第57話楔の力と王都の震え
第57話:楔の力と王都の震え
王都の石畳が、微かに震え始めた。
街の人々は空を見上げ、恐怖と驚愕の入り混じった声を上げる。
「……な、何が起きてるんだ?」
市民の一人が叫ぶ。建物の軋む音、風に混ざる低い振動——それは単なる魔法や自然現象ではない、存在そのものの力だった。
俺とセレスは、王都の中央に立つ広場で肩を並べている。
セレスの胸から放たれる歌の振動は、空気を揺らし、建物や人々の心に直接響いていた。
——楔としての力が、世界に反応している。
クロウが警戒の構えを取りつつも、息を呑む。
「……すげぇ……存在感が半端じゃねぇ」
彼の目の前で、空気が光を帯び、微細な波紋が街全体に広がる。
エリスも書物を掲げ、解析を続ける。
「……これは楔の力……。歌と意志が合わさった瞬間、物理と魔法を超えた干渉が起きている」
言葉の意味を理解した瞬間、俺は背筋が凍った。
——世界が、俺たちを“計算外”として認める証拠だ。
その時、民衆の中でざわめきが広がる。
小さな子供たちが笑い、泣き、恐怖に震え、そして光に目を奪われる。
セレスの歌は、感情に触れ、世界のバランスを微かに変えていた。
「……信じられない」
クロウが小声で呟く。
「これ……俺たちが楔になってるってことか?」
エリスはうなずく。
「楔……世界が災厄として認識する存在を支える者。あなたたち二人がその役割を担っている」
セレスは胸に手を当て、震える指で俺の腕を握った。
「……怖い。でも、私たちなら……」
その声には、恐怖よりも決意が勝っていた。
突然、地面の亀裂から、黒い影が無数に立ち上がる。
世界の意思の具現——災厄の端末とも言える存在だ。
それらは楔の力に反応し、セレスの歌と俺の存在を目標に動き出す。
「来る……準備しろ!」
クロウが叫ぶ。
俺も剣を握り、セレスの歌に合わせて意識を集中する。
空間そのものが揺れ、王都の空気はまるで嵐の中にいるようだった。
——しかし、何より衝撃的だったのは、民衆の反応だった。
彼らは恐怖で逃げるのではなく、自然と楔の力の周りに集まる。
歌の振動に合わせ、心の奥底で安心感を感じ、目を輝かせる。
世界は、楔としての存在を“認めた”のだ。
セレスの歌が最高潮に達した瞬間、王都全体に柔らかな光が広がる。
黒い影は消え、亀裂は閉じ、街の人々は安堵の表情を浮かべた。
だが、俺たちは知っていた——これはほんの序章に過ぎない。
楔としての役割は、まだ終わっていない。
世界は次の裁定を静かに、しかし確実に準備している。
俺はセレスの肩に手を置き、静かに言った。
「……ここからだ。俺たちの戦いは、まだ始まったばかりだ」
セレスは小さく頷き、胸の奥で歌を整える。
楔として、守る者として——二人で立ち向かう覚悟を、世界に示した瞬間だった。




