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第55話王都に迫る秩序の崩壊

第55話:王都に迫る秩序の崩壊

 禁書庫の奥で起きた揺らぎは、やがて外の世界にも波紋を広げた。

 王都の石畳が微かに震え、人々の視線が空をさまよう。

 何も起きていないように見えて——街全体が息を潜めている。

「……これは……?」

 エリスの声は震えていた。

 窓の外を見ると、空気が歪み、淡く光る魔法陣のような模様が空中に浮かんでいる。

「禁書庫の影響が、もう外に出てる……」

 クロウが剣を握り直す。

 地面を揺らす振動、空に現れる光——秩序そのものが世界に問いかけている。

 セレスは胸に手を当て、震えながらも歌い始める。

 その声は小さいが、確かに魔力を纏い、世界の秩序に抗う波を作った。

 光の渦が王都を包む。建物の影が歪み、空気が振動する。

 市民たちは恐怖で立ちすくむ——だがその一方で、目に見えない力が守っている感覚もあった。

「……信じられない……歌が、直接、世界に影響を……」

 エリスが息を呑む。

 クロウも警戒しつつ、目の前で起きる現象に言葉を失った。

 禁書庫で目覚めた“世界の意思”は、今や王都に直接反応していた。

 それは、まるで世界が主人公とセレスの存在を試すかのようだ。

「……俺たち、完全に世界に注目されてるな」

 俺はそう呟き、セレスの手を握り直す。

 彼女は小さく頷き、恐怖を押し殺すように歌う。

 その歌声が、振動する光と空間の歪みを押し返す——まるで秩序そのものに楔を打ち込むかのようだ。

 その瞬間、空間が裂け、禁書庫からの影が王都の上空に巨大な姿を現した。

 人間とも獣ともつかぬ、圧倒的な存在——まさに“世界の意思の化身”だ。

「……これが、世界の本体……!」

 クロウが剣を構えるが、身が震えて動けない。

 エリスは魔力を整え、全力で防御の呪文を唱えた。

 だが、セレスと俺の歌と存在だけが、その圧倒的な力に抗えることがわかった。

 世界は、もはや英雄や王ではなく、“不要な楔”である俺たちに注目している。

 王都の人々には理解できない現象だ。

 空に光る魔法陣、建物の揺れ、そして背後で微かに聞こえる、世界の意志の低い声——

 ——全てが、俺たち二人を試している。

 セレスは目を閉じ、歌声をさらに力強く紡ぐ。

 その歌が、世界そのものを揺るがせ、押し返し、そして……答えを求めている。

 俺は胸の奥が締め付けられるのを感じた。

 ——この世界が、俺たちの存在を認めるか、消し去るか。

 その答えは、まだ出ていない。

 だが確実に言えることがあった——世界が初めて、俺たちを恐れた瞬間だ。

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