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第11話 アニメで定番の屋上で駄弁るのってなんか憧れるよね

(初めての、友達っ……!)


 あれから倫太郎はかなたと初めてLANEを交換した。親と企業系ライン以外で、初めてトーク欄に”友達”のかなたが増えた。


(とはいっても、そう何回もしつこくLANEするのも嫌われるかな……俺にとっては唯一の友達でも、鈴木さんにとってはたくさんいる友達の中の一人なわけだし……)

 

 そう思っていたのだが、かなたは割と高頻度で倫太郎にLANEを飛ばしていた。


『180連でピックアップ来た 致命傷で済んでよかったぜ』

『ここの編成ってどうすりゃいいの? レグリウス戦勝てねー』

『君が前持ってるって言ってたナース衣装の千席ハリュウの太腿部分だけズームしてスクショした画像送ってくれん?』

『こういう系統の甘やかし系イラスト好きなんだけどなんかこういうの描いてる絵師知ってる?』

『神楽桜やんや抱きしめて癒されてぇ~』

 

 大体がテンセグ関連の話題だったが、その一つ一つが倫太郎にとっては宝物そのものだった。

 返信する文章を考えるのが、とてつもなく楽しい。


(う、うれしいっ……! 友達とLANEするのって、こんな感じなんだっ……!)


 一方のかなたとは言うと、


(オタクの話が分かるのって学校で”あの子”以外いないからなー……オタク話をしたい欲を駄々洩れしてもリアクションくれるのありがてーわ)


 気楽に話題を振って律儀に返事を返してくれる倫太郎とのLANEは、足をパタパタとさせるほどに面白いものだった。

 

 そんなLANEでつながる日々が数日続く。

 

 その間、学校ではと言うと倫太郎とかなたは話す機会はまるでなかった。

 

(本当なら、せっかくできた友達と、昼休みとかっ……駄弁るってやつをやってみたいっ……!)


 倫太郎は友達と言うのに強い憧れがあり、その中の一つである学校での駄弁りがあった。

 LANE上ではない、対面での語らい。

 そんな憧れがあったが、それを叶えられないでいた。


 その原因は、バスケ部顧問の白宮にあった。

 

「釘矢~! バスケ部に入れ~!」

 

「ひぃ……!」


 この学校で長らくバスケ部を指導してきた自称熱血教師の白宮から熱烈に追っかけまわされ、倫太郎は一息つく暇もない。


「はぁ、はぁっ……」


 高い瞬発力と逃げ切る体力をしっかりと持ってしまっている倫太郎ではあったが、その身体能力の高さがむしろ空宮を『十年に一度の逸材だ!』と目を輝かせてしまうからキリがない。

 誰もいない場所に逃げて一人背中を丸めながら座っていては、たとえ友達が居たとしても会話をする暇もなかった。


「白宮先生……何度言っても、スポーツ自体をもうしたくないっていってるのに……聞いてくれない」


 この空宮のせいで、倫太郎は入学してから学校生活で一度たりとも気を休めることができない。

 

「はぁ……俺がスポーツなんて、無理に決まってるのに……」

 

 倫太郎は大きな背中を丸めながら独りごちる。


 一方でかなたもまた、最近悩んでいることがあった。

 

 「アイドルのコスメの特集でこういうのが流行ってて~」「駅前のスイーツショップで新作があって~」「○○と××が前カラオケ店でヤッてて~」


 かなたのクラスにはオタクの女子がおらず、付き合っている友達も実にきゃぴきゃぴしている女子しかいない。

 

 それでも会話は楽しいし、良い友好関係を築けているとは思っているけど、本音の所は(ツイッヒー開いて二次創作イラスト見てぇ、デイリー回してえ)という欲望もこみあげてきている。

 

 クラスの女子との日常会話に飽き飽きしているわけではない。オタクの時間が欲しいのだ。


(とはいえ、一人で隠れてこそこそスマホいじるのもなんだかなぁ……)

 

 そしてさらに言えば……。


 「かなたもほら、化粧したほうがいいって!」

 「化粧品貸してあげるよー、こういうの似合うんじゃないかな!」

 

 女子たちは自分たちよりも小さいかなたを、お人形のように可愛く彩りたいという欲求をこらえきれないでいた。

  

(化粧したら盛れるの分かってるけど学校で毎日とかだるいからしないだけなんだよなぁ。コスプレ喫茶に行くときはもりもりするけど)

 

「いいってばー、もう。しつこいんだから全く」


 そう言ってスルーしようとするが、


「でもでも、絶対似合うって! 私に化粧させてさせて!」

「あんたがもってるのはかなたの肌の色に合わないでしょ。本当にあうのはこっちよ!」


 日に日にその圧が強まっていくようで戦々恐々としている。

 

 と言う訳でかなたは、少し落ち着いてオタクを満喫できる場所はないものかと悩んでいた。


 ◇◇◇

 

 そんなある日の昼休みのこと。

 

「お。おいっすー」

 

 かなたは廊下で倫太郎に出会った。


 倫太郎は、


「あ、あっ」


 と、しどろもどろになっている。

 近くに他生徒が見えないのが幸いだが、背の小さいかなたと二人でいるところを誰かに見られたら『鈴木さんが危ない!』とか言われかねない……そう思っている倫太郎は、周りを気にしながらおどおどとしていた。


「ええと、その……こ、こんにちは……」


「こんにちはー」


 倫太郎のぎこちない挨拶に冗談半分でぺこりと頭を下げた。

  

「あ、ど、どうも……」


 つられて倫太郎も頭を下げる。


「いやなにしてんのさ」


 わはは、とかなたは面白くて笑うが、倫太郎は友達というのがいつまでたっても新鮮で慣れないのか距離感をつかめず、笑顔もどこかぎこちない。


「そういえばさ、なんかLANE交換したのはいいけど一方的な私のガチャ自慢報告とか萌え萌えイラストのポストを共有するだけになってるけどいいのかい」

 

「あ、い、いや、それは、全然……」


 倫太郎はくしゃっと顔をゆがめて、不器用な笑顔を見せた。


「友達とLANEするのって、こんなに楽しんだなって、思えて……へへ」


「あらそうかい」


 かなたは(あー、そんな直球なこと言われると妙に恥ずかしいな)と頭を掻く。

 

「で、またバスケ部の顧問に追いかけられているの?」


 倫太郎は少し汗ばんでいる。恐らく今日も逃げ回っているのだろう。

 

「そ、そうですね……」

 

「まったくあのクソ教師は……。しっかし、昼休みだというのに安らぐ場所がないというのも考え物だなぁ。こう言う時アニメや漫画だと屋上に行くのが定番だが……」


「うちの学校、屋上勝手に入れないですからね」

 

 頷きながらかなたはふと、廊下の窓から見える体育館を見た。


(……そういえば体育館の裏って……校舎から見えないんだな……)


 そして、裏にある倉庫のことを思い出した。


(確かあそこに前、上級生がやらかしたとかなんとかいってた倉庫あったよな……)


「あっ」


 かなたは思いついた。学校で安らぎの場を生み出す方法を。

 

「よし、今から私についてきな」

 

 そしてかなたは突然どこかへと歩きだしていった。

 

「え、え!? ど、どこに行くんですか?」


「ふふ、それはなっ……」


 振り返ってかなたは、幼いいたずらっ子のように目を丸くして見せた。


「この学校で誰にも見つからない場所に行くんだ」


 そして、かなたは倫太郎を見て細い眉を上げる。

 頭の中で思いついたものを今すぐにでも倫太郎に見せびらかしたいのか、人懐っこく頬を緩ませてた。


「君のような人間がいないと成り立たない、とびっきりの方法!」


 そしてくるんと前を向きなおし、ぶんぶんと元気よく腕を振って鼻息交じりに歩き出す。


「とびっきりの……」


 その言葉につられるように、倫太郎はかなたの背中を追いかけた。

 

 二人は校舎を抜け、少し歩いて……体育館にたどり着く。

 

「これならきっと、あの顧問にも見つからないはず」


 人気は確かに少ないと言えば少ないが、体育館の中では運動部の自主練などで人の目はある。

 

「鈴木さん、あの……」


「こっち、こっち」

 

 かなたは体育館を通り過ぎて、その裏へと向かう。

 そこは体育祭などで使うテントを保管するプレハブ倉庫があり、確かに人気はない。

 

 だが、それでも誰かが近くに来る可能性もある。自主練を見に来たバスケ部の顧問が通り過ぎることだってあり得るだろう。


(結局、誰かに見つかってしまうんじゃ……)

 

 するとかなたは、人差し指を上に指した。


「ここ」


「……え?」


 指さした先は、2メートルほどはあるプレハブの、屋上だった。


「えぇ!?」



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