第48話禁書庫に刻まれた「不要な英雄」
第48話:禁書庫に刻まれた「不要な英雄」
禁書庫の奥は、外とは切り離された別世界だった。
壁一面に並ぶ書架は天井まで届き、そこに収められた書物の一冊一冊が、まるで呼吸するように微かな魔力を放っている。
——ここは知識の墓場だ。
俺は、そんな感覚を覚えた。
「……嫌な感じね」
エリスが小さく呟く。
クロウも無言のまま、剣から手を離さない。
セレスは、さっき触れた書物から少し距離を取って立っていた。
顔色は青白いが、目だけは妙に澄んでいる。
「……ここ、私のこと……知ってる」
「どういう意味だ?」
問いかけると、セレスは首を振った。
「わからない。でも……呼ばれてる気がするの」
エリスが別の書架から、一冊の分厚い書物を引き抜いた。
表紙には文字ではなく、**“音階のような紋様”**が刻まれている。
「これは……封印史書。しかも、かなり古い」
彼女は慎重に頁をめくった。
そこに記されていた一文を、エリスは声に出して読んだ。
『世界が滅びに向かう時、
祈りは歌となり、
歌はやがて、世界そのものとなる』
——空気が、凍った。
「……歌が、世界?」
クロウが低く呟く。
エリスの指が、さらに頁を進める。
『それは獣にして人、
人にして災厄。
名を与えれば世界は崩れ、
名を奪えば世界は保たれる』
セレスの身体が、びくりと震えた。
「……やめて」
思わず、俺は声を上げた。
「それ以上読むな」
だが、エリスは止まらない。
次の頁、その下段に——まるで注釈のように、小さな文字があった。
『この存在を“守る者”は、
世界に必要とされない』
——その瞬間。
胸の奥が、ぞくりと冷えた。
「……は?」
クロウが声を荒げる。
「どういう意味だ、それ」
エリスは、ゆっくりと顔を上げた。
「英雄は、世界に選ばれる存在よ。
でもこれは……違う」
彼女は、はっきりと言った。
「この記述では、“守る者”は世界の計算に含まれていない」
——俺のことだ。
言葉にしなくても、全員がそう理解していた。
セレスが俺を見る。
不安と、恐怖と、そして——申し訳なさが混じった目で。
「……私のせい?」
「違う」
即座に答えた。
「お前のせいじゃない」
だが、否定できない事実があった。
世界は、俺を必要としていない。
それでも——
セレスが、俺の袖を掴んだ。
「……それでも、来てくれる?」
その問いは、祈りだった。
俺は、迷わず頷いた。
「当たり前だろ」
その瞬間、禁書庫全体が微かに軋み、
奥の方から、低く、重い振動音が響いた。
まるで——
“何か”が、目を覚ましかけているように。
エリスが呟く。
「……まだ全部じゃない。
真実は、もっと奥にある」
セレスは、胸に手を当て、小さく息を吐いた。
「……私、知りたい。
全部」
それが、世界を壊す答えだとしても。
禁書庫の闇は、静かにそれを待っていた
モチベ回復




