたちが呼び込みをしている通称”オタク道”のすぐ近くにあるその家系ラーメンは、昼前とあって多くの人が並んでいた。


「ここいっつも人ならんでるから、一度食べてみたかったんだよなー」


「そうだったんですね」


「ほら、オタクって言ったら家系ラーメンみたいなところあるじゃん」


「そ、そう、ですかね……?」


「言うて君も良く来てるんじゃないの?」


「……実はけっこう来てます」


「やっぱりオタク=家系ラーメンじゃん」


「そんな死ぬ人間の100%は水を飲んでるみたいな言い草……」

 

 三人一緒に列に並ぶ。列はほとんどが男性客だったが、その男性客たちは倫太郎を見ては『え、でっか』『こわ……』『ち、近寄らんとこ』と謎に距離を置き、三人の並んでいる場所だけ妙に空間に余裕が生まれていた。


「あ、そうだ、先に麺の硬さと油の量、味の濃さを決めときましょう」


「へー、そんなの決められるんだ」


「鈴木さんはどうされます? 最初は麺は普通、油と味の濃さは少なめがいいと思います……結構ボリュームあるので」


「じゃあ私麺硬め油マシマシ味濃いめを頼むわ」


「嘘ですよね!?」


「大丈夫大丈夫、今日家系ラーメン食うって決めてたから昨日の夜から飯抜いてきたし、たぶん今胃の中に無限に入る」


「かなたちゃん、それ前パンケーキのお店行った時も同じようなこと言ってて結局半分くらいから地獄見てなかった?」


「い、いや! 今回はなんか行ける気がする!」


「パンケーキの時は助けてあげたけど今回のラーメンは苦しくても一人で食べきってね?」


「……油少な目味薄めにするわ」


 かなたは白旗を振った。


「飴川さんはどうされます?」


「うーん、私もかなたちゃんと同じく家系ラーメン初めてだから……釘矢君の言う通りにかなたちゃんと一緒にしようかな」

 

 数十分並んでようやく店に入れることができ、食券を買って席に座る。


 そして店員が食券を取りにやってきた。


「麺の硬さ、油の量、味の濃さはどうされますか?」


「麺普通、油少な目味薄目でお願いします」


「私も同じでお願いします」


 かなたと雫がそう答え、


「あ、お、俺、麺硬め油多め味濃い目麺盛りでお願いします」


 倫太郎の答えにかなたと雫はびっくりした。

 

「食べ盛りの男子やべえな」


「え、そ、それ、食べれるの……? しかも、麺大盛りって……」


「安心してください。これにプラスして、お代わり無料の白ご飯を1合くらい食べます」


「胃の中にブラックホール飼ってる?」

 

 そして家系ラーメンが運ばれてきて、三人は麺をすする。


「うおっ……え、こ、濃っ!? こ、これで薄目ってマジ?」


「わ、す、すごいね、これ……すっごい濃厚……」


「水が無限に飲める……ありえんほど濃いぞこれ……」


「油もすごいし、これで一食何キロカロリーあるんだろうね……」


 そう言いあうかなたと雫だったが、箸が止まらない。

 ギトギトの醤油とんこつの味は一口食べるほどに刺激的で、舌がマヒしてしまいかねないほど。

 それなのに、もっと口に入れたくなってしまう。

 いつしか二人は無言になって家系ラーメンに夢中になった。


「た、たべた……食べきってやったぜ……」


 20分以上かけてようやく完食(半分を雫と倫太郎に明け渡したが)したかなたは、勝ち誇ったように拳を握った。


「あ、油の量すごいね……もう当分ラーメンはいいかな……」


 雫もかなたの分までなんとか食べきり、口周りをティッシュで拭いている。意外と胃袋は大きい方なのかもしれない。


「ど、どうですか? お二人とも、おいしかったですか……?」


「いや美味しかったけどさ……唇がもうグロス塗ったみてえになってるぜ……」


「お、おいしかったけど……味の暴力というか、すごいね、家系ラーメンって……」

 

「というかなんで君は私たちよりも先に食べきってんだよ」


 倫太郎は二人よりも先に大盛と白ご(おかわり)をしっかり完食していた。


「ち、中学の頃はこれに餃子とか追加してたのでまだ全然ですよ」

 

「どこにそんなん入るんだよって思ったけどごめん体格改めて見たら全然普通に入りそうだな」


「お、男の人ってすごいね……」


 ラーメン屋を出た3人は、かなたが指指すお店を見た。

 

「じゃあ次はあそこ!」

 

「カードショップ……」


 確かにあそこも男性ばかりで女性だけでは難しいところもあるかもしれない。

 

「いやー、一回カードショップ行ってみたかったんだよなー」


「鈴木さん、なにか買いたいのとかあるんですか?」


「お店とかでたまにお客さん同士でカード見せあったりしてるじゃん。そん時に面白そうだなって思ったのがあって。勇儀王義ってわかる?」


「あ、ちょっとわかるかもです。やったことはなかったですけど小学生の頃クラスの人とかそれで遊んでてるの見てて、やってみたいなーって当時ずっと思ってました」


「最近良い初心者にうってつけのストラクチャーデッキが出たんだよってお客さんが教えてくれてさ、それ買ってみようって思うんだ。君も買ってよ、今度デュエルしようぜ」


「あ、は、はい! ぜひ!!」


「あの、釘矢君。カードショップ……って、いろんなカードのゲームが売ってるの?」


「あ、そ、そうです。本当にたくさんあって……」


「UN〇とか?」


「あっUN〇は無いかもです……」


「まあまあ雫には私が後々ゆっくりとカードを教えてやるからよ……」


 3人はカードショップに入る。最初に目にしたのはずらりと立ち並ぶカードを展示するショーケースだ。カードゲームごとに並べられ、その中でもカードの種類ごとに細かく分けて陳列されていて壮観だ。


「うお、これすげえ。バチくそキラキラしてる魔法の杖みたいなのカードが一枚で3万する」


「かなたちゃんそんな高いカード使うゲームするの!?」


「や、違う違う。これ多分、観賞用とかのだと思う。確かに強いカードだけど、レアリティが違うんよ」


「……?」


「あー、なんて言ったらいいかな」

 

「あ、あの、飴川さん。強いカードって再販するんですけど、その時に記念に特別なキラ付けをしてるんですよ。今見てるあれですと、確か周年記念のパックで1ボックス(30枚パック入り)の中に25%の確率で入ってるっていうすごいレアリティのカードで……」


「そ、そんなに珍しいんだこのカード……」

 

「君すげえ詳しいじゃん」


「動画サイトで解説してる人の動画よく見てるんですよ。カード持ってないですけど……」


「ああいうカードゲーム解説動画ってやってないのについつい見たくなるよなー」


「あ、このカードとかかなたちゃん好きなんじゃない? ほら、小さい女の子」


「どれどれ? うわすっげ……18万!? こんなん家建つだろ」


「このカード使ってゲームしようものならシャッフルなんて正気な顔でできないですね……」


「初心者の我らからしてみたら敷居が高すぎるぜ」


 そんな話をする三人をしり目に、店員にショーケースを開けてもらう客の姿があった。

 指定したカードを店員に取ってもらい、傷などないかをじっくりと確認し、数千円数万円もするカードを手に取って会計に向かう。

 その客の中には、三人よりも年下と思しき少年少女もいた。


「……負けてらんねえ」


 なぜかそれに触発されたかなたはショーケースのカードを買おうと店員を呼んだ。

 

「ちょ、ちょっとちょっと大丈夫ですか!?」


「かなたちゃん!?」


「まあ見てろって」


 心配する二人にニヤリと笑いながら、かなたは来てくれた店員にこなれた風に(初めて買うのになぜか熟練者みたいな面をしたくなるという悲しきオタクの性)(オタクだからというかそれは単に人間性の問題なのでは?)(それはそう)に注文しようとして、


「あの、紫色のカードがあるじゃないですか、そのレバーを引いてるカード、えっと、れ、レッドリ……あ、そうです、700円の、はい。状態? え? あ、大丈夫じゃないですか? え、傷あり? これ傷あるんですか? ま、まあ大丈夫です、オッケーです。ありがとうございます」


 最終的に値段を言う羽目になり、ちょっと恥ずかしい思いをしながらそのカードを受け取った。つかさず二人に見せてピースする。


「やったぜ、私もショーケースデビューだぜ」


「だいぶ緊張してて噛んでたけどね……」


「うるせえやい。このカードだって釘矢君が言ってた周年記念の特別キラのカードなんだぞ、いろんなデッキに汎用的に使えるすっげえつええんだぞ」


「そうなったら俺も買うしかないじゃないですか」


「そこで張り合うの!?」


「いいぞ行け行け!」


 そして倫太郎はかなたが呼んだ店員に再度お願いし、ショーケースを開けてもらった。


「あの、この、ラーのよく……あ、そうです、はい」


 倫太郎は店員から手渡されたカードをまじまじと見て、ひとしきり満足した後に「はい、買います」と店員に伝えた。


「えへへ、このカード、欲しかったんですよね……俺が生まれる前に完結した原作の漫画ですけど、これデザインがかっこよくて……」

 

「うわこれめっちゃかっけえじゃん。イラスト違い? これが500円で買えるのむしろアドじゃね?」


「ありがとうございます……。しかもこれ周年キラで、美品って言ってたのですっごいうれしいなぁ……。原作だと神のカードって謳われたすごいカードで……」


「神のカード……そのカードってすごく強いんだ?」


 何気なく発した雫の言葉に、倫太郎は思わず怯んでしまった。

 

「……まあ、その……なんというか、その……ほかのカードと組み合わせるとすっごく強いんですよ。実際最新のテーマと組み合わせると結構いろんな可能性があって面白くはあるんですけど、でもこのカード単体だけではちょっとむずかしいというか……」


「神のカードなのに……?」


 雫が困惑していると、かなたがずいっと前に出てこう宣った。


「ふん、アタシに言わせてもらうとすると、そのカードは実践レベルなどに達していない、せいぜい観賞用のカードだね」


 つかざず倫太郎が返す。

 

「笑止っ! このカードが観賞用などであるものかっ! 小僧っ! このオレが、戦いの中でこそ輝くカードであることを証明してやるっ!!」


「わはは」


「わはは」


「2人がミームで盛り上がっているのだけは理解したよ」 

 

 満足した後、倫太郎とかなたは初心者向けに発売されたストラクチャーデッキ(かなたは「ロボ! ロボのドラゴンめっちゃかっけええ!!」とロボットをテーマにしたデッキを選び、倫太郎は「こういうときに自分に嘘つかないって決めてたんです。萌えに真摯に向き合いたいと思います」とvtuberをテーマにしたデッキを選び、各々ショーケースから選んだカードを一緒に購入した。

 

 屋上で勝負すんぞ、とかなたはニヤリと倫太郎に笑いかけながら三人はカードショップを出る。


「さ、て! 次は……雫が行きたかったお店に行こうぜ!」


 そうかなたが言うと……雫は突として顔を伏せた。


「……えっと、あ、あの……」


「……飴川さん?」


「あ、いや、な、なんでもないよ!? え、えっとね……わ、私が行きたいのはっ……!」


 そう言って雫が指さした先のお店は――



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