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第54話秩序崩壊と二人の存在

第54話:秩序崩壊と二人の存在

 禁書庫の奥で、空間がうねるように歪んだ。

 巻物は空中で絡み合い、魔法陣の光が不規則に閃く。

 まるで、世界そのものが呼吸を忘れたかのようだ。

 俺はセレスの肩を抱きしめ、必死で安定させる。

 しかし背中には、無数の視線が押し寄せる感覚があった。

 世界の意思が、俺たちを監視し、裁こうとしている。

「……こんなの、現実じゃない……」  クロウの声は震えていた。

 だが、セレスの歌は止まらない。

 振動が空間を裂き、秩序を押し返すように広がっていく。

 書物の文字が崩れ、魔法陣が形を変え、禁書庫そのものが揺れる。

 そのとき、光の中から、影のような存在が浮かび上がった。

 巨大で、人間とも獣ともつかない姿——まさに“世界の意思”そのものの化身だった。

「……これが……世界……!?」

 エリスは息を飲む。

 クロウは剣を構えるが、躊躇している。

 その影が低く響く声で告げた。

『……秩序を乱す者……存在を許さぬ……』

 だが、セレスは歌を止めない。

 拒絶の歌が、影を包むように広がる。

 そして――

 影が揺らぎ、後退した。

「……なんだ、これ……!?」

 俺も驚きを隠せない。

 セレスの歌は、世界そのものの意思に**“押し返す力”**を与えていたのだ。

 ただの人間の歌——いや、災厄の歌は、世界の計算を拒否する力を持っていた。

「……私……歌で、世界に抗えるの……?」

 セレスの瞳は、恐怖と希望が混ざった光を放つ。

 俺は微笑み、彼女の手を握る。

「抗える。お前が、ここにいる限り」

 だが影は完全に消えたわけではない。

 世界の意思はまだ、秩序を取り戻そうと押し寄せてくる。

「……これが、最終試験みたいなもんか」  クロウがつぶやく。

 エリスも眉をひそめ、慎重に言った。

「……いや、これは試練じゃない。世界が直接動いたのよ。二人の存在を試すのではなく、排除しようとしているの」

 禁書庫全体が、微かに軋み、不安定な光に満ちている。

 俺たちはまだ、腰を抜かすほどの真実の入り口に立っている——

 しかし、この瞬間、セレスと俺の意志が世界そのものに小さな揺らぎを生み出したのは確かだった。

 ——そして、次の瞬間、禁書庫の奥からさらなる衝撃が襲いかかる予感がした。

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