第46話王都の影と不穏な視線
第46話:王都の影と不穏な視線
王都ルメリアの石畳を歩く俺たちの背後で、遠く鐘の音が響く。朝の光が城壁の隙間を照らし、人々の影が長く伸びていた。人混みの中、セレスの肩はわずかに震え、心臓の高鳴りが伝わってくる。
「……やっぱり、人が多すぎる……」
小声で呟くセレス。俺はそっと手を握り返す。
「大丈夫、俺たちがついてる。誰もお前を傷つけさせない」
彼女はかすかに頷き、視線を下ろして歩き続ける。だが、通りの商人や通行人の視線が、まるで探るようにセレスを追っている気配があった。
心のどこかで、俺たちもこの街に潜む「視線」の存在を感じずにはいられなかった。
王宮へ向かう途中、怪訝そうに俺たちを見つめる貴族や衛兵の姿があった。
クロウが低く呟く。
「……なんか、俺たち、すぐにでも目をつけられそうだな」
エリスもフードを深く被り、目だけで周囲を警戒する。
「ここでは、魔力や血筋、身分だけで差別や監視がある。特に、セレスのような“特殊な力”を持つ者は目立つ」
セレスは小さく息をつき、足を止めた。
「……私、また“歌”を狙われるのかな……」
その声に、俺は強く肩を押して前に進める。
「心配いらない。お前の力を信じてる。そして俺たちも、お前を守る」
城門を抜け、王宮の広場に入ると、周囲には豪奢な噴水や装飾された彫刻が並ぶ。だが、その華やかさとは裏腹に、空気には冷たさと緊張感が漂っていた。
人々の表情の奥には、好奇心だけでなく、警戒と疑念が混ざっている。
その視線がセレスに向けられるたび、彼女は息を飲む。
そんな中、ふと広場の端に黒い影が走った。
「……何だ?」
クロウの剣先が光る。影はすぐに消えたが、確かに誰かが俺たちを監視していたのだ。
王宮の奥へ進む道は、ただの通路ではなかった。
壁には古い魔法陣の跡が残り、空気は重く、まるで時間が止まったかのような静寂が広がっている。セレスは足元を見つめ、手に汗を握る。
「……私、怖い……でも……行く……」
その決意を俺は静かに受け止め、そっと手を握る。
王都の影、そして禁書庫に眠る未知の力——それらに向かう前に、俺たちは互いの存在を確かめ合った。
前方、王宮の門の向こうに禁書庫への扉がちらりと見える。
その扉の奥には、セレスの失われた記憶と、世界の秘密が待っている——俺たちは、いまその入口に立っていた。
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