第2話
「%#$@^!!」
騒がしい声に目を覚ました。
眠りから覚めた長耳の少女が、弓を握りしめ驚いた様子で立っていた。
昨日確かに折れていたはずの弓が、綺麗に修復されているではないか。
そして彼女自身も、ぐちゃぐちゃだった顔や服がまるで新品のように回復していた。
何より、くすんでいたはずの深緑の瞳が、まるでエメラルドの宝石のように輝いている。
「レベルが上がりました」
そんな声が、私の中に響いた。
もしかして、会話ができるのか?
「可能です」
おお、これは新たな発見だ。
そこで、今の状況について説明を求めた。
「あなたのスキル:熟睡超回復(LV.1)により、女性エルフの状態および武具の回復を完了しました」
やはり、彼女はエルフだったのか。
長耳の少女ではなく、エルフと呼ぶべきだな。
さらに詳しく説明を求めた。
「熟睡超回復(LV.1)は、あなたの上で休んだ者の全ての状態異常を回復し、強化を促すスキルです」
なるほど。
つまり、私はベッドとして超優秀な性能を発揮しているということだ。
「#&^$#!@#@!!」
だが問題は、エルフの言葉が理解できないことだ。
何を言っているのか知りたい。
声にスキル推薦をお願いしてみた。
「レベルアップで得たポイントを使用し、スキル:万物理解(LV.1)を開発します」
なんだかよくわからないが、新しいスキルを手に入れた。
これでエルフの言葉が理解できるはずだ。
しかし、エルフはすでにどこかへ行ってしまっていた。
レベルアップに浮かれてあれこれ考えている間に、彼女は去ったようだ。
ちくしょう、これじゃスキルを取った意味がない。
仕方なく、また自分の状態を確認することにした。
昨日よりも見られる情報が増えている。
「名前:(なし) / レベル:10 / 職業:ベッド」
……名前がない。
誰にでも名前はあるはずなのに。
だが、自分の名前を思い出せない。
確かにあったはずなのに、記憶にない。
声に尋ねた。
「あなたの名前は後で決定されます」
後でって、どういうことだ?
詳しく聞こうとしたが、答えは返ってこなかった。
もし皮膚があったら鳥肌が立っていたかもしれない。
仕方ない、次を見よう。
「体力:10,000 / 10,000 魔力:10,000 / 10,000」
体力と魔力がある。
人間でもないベッドに、体力と魔力が?
……考えるのはやめよう。精神衛生上よくない。
次に進む。
「使用可能魔法:熟睡歓迎(LV.1) / 保有スキル:熟睡超回復(LV.1)、万物理解(LV.1)」
ようやく理解できる情報が出てきた。
昨日、熟睡幻影という魔法を使った後、疲れたエルフがやって来た。
つまり、この魔法は疲れた者をベッドに誘うものだろう。
声に確認した。
「その通りです。熟睡幻影(LV.1)は、一定範囲内の状態異常を持つ生物を引き寄せる魔法です」
なるほど、理解した。
熟睡超回復は、上に寝た者を完全回復させる能力。
では万物理解も使ってみたいが、また魔法を使う必要があるのか?
そんなことを考えているときだった。
「ここ、ここにいます!」
おお、あのエルフの声だ。
これで万物理解のスキルがちゃんと機能していると確認できた。
しかも、昨日のエルフ以外にも他のエルフたちが見える。
杖を持った年配のエルフ、筋肉質なエルフ、壊れた眼鏡をかけたエルフ。
全員女性だ。
「これが例の不思議な寝床か?」
「はい、祖母様。寝て起きたら体も弓も元通りでした」
「なぜこんなものが我らの森に……」
「これがあれば、村の負傷者を回復させることができます!」
杖をついたエルフが、昨日のエルフ――エルゼリアと呼ばれる少女と会話している。
……いや、ちょっと待て。
不思議な寝床って、私はただのベッドだぞ。
「村長様、エルゼリアの言葉を信じてみませんか?」
「そうだ。もう治療薬も他の手段も尽きた」
「ふむ……」
昨日来たエルフの名前はエルゼリアか。
村長はどうやら私を信用しきれない様子だ。
よし、ここで熟睡幻影を使って信頼を得よう。
「警告:熟睡歓迎(LV.1)を使用すると生命に危険が生じます。使用しますか?」
……な、なんだって?