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第59話世界は、救済を望んでいない

第59話:世界は、救済を望んでいない

 世界の声が消えたあとも、王都の空気は張りつめたままだった。

 まるで――裁定が下される直前の法廷のように。

「……今のってさ」  クロウが、いつになく静かな声で言う。 「世界と、話した……んだよな?」

 誰も否定できなかった。

 エリスは唇を噛みしめ、震える指で禁書庫の床に刻まれた魔法陣をなぞる。 「……最悪の形ね。

 “世界の意思”が目覚めたってことは……」

「ことは?」

 俺が問い返すと、エリスははっきり言った。

「この世界は、もう“誰かに救われる段階”を終えている」

 ——その言葉は、刃だった。

「どういう意味だよ」  クロウの声が荒くなる。 「世界がヤバいから、俺たちが戦ってきたんだろ?」

「違うの」  エリスは首を振る。 「世界はね……滅びない。

 どんな犠牲を払っても、自分だけは残る」

 静寂。

「封印獣が暴走しようが、国が滅びようが、人が死のうが……

 世界は“続く”。

 それが、この裁定記録の本質よ」

 エリスは、最後の頁を開いた。

『世界は救済を必要としない』

『必要なのは、調整のみである』

 セレスの呼吸が止まった。

「……じゃあ」  彼女の声は、驚くほど冷静だった。 「私は……世界を救う存在じゃない?」

 エリスは、ゆっくり頷く。

「あなたはね、セレス。

 世界を壊さないための装置よ」

 その瞬間、禁書庫が――悲鳴を上げた。

 床の魔法陣が一斉に発光し、天井から光が降り注ぐ。  視界が白に染まり、俺は反射的にセレスを抱き寄せた。

『確認する』

 再び、世界の声。

『歌は世界と同化可能』 『楔は存在を放棄可能』

 ——放棄?

『条件を満たした場合、

 楔は歴史・記録・因果から抹消される』

 クロウが叫ぶ。 「ふざけんな!!

 それ、死ぬとかそういう話じゃねぇだろ!!」

 エリスの顔が、青ざめる。 「……違うわ。もっと酷い」

 彼女は、絞り出すように言った。

「最初から、存在しなかったことになる」

 世界は、淡々と続ける。

『誰にも忘れられず、

 誰にも覚えられず、

 影響のみを残し、消える』

 ——英雄ですらない。

 犠牲ですらない。

 ただの欠落。

 セレスの身体が、震えだした。 「……そんなの……

 そんなの、私が歌う意味、ない……!」

 俺は、彼女の額に額を当てた。

「ある」

「……え?」

「世界を救うためじゃない」  俺は、はっきり言った。 「お前が、お前として生きるためだ」

 その言葉に、世界が――沈黙した。

 ほんの一瞬。  だが、確かに。

『……確認不能』

 世界の声が、わずかに揺らぐ。

 エリスが、息を呑む。 「……今の……

 世界が、迷った……?」

 セレスは、涙を拭い、歌わなかった。  代わりに、はっきりと言った。

「私は、装置じゃない」

 その瞬間、禁書庫の奥――

 封印獣の気配が、はっきりと目を覚ました。

『ならば問う』

 世界が告げる。

『“世界を救わぬ選択”を、お前は取れるか?』

 ——ここで、物語は引き返せなくなった。

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