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平日のお昼時を過ぎてもドトールコーヒーは混雑していて、カウンター席には暇そうにスマホを眺めるサラリーマンや中国人の家族などが座っていた。
一番端を陣取ってアイスコーヒーとノートパソコンを置く。SPI対策のサイトが開くまでの間、所在なく通りを眺めた。
新宿に来るのは久しぶりだ。最後に来たのがいつで、何の用事があったのかも覚えていない。
変わらないのは漠然とした嫌悪感だった。ビジネスマンも、学生も、外国人旅行客も、誰もが忙しなく歩いている。ゆとりがないのを肩書にして自分を強く大きく見せている。
その雰囲気に圧されて寄り付かなくなった街だが、合同企業説明会が開かれるので来ざるを得なかった。慣れないスーツ、革靴、ビジネスバッグ。ゴールデンウイークが過ぎた5月は就活が盛んだ。
アイスコーヒーに挿したストローでさえ、パキッとした嫌な感触がした。
ドトールのWi-Fiが重いのかサイトが混雑しているのか、演習は中々画面に表示されない。
マウスポインターが円の形をしてグルグルと更新しているが、ブラウザはドッと柄の背景ばかり映した。
ふと顔を上げると、歩道にミニスカートを履いた白い肌の女がいた。年齢は僕と同じくらい。ジロジロ見てはいけないと思いつつ、ひと際目を引く美貌を凝視してしまう。
肩まで伸びた髪は黒いが、耳の辺りは赤のインナーカラーを入れている。肌は白く柔らかで、目尻に惹かれたブラウンのアイラインが緩く湾曲していた。涙袋の大きな垂れ目と紅い唇が儚いものの、ファスナーを閉め切った黒いパーカーが、シンプルで洗練された印象を与える。
何より目を引くのが、ロリポップのミニスカートから伸びる肢の、しなやかな白さ。ほんの少し突いただけでミルクゼリーのように深く沈み込んでしまうのが、目に浮かんだ。
彼女はガードレールに体を預けて、無愛想にスマホを眺めている。ただ表情がないだけのそれは、涼し気な目元のせいで泣き出そうにも見えた。常に自分の弱さを見せている――正確には、自分を弱そうに見せているのだと思った。
やがてカーキのブルゾンを着た中年の男が、彼女に近寄って声を掛けた。一言二言のやり取りを経て、揃って歌舞伎町方面へ歩いて行った。
僕はガッカリしてパソコンに目を戻した。画面はSPIの演習問題を表示していた。