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第1話


そして意識が戻った。


周囲には針葉樹のような大きな木々がびっしりと生い茂っており、ここが森の中であることを教えてくれた。

太陽の光が私の周りを照らしており、昼間であることもわかる。


あちらこちらに見たことのない植物が乱雑に生えている。

そして私は、その植物たちを枕代わりにして大の字に寝転がっていた。


しかし、体が動かない。なぜだ?

手も足も、指先も足先も、どこも動かない。

声も出ない。焦りが募る。


そして、気づいてしまった。


私は今、ベッドになっていたのだ。


何もしたくないという願いを神様が聞き入れてくれたのかもしれないが、

少し変な方向で叶えられたようだ。


危ない、このまま放置されたらどうなるんだ。

森の中に放置されたベッドなんて、どう見ても廃棄物にしか見えない。


考えを整理するため、まずは自分の状態を確認してみることにした。


目の位置からして、ベッドのヘッドボードの中央にあるらしい。

フレームは高級そうな木製で、

マットレスはふかふかの高級素材のようだ。

きれいな真っ白な枕と布団がセットになっている。

サイズはシングルベッドくらいだろう。


行ったことはないが、最高級ホテルにありそうなベッドだ。

こんなベッドで寝たら誰でも熟睡できるに違いない。


腹は減っていない。

服を着る必要もないが、眠気だけはある。

ベッドが眠るなんて、冗談にもほどがある。


それでも、私にできることはわかっている。

眠ることはできる。

とりあえず誰かが来るまで、のんびりと眠りながら待つことにしよう。


「マナが満タンになりました」


どれだけ眠りながら待っただろうか。

ふと、私に声が聞こえてきた。

マナ?よくゲームや漫画で魔法を使うためのアレか?

でもベッドがマナを持っていても意味がない。


魔法を使う家具なんて、ディ○ニーくらいにしか出てこないだろう。


しかし、新しい状況だ。ここでできることを試してみるべきだ。


「使用可能魔法:熟睡歓迎(LV.1)」


集中すると、目の前にゲームに出てきそうな半透明の青いステータス画面が浮かび上がった。

全体を見ることはできなかったが、使用可能な魔法だけは確認できた。

ん?熟睡歓迎?


魔法といえばファイアボールとかアイスストームとかライトニングボルトみたいなのが普通じゃないのか。

いや、そんな魔法を使うベッドだったら誰も寝たがらないだろう。

むしろ寝ている間に焼かれたり凍えたりして死ぬ心配をすることになる。不良品だ。


少し集中すると、ステータス画面の矢印を動かして選択できるようだった。

まだ見られる項目は限られているようだが、とりあえず使ってみた。


体からかすかに光がきらめいた感覚があった。

しかし、他に大きな変化はなかった。


そのときだった。


近くの茂みが大きな音を立て、何かが飛び出してきた。

人だった。

金髪で耳が長く尖っており、高級そうな緑色の服を着た女性に見える。


人間か?それともファンタジーでよく出てくるエルフか?

今の私には判断できないが、とりあえず長耳の女としておこう。


長耳の女はあちこち傷だらけで、荒い息をしている。

手に持った弓も折れているようだ。どこかで激しい戦いをしてきたらしい。

そして、目と目が合った。


ああ、わかる。

その目は、何日もまともに眠れず疲れ果てた目だ。

エメラルド色の瞳が濁り、今にも崩れそうだった。


彼女は何かに引き寄せられるように私に飛び込んできた。

そして布団をかぶり、弓を抱きしめたまま気を失うように眠り込んだ。


驚きながらも、悪くない気分だった。

むしろ、役に立てた気がして嬉しかった。


私はベッド、元いた世界とは違う場所で生きるベッドだ。

ならば、余計なことは考えず、ベッドとしての役目を果たそう。

何よりも、今は不安も不便もない。以前よりずっとマシだ。


彼女のいびきとともに、森の夜は深まっていく。


私もそれに合わせて、静かに眠りについた。


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