第9話
ベルゲと彼の仲間たちは、楽しそうに笑っていた。
「ありがとうな。そうだな……死んだ仲間たちは皆、100年以上を共に過ごした奴らだった。全員で戻れたら良かったのにな……」
ベルゲはうつむき、わずかに肩を震わせた。
なるほど、彼は長年の友を失い、命からがら戻ってきたところだったのか。
そして、私の声が重さに耐えきれず漏れ出し、それを魔物の襲来と勘違いして錯乱した……。
ベルゲも、彼の9人の仲間たちも。
(……そうか。俺も君に少し意地悪したようだ。謝ろう。いや、待てよ、君はエルゼリアにもキツく当たっていたじゃないか?)
「村長の座ってのは、重い責任なんだ。最近、ばあ様が一番やっていること、知ってるか?」
(いや、知らない)
「魔物にやられた死体の収容さ。ほかにも山ほどやることがある。
若くて未熟なエルゼにその重荷を背負わせるわけにはいかない。
だから、俺が代わりに背負おうと思ってた」
(だから彼女にあんな冷たい態度を取ったのか)
「エルゼはエルゼなりに力になろうとしてる。だが、いとことしては、あんな無茶はやめてほしかったんだ。
あの日も、精霊樹に一人で近づいて失敗していたからな」
なるほど、そういう事情だったのか。
(ところで、エルゼリアってそんなに若いの?何歳?)
「ははは……それは村に戻ったら本人に聞け」
(戻る?どういう意味だ?)
突然、荷車が止まった。
ベルゲの目が炎のように燃え上がり、唸るように言った。
「俺はもう一度、精霊樹へ行くつもりだ。今度こそ決着をつける」
どうやら、村長がベルゲと彼の仲間たちを運搬役に選んだのではなく、彼らが自ら志願したらしい。
友の仇を討つために──かっこいいじゃないか。
(俺の話、信じてるのか?ハッタリだと思わないのか?)
「たとえハッタリでも、信じたいんだ。……力を貸してくれ」
最初は嫌な筋肉野郎だと思っていたが、案外悪い奴ではないのかもしれない。
ただの近所の兄ちゃんタイプかもしれない。……まあ、今は助けてやりたい気分だ。
(よし、ベルゲ、それとみんな、そのまま動かずに)
私は絶対空間を展開した。
魔法の気配を感じたのか、彼らはビクリと肩を震わせた。
緊張しながら、それぞれ弓や槍、斧を手に取る。
「な、なんだ? 何が起きるんだ?」
(遠くから、獣の足音が複数、ものすごい勢いで近づいてきてる)
「そんな……俺たちには聞こえなかったぞ」
(だからこそ、“遠くから” “速く” 近づいてるってことさ)
万物理解の能力は、先ほどからその足音をキャッチしていた。
最初はこだまのように微かだったが、徐々にボリュームを上げるように大きくなっていた。
その瞬間、黒い影がいくつも飛び込んできた。
キィィン、と金属音が鳴り響き、動きは止まった。
よく見ると、それは黒い狼のような魔物たちだった。
私たちを円形に囲み、噛みつこうと襲いかかっていたのだ。
もちろん、「絶対空間」によってすべては無効化された。
だが、中から外への攻撃は通る。
「こ、こいつら……魔物か!」
(ベルゲ、さっきの答え、これが俺の返事だ。今こそ攻撃を)
「……ああ、感謝する!」
ベルゲの咆哮とともに、仲間たちの怒りがこもった大剣が魔物たちを次々に切り裂いていく。
四散した魔物を前に、誰一人傷を負わずに勝利したことに興奮したベルゲは、荒い息を整え、天へ向かって槍を突き上げて叫んだ。
「聞いているか、精霊樹よ! 友と仲間のために、俺はもう一度向かうぞ!」
「うおおおおおお!!」
仲間たちも空へ向かって咆哮した。
……こいつら、本当にエルフか?何か別の種族に見えてきたぞ。
ま、いいか。
こうして、私とベルゲ、そして9人の仲間たちは、汚染された精霊樹を浄化するための旅へと踏み出したのだった。




