第56話世界の裁定と楔の覚悟
第56話:世界の裁定と楔の覚悟
王都の空に浮かぶ光の魔法陣は、今や街全体を覆うほどに広がっていた。
地面の振動、歪む建物、人々の恐怖の叫び——それら全てが、世界の意思の反応だった。
「……まだ序章にすぎない」
エリスの声が冷たく響く。
だが、誰もそれを止められなかった。
圧倒的な力——世界そのものが、俺たちを“楔”として試している。
セレスは震える唇を噛みしめ、胸に手を当てて歌う。
その歌は、音の振動として空間に広がり、光の魔法陣に直接触れているかのようだった。
彼女の歌声に応えるように、俺も力を集中し、存在を世界にぶつける——まるで抗う楔のように。
その時——空間の裂け目から、暗い影が一つ飛び出した。
人の形をしているが、顔はなく、黒い渦のような存在。
それは低く唸り、俺たちを見据えた。
「……これが、世界の裁定者か」
クロウが剣を握り直す。
だが、攻撃は届かない。影は物理ではなく、存在そのものを揺るがす力を持っていた。
エリスが魔法陣を描き、攻撃呪文を放つが、影はそれを受け流す。
——世界の意思は、ただ観察しているのだ。
「セレス……俺たちの存在は、これで世界に認められるのか?」
問いかける俺に、セレスは静かに微笑む。
「……私たちの歌で、楔であることを証明する。例え世界に必要とされなくても……」
その瞬間、影が二人を包む光に触れ、ゆっくりと形を変え始めた。
光に反応するのは、セレスの歌と俺の存在だけ。
世界は初めて、俺たちの意志を認めた——だが同時に、消去か封印かの選択も迫っていた。
「……覚悟しろ」
クロウが叫ぶ。
だが、俺たちはもう恐れない。
楔としての運命を受け入れ、世界に挑む覚悟を固めていた。
セレスの歌が最高潮に達し、光が王都全体を貫く。
その光の中で、世界の意思の影は縮み、そして——一瞬だけ沈黙した。
全てが静まり返る。
人々はまだ状況を理解できない。
だが、確かに世界が答えを見つけつつある——楔としての俺たちを認めた瞬間だ。
セレスは胸の奥で何かを感じ、目を閉じる。
俺も、初めて自分が世界の一部であることを実感した——だが、それは同時に、終わりのない戦いの始まりでもあった。
——世界は、まだ試している。
俺たちが楔として、守る者として、どこまで耐えられるか。
禁書庫の闇も王都の空も、静かにその答えを待っていた。




