第58話世界との対話
第58話:世界との対話
王都に静寂が戻った――かのように見えた瞬間、空気が再び震えた。
しかし今回は、黒い影ではない。
微かな囁きのような声が、頭の奥に直接響く。
「……お前たちが、楔か……」
声は耳元ではなく、心そのものに届いた。
クロウもエリスも、息を止めてその存在を感じ取る。
セレスは顔色を変えず、むしろ凛と立っていた。
「……世界……?」
その声に、セレスが小さく口を開く。
「……私、聞こえてる。あなたが……世界?」
応える声は冷たく、しかし確かに意思を持つ。
『そうだ。お前の歌、存在……全て、計算外。だがそれが、この世界の秩序に影響を及ぼす』
俺は背筋が凍った。
——計算外。
世界は、俺たち二人を必要としながらも、同時に“不要”として扱う。
『楔としての役目は理解したか』
声は問いかける。
セレスは微かに頷く。
「……はい。私が歌い、守る。その代わり、私は世界に選ばれない」
沈黙。
その瞬間、空間が光で満たされ、セレスの歌が世界の意思に触れる。
低く、深く、全てを包み込むような振動が、王都の建物、街の人々、そして俺たちの心に届いた。
『……なるほど、理解した。だが、真の試練はこれからだ』
世界の声は淡々としていたが、微かに重苦しい。
『守る者は、世界に選ばれぬが、世界を変える可能性を持つ』
その言葉の意味が、脳裏で反響する。
——つまり、俺たちは世界を壊す力を持ちながら、壊さずに守る義務を負うのだ。
クロウもエリスも、その重圧に息を詰める。
セレスは瞳を閉じ、深く息を吸った。
「……怖い。でも……私、やる」
その声に、世界が微かに反応する。
——振動音が一瞬止まり、次に鋭く、空間を切り裂くように走った。
『……よかろう。次は、行動で示せ』
世界は、問いを投げかける。
セレスの歌に続き、俺は剣を握る。
クロウは闇の中で構え、エリスは魔力を整える。
この瞬間、王都の全てが楔の力に反応している。
人々は無意識に楔の周りに集まり、恐怖よりも安心を感じていた。
——世界は、俺たちを認めた。だが同時に、これからの選択が全てを決める。
セレスは俺の腕を握り、静かに囁く。
「……私、行くわよ。全部、知るために」
俺は頷き、共に歩む覚悟を決める。
楔として、守る者として——世界の意思と対峙する戦いは、ここから始まる。




